【感想・ネタバレ】「石油」の終わり エネルギー大転換のレビュー

あらすじ

●100年の節目。いまエネルギーが大転換の時期にある
中東の分割が決まったサイクス・ピコ協定からおよそ100年。その間、中東は「石油」という強力な武器を持ち、地政学上も重要な地位を占めてきた。
しかし、いまや石油は昔ほどの輝きを持たない。これまで何度となく言われた「枯渇」に直面しているのではない。別のエネルギーに主役を奪われる可能性に直面しているのだ。また、人々の環境・温暖化への意識が、全体のエネルギー消費量を押し下げている。石炭が徐々に石油にとって変わられたのと同じように、いまひとつの変革が進んでいる。

●いま何が起きているか。ファクトを積み上げた解説。
そういう大転換期に日本はどうするか。世界はどうしているか。海外企業はすでに一歩先んじて新市場の獲得に動いたり、エネルギーミックスのM&Aを仕掛けているが、日本はまだその取り組みの端緒についたばかり。
日本の商社はそのなかでもおしなべて強い。三菱商事のインドネシアのLNG開発、丸紅のUAEでの天然ガスの開発など、著者は実際に現地に行って取材。彼らのネットワークの作り方など驚嘆するしかないが、その様子をつぶさに伝える。
国家としてはアジア連携を考えるとき。インフラが弱いアジア各国を巻き込みながら、開発・備蓄も一体化して行うべきだろう。

中東の混迷、米国第一、パリ協定、原発など、世界で同時に進行する変化を、エネルギーというフィルターを通して執筆。日経の第一線の記者が「現場発」で解説します。

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Posted by ブクログ

「石油」の終わり エネルギー大転換。松尾博文先生の著書。地球環境や温暖化対策の点で問題がある石油の時代から、地球環境に優しくて温暖化対策にもなる再生可能エネルギー時代に向かうの流れはもう止められないし、世界の常識になっている。その具体的な中身が学べる良書です。

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2018年10月24日

Posted by ブクログ

この本を読んでいて強く感じたことは、今後のエネルギー分野におけるアメリカと中国の影響力の強さです。現在のエネルギー大転換の底流には、アメリカのシェール革命と中国の経済成長に伴うエネルギー消費量の増大があります。

シェール革命によりエネルギーの自給自足が見えてきたアメリカは世界の警察である必然性が少なくなってきていて、それが中東の騒乱にも繋がっています。もちろん、それは日本のエネルギー政策にも大きな影を落とします。今後は石油やLNGの多くを中東からの輸入に頼るのは大きなリスクにつながりかねません。

本書にもあるように、国の根幹をなすエネルギー政策は「安全、環境、経済性、安定供給の4つの要素の最適バランスを見つける」ことが重要になってきます。冷静に、そして長期的視点をもってこのエネルギーの最適バランスを見つけ出し、その実現に早急に取り組むことが求められます。

本書は国際政治の動向、国の経済といったマクロな視点だけではなく、電力会社、商社、エネルギー企業の取り組みなどミクロな視点もふんだんに取り入れられていて読みやすかったです。本書の著者は広範なキーパソンへのインタビュー、そしてエネルギー分野への造詣の深さ、そしてバランスのとれた視点で物事を見る力が傑出しているように感じられました。

本書は次のような人にとくにおすすめできます。

国のエネルギー政策に関わるような人
エネルギー関連のビジネスに従事されている方
投資家としてエネルギー企業への投資を検討(あるいはすでに投資)している人
国際的なニュースに対してより深く理解したい人

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2018年05月11日

Posted by ブクログ

電気自動車や中東の情勢、アメリカ第一主義等が「石油」を軸に語られている。現地取材による手触り感のある情報もあり、ちゃんとしたジャーナリストの本。環境問題だけではなく、政治・経済を含めた広い問題を把握するために、読む価値がある。

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2018年04月18日

Posted by ブクログ

エネルギー転換という名のパワーゲーム。でなければ、昨日までクリーンディーゼルというとってつけたようなトレンドをごり押ししてきた某地域が、手のひら返ししてEV化に舵きりしたりしない。

