【感想・ネタバレ】田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 タルマーリー発、新しい働き方と暮らしのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「腐らない経済」に対し、パン屋という職を通じて一石を投じた一冊(「腐る経済」の実現)。
改めて経済学の理論から、資本主義が何を前提に回っているシステムなのか、資本主義の中で労働者はどのように扱われているのか、といった点を紐解いてくれているため、理解が進んだ。
マルクス曰く、「生産手段」を持たない労働者は、自身の労働力/時間を切り売りすることでのみお金を稼ぐことができる。一方、労働者を雇用する資本家は、労働力への対価(=コスト)を見込んだうえで利潤を生むような仕組みをつくるため、他社との競争に勝つために商品価格を下げれば人件費を下げる・・・といったように本質的に労働者は資本家に従属することになる。本書の中では「「職」(労働力)を安くするために、「食」(商品)を安くする」(p.81)と表現されており、ストレートにサラリーマンであることの意味が整理された感覚となった。
伴い、著者は「生産手段」を持つために、田舎でパン屋を始める。そしてその中で、良い商品をつくるための試行錯誤や人との出会いを通じ、自分の中のこだわりを確立していく。その過程を一つのストーリーとして、自身の経験も顧みながら、楽しく拝読することができた。

特に印象に残った引用箇所は以下
・「労働者が、自前の「生産手段」をもっていたら、自分で「商品」をつくって売ることができる。それをもっていないから、労働者は、自分の「労働力」を売るしかない。そしてこき使われるのだ」(p.59~60)
・「今の時代は、ひとりひとりが自前の「生産手段」を取り戻すことが、有効な策になるのではないかと思う」(p.197~198)
・「「利潤は、次の投資のために必要だ」という話をよく聞くけれど、それは結局、生産規模を拡大して、資本を増やしていくためでしかない。同じ規模で経営を続けていくのに「利潤」は必要ないのだ」(p.208)
・「「内なる力」は、急には花開かないけれど、自分で自分を育てていけば、それがいつか花開くのだと思う。たゆまず、飽くことなく、自分を磨き続けていくことが、道を切り開いていく」(p.256)

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2024年04月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」

「まちづくり」「地域活性化」「共生社会の実現」…。
そういうテーマを掲げて取り組まれている物事に、違和感を感じることがある。
それって、本当に「まちづくり」につながるのかな?
一過性の盛り上がりで、本当に「活性化」するのかな?
障害のある選手のパフォーマンスを観ること、パラスポーツを応援することと、
社会を変えることは、どうつながるんだろう?

パン屋さんの本を読んで、違和感の謎が解けた気がします。

著者の渡邉格さんは、天然の菌でつくった酒種をつかって発酵をさせたパンをつくって売る「パン屋タルマーリー」の店主。
高校卒業後、紆余曲折して、25歳で大学に入学。
31歳からパンの修業をはじめて独立した人だ。
本書では、渡邉さんの人生の歩みを紹介しながら、
パンをつくることになった理由、
原材料、水、菌、働き方、暮らし方に関するこだわりなどが紹介されている。
効率的で利潤を追求するパンづくりではなく、
利潤を追求しないパンづくり(腐る経済)を大切にしている理由が解説されている。

渡邉さんは、次のように書いている。
田舎に暮らして5年あまり、「まちづくり」「地域活性化」の名のもとで、「腐る経済」とは正反対のことが行われている現実を何ども目にしてきた。
地域の「外」から引っ張ってきた補助金で、都会から有名人を呼んで、打ち上げ花火のようなまちおこしのイベントをやってみたり、地域の「外」から原材料を調達して、地域の特産物をつくったりする。
これでは地域には何も残らない。潤うのは、イベントを仕掛けた都会の人たちであり、販促やマーケティングが得意な都会の資本だ。
使われた補助金も、都会からやってきた連中のところへ流れていく。結局、「外」から肥料をつぎこんで、促成栽培で地域を無理やり大きくしようとしても、地域が豊かになることはない。むしろ肥料を投入すればするほど、地域はやせ細っていく。

ここで思ったのは、パラリンピックの関連イベントも「同じ」ということ。
「外」からのお金で開催されているし、
まさに「打ち上げ花火」みたいに思えるものもある気がするし、
大きな額のお金が動き、大規模な出来事が起こった結果として、何が残るのだろう、
たぶん、ほとんど残らないだろうなと思うからだ。

「パラリンピックを盛り上げよう」という時、
一体、何を「盛り上げる」のか。
パラリンピック開催で、「共生社会の実現を目指す」というけれど、
「盛り上げる」ことと、「共生社会」が、なんだか遠い。
「外」からでなく、「内」からのアプローチを考えないといけないし、
「内」からの小さなアプローチを実行して続けていくことしかない気がしている。

タルマーリーの渡邉さんは、発酵を通じてできる食(パンやビール)で「ほんもの」を目指すことで、
「外」からではなく、地域の「内」から「まちおこし」「地域活性化」にアプローチをしている。

ああ、ほんもののパン、食べにいきたい。
ほんものを目指す人たちに出会いたい。

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2020年02月24日

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