【感想・ネタバレ】大学とは何かのレビュー

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Posted by ブクログ 2022年03月23日

大学の系譜的解説。実は大学も多義的なことが理解できた。かなり中身が厚いので再読の価値あり。一応世界史、メディア、リベラルアーツの軸があるらしい。
①中世大学
欧州経済圏の中の自由都市に流浪の知識集団が定着したのが始まり。ボローニャに代表されるように法学(医学)が優越するが、アリストテレスのイスラム再...続きを読む輸入で神学(学芸諸学)のパリも発展。しかし托鉢修道会の浸透と宗教・領主による分割で大学が硬直し衰退。
②国民国家による再発見
専門学校・アカデミー(実学研究)・印刷革命による出版(知識人網)産業の中、独でカントの「理性と有用性の峻別(哲学の理性の自由)」と共にフンボルトのナショナリズムを背景とした主体的国民育成の為の「研究と教育の統合(=文化)」による個人陶冶が大学を甦らせた。英国では「リベラルな知」として哲学が文学(シェイクスピア)と理学に分割され、米国は大学院(学位制度)を作った。
③帝国大学
啓蒙ナショナリズムから儒学国学に代わって洋学が導入し、実学中心の官立専門学校を統合した「天皇=帝国」の大学として帝大が設立された。主導者森有礼の思想に天皇制とプロテスタンティズムの結合体のもとで国民は主体化する事があったのは面白かった。帝大が広がるにつれ、東大は管理、地方帝大は社会設計、植民地帝大はその両方の分科大学が設立された。また、福沢諭吉の流れを汲む私学や岩波中公の出版業が帝大システムと結合し、教養読者層に支えられた創造知空間(吉野作造等)を形成した。
④戦後大学
南原繁は専門知と総合知の統合を目指し、旧制高校を廃止した。が、大学モラルは崩壊し、対抗運動としての学生闘争も潰えた。高度成長に伴う大学大衆化と理念の矛盾は46答申以後も規制緩和やサービス産業化に於いて継続し、公社構想や法人化、大学院の問題、「学生が大学を選ぶ」などでも噴出した。底流には大学の意義問題があった。筆者は、国家・企業社会に次ぐものは何なのか問題提起している。キーワードは国民国家の退潮とデジタル化(→空間的拘束からの解放・中世大学への再移行)、卓越性(→思想的拘束からの解放?)である。

終章が非常に難解(特に脱指示化あたり)だった。エクセレンスとリベラル知の関係は表裏一体と感じたが、違うのだろうか。

自分はコスモポリタニズム的な考えに懐疑的なのだが、一方で多国籍企業・大学を含めた一大市場が形成されているのは理解できる。しかし、教える側と一部の知識層はその波に乗れるだろうが、大衆はどうなるだろうか。大衆教育という役割を大学が担ってしまった以上、トップ大学とその他で分断が生じてしまわないだろうか(G型L型)。国民国家が希薄になったとして、世界規模の新階級が形成されたらそれはそれで怖い。そうしたときに中世大学の結末が気になりもう一度最初に戻り、歴史の循環性を疑うのもなかなか面白いものである。2021/1/23

(注:その後丸山眞男の議論を読み、本書の議論の流れが丸山の議論を踏まえていることがわかった)

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Posted by ブクログ 2021年11月23日

「大学」という定義が歴史的にいかにゆらぎ、崩壊し、形を変えてきたのかを概観できる。「大学とは何か」に答えることではなく、この問いが成り立つ複数の地平の歴史的変容を捉えた本。
あとがきでは、大学は自由を基本原理に据えたメディアだと定義。
Keyは、「自由」やキリスト教思想、大学と出版文化の関係、にあり...続きを読むそう。
印象的な問いは「大学は誰のためか」。

