あらすじ
介護をはじめとした人材の著しい不足と劣化、大学の社会福祉学科への志願者の減少、目まぐるしく変わる制度、福祉思想の喪失。障害者差別解消法実施のように歓迎すべき話もあるが、全体として見れば福祉はすっかり壊れたといってよい。このままでは介護難民が溢れるのは確実である。しかしその危機感は、福祉関係者にも、行政にも、一般の人々にも見られない。まずは日本の現状を知り、危機意識を持つことが大きな一歩となる。福祉に携わって30年、介護施設での勤務経験も持つ大学教授が徹底解説。誰にとっても無関係ではいられない、必読の一冊。
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Posted by ブクログ
大変良かった、良書を越えて名著といって過言ではない。本書は主に現代の日本社会における介護福祉と障害者福祉(三障害のうちあまり精神は扱っていないようだが)の問題点を歯切れよく喝破してみせている。〈議論〉というものは反対者がいなければ、そして主張しなければ始まらない。誰かが啖呵を切って、このままでは駄目だ、と言う必要がある。本書はその役割を十分に果たしているだろう。
その他、日本全国民が考えるべきことだとつくづく思ったのが本書で言うところの慈恵思想、定義としては本書P.64の『「障害者はかわいそうだから助けてあげる」というような、憐憫の情からくる発想』という文章がだいたいのことを表していよう。もちろんこんな単純な話ではないが、障害者のくせに○○して生意気だ、という発想が差別的なのは言うまでもないが、障害者なのに△△できてすごい、と褒めたりするのも差別である、ということ。
もっともっと本書には厳しく耳を傾けねばならない現代の福祉への指摘が多数ある。
第一からして介護も障害も、誰にとっても他人事ではないことだという意識が健常者にないことが問題なのではないか、と私の個人的な意見になるが、そう考えている。誰でも年齢を重ねれば認知症になって介護が必要になる可能性が否定できないし、一方で本人に何の過失もない突然の事故あるいは病気によって身体に障害が発生する可能性だって否定できない。福祉が蔑ろにされ、あるいは軽視、蔑視されるのは、今の所は健康な人たちが福祉に世話になるなんてことは自分にはなかろう、と他人事のように思っているからなのではないか。
本書における貴重な耳の痛い指摘は色々な想いを、声を、意見を喚起させるのにじゅうぶんな役目を果たすだろう。美辞麗句で着飾ってばかりもいられない。障害者施設職員が障害者を虐待するケースが非常に多いことが本書の序盤で書かれてあるように、本書は読後感は良くないが、代わりに問題意識を持たせるには絶好のものだ。
本書が広く多くの人に読まれることを祈念する。