【感想・ネタバレ】新しい1キログラムの測り方のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

時間や長さ、重さなどの基準が10億分の1程度かわっても日常生活には何の影響もない。が、単位と単位は相互に依存しあっているし、単位の定義の確からしさ以上の精度をもって物事は測定できない。メートル原器のように手で触れるものからより物理学的で世界中どこでも再現できる基準に変更していこうというメトロロジスとたちの熱気も伝わってくる本。
役にも立たない知識、と言ってしまえばそれまでだが、役にたたないことこそ面白いという好例。

・1メートルは北極点と赤道の間の子午線の弧の1000万分の一、1キログラムは水1リットル(1メートルが定義されると10cm立方の大きさも決まる)の質量、として1798年に定められた。1875にメートル条約が定められた時、子午線の長さを再測量しようという話もあったがこれまでとの整合性を重視して当時使われていたメートル原器の値を継承することにした。

・キログラム原器はその保管場所に三重の鍵がかけられており、それぞれ別々の三人が持つ鍵がそろわないと中にあることが確認できない、というぐらい厳重に管理されているが、1889年に作られて以来、50μg(おそよ指紋一個分)ほどの変化が生じているとされている(副原器との比較からの推測)。

原器から離れて定義を策定しようという時、重量を定義するためには2つの方法が考えられた。一つは既知の原子を多数集める(アボガドロ定数を正確に求める)、もう一つは電磁気力によって発生した力を用いるもの。
E=mc2を用いて
質量=プランク定数X電磁波の周波数/光の速さの2乗
ということもできるが、プランク定数を正確に求めることはアボガドロ定数を求めることと等価(両者の関係を表す式がある)

純粋な結晶での原子一つが占める体積は分かっているため、まず、シリコンの結晶を作ろうとした。シリコンには大多数を占めるシリコン28の他に29,30などの同位体がある。そのため、シリコン結晶をこのまま使っても制度は1000万分の1レベルが限界であった(キログラム原器は1キロ当たり50μgなので1億分の5)ため、制度が一桁不足している。

この問題の解決のため、冷戦の終結によって使わなくなった遠心分離機をロシアが提供することを申し出、シリコン28を濃縮するという国際プロジェクトが立ち上がった。
得られたシリコンの結晶を正確な球体に切り出す技術は日本とドイツのみが有しており、これでシリコンを切り出した。

その結果、「キログラムはプランク定数の値を正確に6.62607015X10-34ジュール・秒と定めることによって設定される」という定義ができた。

・温度は水の氷点が0度、沸点が100度、絶対零度がマイナス273.15度。しかし、氷点は実際は氷水が空気に触れている状態のため空気が溶けて凝固点降下などの影響があって安定しない。そのため、現在では水の三重点(固体、液体、気体の三相が存在することのできる温度)がを基準にとっているが、これはマイナス0.01度。なのでケルビンの一目盛りは273.15分の1ではなく273.16分の1。

・秒は最初、地球の自転(一日=86,400秒)をもとにしていたが季節変動や経度変動があるため1956年に地球の公転に基づく定義(1年=31,556,925.9747秒)に変更された。その後、原子周波数標準の研究が進み、1967年にはセシウム原子の固有の周期に基づく定義(Cs133原子の9,192,631,770周期)となっている。こうした定義の変更のたびに精度は二桁ほど上がり、現在の不確かさは10^-14のレベル

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2018年08月26日

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