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2018年07月08日

Posted by ブクログ

石油業界に勤務していた、そして今はそこがお客さんである仕事を続けている私にとりまして、この本のタイトルは衝撃的で目を惹くものでありました。人類は長い間、木・木炭を使ってきましたが、蒸気機関の発明により石炭を、そして更には石油を使って現代に至っています。また当時の覇権国は、その生産が大きかった国が担っています。

本を読んでみると、「石油の終わり」というタイトルが、私にとっては少し誤解を与えるものでありました。本の中で十分に解説されていますが、石油の終わりとは、「石油の枯渇」を示すものではない、ということ。「石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない、それ以上のものが見出されたから、ヤマニ元石油相の言葉(p109)」ということです。

さらに、石油を売っている、現在の経済で大きな地位を占める石油会社の主要製品が「石油製品」でなくなる、ということを意味するようです。これには、石油エネルギーを現在多量に使用している、乗用車・商用車のエネルギーが、液体燃料(ガソリン、軽油など)から、電気に代わるということを意味するかもしれません。

私も数年前に日産のリーフをレンタカーで使用してみて、あまりのバッテリーの減りの早さに、これは自分では持ちたくない、と思いましたが、携帯電話の電池の減りが早くても使えているのは、どこにでも充電するスポットがある、また蓄電池を持っているからです。電気自動車もそのような工夫がなされることになると、最近では思うようになりました。

色々なことを考えさせてくれた本でした、以下は気になったポイントです。

・出光興産の創業家が昭和シェルと合併するのに反対する理由の一つとして、日章丸事件以来のイランとの親密な関係である、サウジ資本の入る昭和シェルに出光が合併するのは不適当である(p22)

・エネルギー消費に占める再生可能エネルギー比率は3%だが、この16年で世界で増えたエネルギー需要の約3分の1が再生可能エネルギーであった、中国では国内石炭の操業日を年間330日から、276日に制限する措置を導入、これにより石炭生産量が減少、そして、再生可能エネルギー消費量は、2016年には米国抜いて世界最大となった(p33)

・太陽光、風力を見る限り、発電コストは火力発電と同等かそれ以上の競争力を持つ、再生可能エネルギー比率は、ドイツで28%、スペイン40%、英国20%である(p37)

・シェールオイルにより米国の原油生産量は、12年日量600万バレルから、15年には960万バレルへ増えた、増量分はイラン、UAEに相当する(p66)

・シェールオイル減産により、2016年には底を打ったが、それ以降、2017年には15年レベルに回復した、理由としてOPECの減産合意により原油価格の高騰、シェールオイルが生産性を高める進化を遂げた、損益分岐点は、80ドルから50ドル程度になった(p71)

・米国では2021年までに、15年比較で1100万トン増となる、エチレン生産計画が進む、電炉大手のヌーコアは鉄鉱石の還元剤として石炭を使う高炉方式ではなく、天然ガスを還元剤に使う製鉄所をルイジアナ州に建設した(p75)

・米国はサウジアラビアからの原油輸入量が、2008年比較で2015年には3分の1減少した、ナイジェリアは99万バレルから8万バレルへ減少。この理由として、シェールオイルは軽質油でありアフリカ産出の原油と性状が似ているから(p77、78)

・欧州市場には、シェール革命に伴って米国という輸出先を失ったカタールが、LNGの販売攻勢をかけた、これにより割高なロシア産ガスの値引きを求める動きも表面化した(p80)

・カタールは、サウジアラビア・UAE・エジプト・バーレーンと、2017年6月に国交を断絶、空路と陸上の国境を封鎖した、イランやトルコはカタールを支持(p92)

・アブダビに2019年稼働する予定の太陽光発電所(スワイハン太陽光発電事業)は、25年間アブダビ水電力会社に電力を販売する。100万キロワットを超す巨大な出力と、1キロワットあたり3円を切る発電コストの安さ(p118)