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Posted by ブクログ 2021年09月19日

大学の歴史を俯瞰して、大学とは何か、という問いに迫る。
大学は中世ヨーロッパに端を発し、都市を基盤にして発展する。
しかし、16世紀以降に印刷技術が発展し、越境的な知のネットワークを構築する。大学はこれに取って代わられる。
19世紀になると、ナショナリズムを背景に研究と教育の一致という理念をかかげた...続きを読む国民国家型の大学が誕生する。翻って日本では、明治維新期に分野を先導する各国の学者を呼び、ひたすらに学知を移植する。そして戦後の複線化されていた高等教育機関の大学への一元化、大学紛争の混錬、文科省の大綱化、大学院重点化、国立大学法人化の施策について触れる。
これらを踏まえ、大学とは何かといことを考える際、筆者は1.国民国家が退潮する方向に向かっていること、2.今後数十年、数百年にわたり人類が取り組むべき重要課題は、もはやどれも国境を越えていることを指摘する。大学とは自由の意志であるが、資本主義もグローバル化も重層的な一元的でない知的運動を旋回させている中で、開発や発見だけでなくマネジメントにも注力する専門知の在り方の模索を説く。
この本が執筆されてから10年を経ているが、コロナ禍により大学の在り方がまた大きく変容した。早いうちに『大学は何処へ』を読もう。

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Posted by ブクログ 2017年05月30日

中世のボローニア、パリ大学に始まり、イギリスのオックスブリッジ、そして19世紀のドイツでナポレオンの仏に押される中で、知の先進国としてのフンベルト大学の隆盛、そして20世紀はジョンズ・ホプキンス大学から米国の時代に。中世から近代にかけて大学が衰退し、近代知のパラダイムが浮上した時代があった!大学が学...続きを読む問的想像力を失い、古臭い機関に成り下がった時代があった!デカルト、パスカルスピノザなどが大学と縁があったのか!との指摘は興味深いものがある。日本の大学がドイツのフンベルト型大学をモデルに帝国大学を導入したとのこと。森有礼の理想、そして戦後は南原繁の考え方とプロテスタンティズムが日本の大学の方向性決定づけたと言うことは興味深い。市立大学の全盛から今日の市立大学の危機の時代を迎え、このように原点に立ち返って大学を考えることは重要なことだ。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2017年05月02日

大学を「コミュニケーションメディア(=媒介)」の一種と捉え、大学再定義を試みる。しかし、大学は「何々である」という普遍的な定義ではない。中世の都市、活版印刷(出版)の出現、近世の国民国家の出現と共に大学の定義は揺らいできた。ネットの出現により、メディアとしての大学の位相も劇的に変化しつつある。現在の...続きを読む最も大きな位相の変化は「国民国家の退潮」である。そして、国民国家の中で設立された旧制大学(特に帝国大学)モデルは、大きな転換が求められている。そのキーワードは「マネジメント力」であるようだ。
教育面でのマネジメント力の強化のキーワードは、「リベラルアーツ」である。従来の「教養」とは異なる、「リベラルアーツ」を中世のそれをモデルにして再構造化するというものある。つまり、上級学部である「神学も法学も医学も秩序の知で、様々な矛盾がひしめき合う中で、いかに秩序を保ち、その状態をマネジメントしていくかという問いに対する答えを、神の秩序と社会の秩序、そして人体の秩序の3つのレベルで提供してきた」が、ここで生じる「諸々の矛盾する要素を総合的に結びつけ、安定的な秩序を創出するマネジメントの専門知」としてのリベラルアーツに注目し、次世代の専門知として求められるのは、「すでに飽和しかけている知識の矛盾する諸要素を調停し、望ましき秩序に向けて総合化するマネジメントの知」であり、その再構造化としてのリベラルアーツの必要性を訴える。確かに中世の大学では、学生や教師の移動性や共通言語を有していた点も、現代の大学に通じる。グローバルな社会の中で、中世の大学の成功と失敗から学べる点は多い。

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Posted by ブクログ 2012年03月08日

中世から現代に至る高等教育の歴史を辿った本。
大学について語るためにまずは歴史から知りたい人にオススメ。
特に日本の現代史を綴った四章が面白かった。

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Posted by ブクログ 2022年05月29日

半分が西洋の大学の歴史で、残り半分が東大中心の帝国大学の話である。教員養成大学についてはほとんど説明していないので、東大生向きの大学の説明となろう。

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Posted by ブクログ 2020年08月09日

大学の歴史をなぞるのに役立った。大学は普遍的なようであって実はそうではなく、時代や環境の変化とともに変わっていることは大事な事実だと思う。これからの大学がどうあるべきかは過去の延長上からは定義できないことだけはハッキリしたかも。

