【感想・ネタバレ】名作をいじる 「らくがき式」で読む最初の1ページのレビュー

あらすじ

漱石、太宰、谷崎、乱歩……文豪の名作に「らくがき」をしたら、小説のことがもっとわかった!
東大の先生が考えた、新しくておもしろい読書入門

有名作品の書き出しには、読書のヒントが必ず隠れている。
最近読書をする時間がない......そんな話をよく聞きませんか? 忙しいなら、まずは最初の1ページを「いじって」みればいい!

本書では、名作の最初の1ページをとりあげます。1ページだけでも、名作には気になるところがたくさんあります。そこに容赦なく、思ったことを書き込んでいく! これが、東京大学で教える阿部公彦が編み出した「らくがき式」読書法です。

自由に「らくがき」していくうちに、いつの間にか名作の新たな魅力に気づいて、読む手が止まらなくなっていく......レポートや読書感想文にも使える、全く新しい小説との向き合い方がわかります。

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Posted by ブクログ

名作の書き出しを引用し、傍線や書き込みでツッコミを入れていく。

そのツッコミに、いちいちハッとさせられる。
この筆者のヨミは只者ではない。
小説を読み込むとはこう言う事なんだな。

こう言う読みこむセンスというか、修行ができている人は、小説読めば読む程、どんどん小説の味を噛み締められるんだろうな。

筆者を尊敬してしまいました。

例えばの本文からの引用
____

林芙美子は一見、この「ドライで切り詰めた文章こそが名文だ」という考えを実践しているように見えるかもしれません。でも、実際には冒頭に歌を引用し、しかも未練たっぷりにその歌から距離を置こうとすることで、かえってドライな文章が隠しもつ歌への憧れを漏れださせているとも見えます。『放浪記』の冒頭が力を持つのは、、歌を前にして頑張って「散文」で居続けようとする語り手の、その「がんばり」の過剰さに忍耐と義望とが見て取れるからです。

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2021年02月09日

Posted by ブクログ

文学の先生による、文学作品のよさを伝える方法を提案する本、といえばいいのか。
近代文学の名作の冒頭に「らくがき」を書き入れつつ、その作品の特質に光を当てていく。

夏目漱石『三四郎』『明暗』
志賀直哉「城の崎にて」「小僧の神様」
太宰治『人間失格』『斜陽』
谷崎潤一郎『細雪』「刺青」
梶井基次郎「檸檬」

ここらあたりは、ド定番。

江戸川乱歩『怪人二十面相』

といったところで、ちょっとびっくり。
その後のセレクトは以下の通り。

森鴎外『雁』
芥川龍之介「羅生門」
葛西善蔵「蠢く者」
堀辰雄『風立ちぬ』
林芙美子『放浪記』

たしかに、作品の冒頭は、作家が気合を入れて書く(と思われる)ところ。
そこに、筆者はその人らしい何か、その作品特有のものを掬い取っていく。

例えば志賀直哉の「城の崎にて」。
私小説なのに、「私」が出てこない。
「私」を語るのが私小説なのは当然だろう、というふてぶてしさと、つっけんどんさの中で、語り手が探り当てるのが「淋しさ」という感情で、ここで語り手は男らしさや自我のあがきから解放されるのだ、と筆者は説く。

あるいは芥川龍之介の「羅生門」については、冒頭からやけに論理的なつなぎの言葉を多発する語り手の姿を指摘する。
その嘘くささを発散する語り手が、逆説的に作中にフィクションでない次元を準備し、下人が内面を持った近代的個人として立ち現れてくるようになる―のだとか。

『細雪』に関して、病気の話が目立つように描かれることについて指摘されている。
病気が登場人物同士の意図の読みあいにつながり、それが読者の感情移入を誘って、筋の起伏のないこの小説の山場を作り出していくという指摘は面白い。

筆者の手さばきがとても鮮やかで、ほう、そうなのかと思わされながら読み進めた。
とはいえ、ちょっと強引ではないかと思う部分も多い。
語り論や物語についての知見が先にあって、そこに当てはまる部分をすくって力技でつないでいる感じを受ける。

最後に、「らくがき式」練習シートがついている。
筆者とは全く違う書き込みになることは間違いない。
ただ、そこからその作品のよさを引き出せるかはいたって疑問。

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2025年06月08日

Posted by ブクログ

文学者による、小説の読み方が分からない、という人に向けた読み方指南書。とは言いつつ、やっていることは、とてもお手軽で、より本を面白く読む上でとても参考になった。

著者は、小説を読むときの方法として、本文を「いじる」ことをお勧めする。ここで言う「いじる」というのは、思わず「なんじゃこりゃ?」と言いたくなる部分に、鉛筆で記しを付けて、どこがおかしいか、忘れないようにコメントを書き込むこと。難しい小説ほど、意味が分からず、先に進むのが面倒くさくなってしまうのだが、まさしく、そうなってしまう原因の部分に「どうしてこんなふうになっているんだろう?」「どうしちゃったの?」という疑問をぶつけて、その異様さを楽しもうと言う。

この「いじる」ということに関して、著者は「内容を読んで味わうとか、考えるとか、批評するといったややこしいこと」ではなく、「読む以前の行為」だと言っている。本書では、著者が実際に、名作の最初の1ページを「いじって」、そのいじりに対する自分なりの答えを解説している。プロが小説を批評するときに、その手前でやっていることを見せてくれていると言う意味で、面白かった。
小説をちょっと背伸びして読みたい、そんな人に読んでもらいたい。

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2023年08月16日

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