【感想・ネタバレ】死者の百科事典のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年04月05日

ユーゴスラビアの作家、ダニロ・キシュの短編集。
『庭、灰』『若き日の哀しみ』に続いて3冊目を読んだ。

既読の2冊がぽつりぽつりと語られるような自伝的小説であるのに対し、この9編は凝った技法の詰まった文章で、まるで全く異なった作者のようだ。
三島由紀夫的な耽美も感じるが、キシュの場合は美のための美し...続きを読むさにとどまらない。
どこかおどけたような冷めた書き方が、逆に哀しみを強調してくる。

タイトルとなっている「死者の百科事典」は、日本語にするとまるでホラー小説だが、そうではない。
主人公が父親の死後、その人生を尊び、百科事典を開くかのように一つ一つ詳しく振り返る、という内容だ。
ここで「死者」は、恐ろしいホラーなどではない。
命が尽きる直前までそこにいた、知人であり、家族である。

あるドキュメンタリーを思い出した。
それは、事故で息子を亡くした母親が、「私達が今あの子にしてあげられるのは、思い出してあげることくらい」と語った場面。
それがこの百科事典だと感じる。

「眠れる者たちの伝説」の臨死体験、「祖国のために死ぬことは名誉」の真綿で締めるような心理戦、「王と愚者の書」はこれから深く学びたいことの宝庫だった。
これほど多様の小説が詰め込まれた短編集は類を見ず、何度でも読みたい1冊。

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Posted by ブクログ 2019年08月22日

漸く読み終わった。300頁足らずの文庫本だが、1頁に収まる文字数がおそらく通常より多いので、500頁もの本を読んだ気になる。それと『若き日の哀しみ』の文体とは全く違うし、収録の短編それぞれの文体もそれぞれ異なる。さらに言えば、キリスト教・ヨーロッパ、特に東ヨーロッパ・そのロシア、ソ連との関係・作者の...続きを読む父親を殺したナチスドイツ・ユーゴスラビアなどの歴史と背景を知らねば、この本を100パーセント理解することは出来ない。それ故、これから読もうとする読者は、末尾の訳者・評者の解説を先に読むことをお勧めする。本書の内容には、直接ではないが現在の世界の極右化の傾向や、日本の現状と未来を暗示するものがあり、一種の警告の書とも読める。

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