・デンマークの、エルステッドは政府系のエネルギー会社は欧州で有数の石炭火力発電所事業者であったが、23年までにすべて全廃、洋上風力発電への事業転換を急いでいる。17年10月までにすべての石油・ガス関連事業の売却を終え、社名を変更した(p119)

・太陽光発電(事業用)のコストは2015年までの5年で、5~7割、陸上風力は7割下がった、15年には発電容量が1.5億キロワットに達して、石炭火力を上回った。日本はこのようになっていない、気候・国土の制約の日本固有の問題もある(p121)

・2016年の電力分野の投資額は79兆円、これに対して石炭などの化石燃料は25%減の78兆円で、初めて上回った。重要なのは、再生エネルギー投資の比重が途上国に移っていること、2015年には先進国を上回った(p125)

・中国は2019年から自動車メーカに、生産・輸入する乗用車の10%をEVなどの新エネルギー(NEV)にすることを義務付ける制度を導入する、16年には50万台であった販売台数を、25年には700万台に引き上げる。世界で200万台のEVを、40年には2.8億台に増えるとの見通しを、国際エネルギー機関(2017.11)を出した、1年前の見通しと比較して倍に増えた(p132、141)

・2016年、米国では天然ガス火力のシェア(33.8)は、石炭(30,4)を初めて抜いた、かつて5割を超えていた石炭は天然ガスに主役の座を明け渡した(p142)

・2013年に始まった、ボーグル原発とVCサマー原発はアメリカ国内では34年ぶりの新規着工であったが、VCサマー原発は半分ほど建設が進んでいたが、総工費が増えることがわかり、解体費用をかけても中止する方が良いと判断し、建設を断念した(p146)

・LNGプロジェクトは巨額の投資を必要とするので、長期契約(20年)や仕向け地条項(LNGの荷揚げ地を制限する)を設けてきたが、米国産LNGには仕向け地制限がない、取引慣行を変えている(p153)

・ドイツで電力市場の全面自由化は1998年4月、英国では99年、日本では電力小売りの全面自由化は2016年4月、都市ガス小売りは2017年4月、この年月が海外展開の差を広げた、2020年には電力会社の発電・小売り部門、送電部門を分離「発送電分離」、22年には都市ガス会社の製造小売り部門と、パイプライン部門を分離する「導管分離」により完成(p173、214)

・電気自動車がエコカーの勝者となるかは不明だが、20世紀の社会や産業構造を支えてきた自動車と石油の関係、発電所と燃料の関係は変質するだろう、石油は石油化学や航空燃料にも欠かせないので、エネルギー利用の主役ではあり続ける(p218,219)

・日本が今注力すべきは、蓄電池ではないか、現在は火力発電で補う再生エネルギーの不安定性は蓄電池が代替えするかもしれない(p237)

2018年5月27日作成

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2018年05月27日

Posted by ブクログ

日々考え続ける内容と同じ。
石油の終わりはまだである事を再確認。
そして日本がやるべき事は、変革。わかっているよね。

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2018年04月29日

Posted by ブクログ

日経新聞の論説委員が、世界のエネルギー市場の大転換の様子を解説している、2018年の本。ここ100年くらいはエネルギー源の調達が重要な国家戦略であることに変わりがない。昨今ではその主役が石油から変わりつつある(変えなければならない)ことに各国が官民揃って必死に取り組んでいる。

国家戦略であるが故に、政治と政争、さらには戦争にどうしても繋がってしまう。経済性や安全性などの理想像を追うだけではダメで、国内外での壮絶な駆け引きが展開されている。

日本はそうした国際間の駆け引きにだいぶ出遅れているようだ。鍵を握るのは数々のリスクを負いながらビジネスモデルの転換を図って成長してきた商社の力だが、やはり国家の道筋を示す政治の力が重要だ。

エネルギーの調達をしたたかにやりつつも、海外依存度を下げるための技術革新を進めないと常に足元を見られてしまう。もはや「カネさえ出せば買える」時代が終わっている。

エネルギーと並んで大切な国家戦略は、食糧調達だろうか。食糧調達に関する世界の流れの本も読んでみたい。

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2022年05月15日

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