あらすじ
GHQに抗い、「埋もれた日本」を取り戻す――。京都学派の一人として知られ、『風土』『古寺巡礼』『日本精神史研究』などの名著を生み出し続けた「知の巨人」和辻哲郎。明治22年生まれの和辻は、大正から昭和、敗戦に至るまでの激動の時代を生きた知識人であった。敗戦後、占領政策によって日本の伝統精神は崩壊の危機に瀕した。さらに言えば、戦前から戦争に至る流れの中で、日本人自らが、伝統と誇りを見失いつつあった。そんな中、鈴木大拙、南原繁、折口信夫、近衛文麿など大正教養派の多くの人々は時流に流され、変節していった。しかし、伝統衰退の世相に立ち向かい、節を貫き通した知識人もいた。その代表格こそ、和辻哲郎である。なぜ和辻は、激動の中で「不動の指標」たりえたのか。危機の時代に、日本人はいかに日本の伝統精神を取り戻すべきかを、知の巨人・和辻哲郎を通して知る。
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Posted by ブクログ
小堀先生一流の見識がいかんなく発揮された著作である。ただ、和辻哲郎に焦点を絞ったというよりは、敗戦の結果豹変した知識人に対する異論を強く表明したというほうが適切と思う。
Posted by ブクログ
著者は、大正期から終戦直後にかけて、知識人たちが伝統を忘却したために時代の移り行きを正しく認識することができずにいたことを批判的な観点から論じています。同時に、日本思想史を独自の立場からとらえていた和辻哲郎の状況のなかでの発言に、一定の留保を置きつつも評価しています。
著者はまず、ポツダム宣言の受諾による「無条件降伏」について、和辻や徳富蘇峰、鈴木大拙といった知識人たちがおこなった言説を参照し、正しい歴史観を忘却してしまっていると批判します。つづいて、大正教養主義における伝統の欠如を批判し、そこに共産主義からの影響が色濃く存在していることを指摘します。
次に著者がとりあげるのは、いわゆる統帥権干犯問題や天皇機関説問題などです。ここでは、頼山陽の『日本外史』などにつらなる伝統と、佐々木惣一に代表されるアカデミズムにおける明治憲法の解釈を統一的な視座から考察することで、問題の所在を解明しています。
最後に著者は、和辻が戦後になって刊行した『埋もれた日本』をとりあげ、佐々木惣一やアリストテレス研究の泰斗として知られる安藤孝行らとの論争を通して和辻が提示した、国体と天皇をめぐる考えに立ち入った検討を加えています。
和辻が中心的にとりあげられているとはいえ、彼の日本思想史観に踏み込んだ議論がなされているわけではなく、やや期待はずれの感があります。とはいえ、明治憲法と伝統思想をつなぐいくつかの補助線の存在を教えられたという点では、勉強になりました。