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Posted by ブクログ 2020年05月16日

・読み終わって感じたこと
 中世と現代が似ている点について、人の動きやグローバル化の視点から考えるることは面白く感じた。浅い感想になってしまうが、少しずつ変わりながらも大きな流れとしては歴史が繰り返されているように思えた。
 様々な国・時代で理想とした教育や国家像があったことを知ることができた。
 ...続きを読む人類的普遍性への意志、というものが、大学を始めとする学問の本質だと理解した。
 

・面白かった点
 大学という機関を軸に、中世から近代、近代から現代にかけてのヨーロッパやアメリカ、日本の歴史を知ることができ、歴史物としても面白かった。
 学生運動により、学生が真面目になったという話も面白く感じた。
 

・好きな文章
 大学再生の原点に位置するカントは、〜神学部、法学部、医学部の三つを上級学部、哲学部を下級学部と名付け、〜その両者の間にある緊張感ある対抗関係が存在しなくてはならず〜
 
 今後数十年、それどころか数百年にわたり人類が取り組むべき重要課題は、すでにどれも国境を越えてしまっている。〜地球史的視座からこれらの人類的課題に取り組む有効な専門的方法論を見つけ出すことや、それを実行できる専門人材を社会に提供することが、ますます大学には求められていくであろう

 次世代の専門知に求められているのは、まったく新しい発見・開発をしていくという以上に、すでに飽和しかけている知識の矛盾する諸要素を調停し、望ましき秩序に向けて総合化するマネジメントの知である。


・おすすめする人
 文系や理系というくくりにもやもやを感じている人
 日本の大学に疑問を持っている人

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Posted by ブクログ 2015年11月04日

骨太な大学の歴史。世界と日本に大きく分けられるが、特に日本の歴史がリアルだ。自由に問いを発する大学の存在は稀有。それを制度的、財政的な、裏付けを持って、長期的な計画を立てることが必須。

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Posted by ブクログ 2015年06月27日

大学の誕生と死、その再生と移植、増殖といった世界史的な把握により、大学とは何か、あるべき大学とはいかなるものか、を考察している。また、コミュニケーション・メディアとしての大学という場を考えるところや、リベラルアーツと専門知の関係についての新しい認識の地平を提供するところに本書の特色がある。
大学の歴...続きを読む史を世界史的に振り返ることにより、本書では、「中世的大学モデル」、国民国家を基盤とした「近代的大学モデル」、「帝国大学モデル」、近代的大学モデルから派生した「アメリカの大学モデル」といった大学の理念型を抽出する。そのうえで、国民国家の退潮が進む現代においては、国境を越えた普遍性への指向を持ち、横断的な知の再構造化をはかる場としての「ポスト中世的国家モデル」が大学のあるべき姿ではないかと主張している。そして、エリート主義の「教養」ではなく、専門知をつなぐリベラルアーツが重視されるべきとしている。
著者の考える「大学とは何か」という問いへの答えには、共感するところが多いが、その理念を、今、爆発的に増殖している大学のすべてに適用しようというのは無理があるのではないかと思う。G型大学、L型大学の議論はいきすぎとしても、今よりも数を絞った本来のあるべき姿の「大学」を目指す大学と、職業訓練に主眼を置いた大学(大学という名称を残すかどうかは検討が必要)への分化を軸に高等教育機関の再編成が必要ではないかという感想を持った。
本論とは外れるが、本書で紹介される大学の歴史におけるエピソードには興味深いものが多かった。例えば、東京大学の前身となりうる組織には、儒学を主とした大学本校、洋学を主とした大学南校、医学を主とした大学東校があったが、本来、メインとなるはずの大学本校は、儒学派と国学派の内部抗争で自滅して、大学南校と大学東校の合同だけで東京大学が誕生したといったエピソードといったものだ。
本書は大学について考えるうえで、なかなかの良書だと思うが、やや議論が観念的・理想論的に過ぎる気はした。本書の議論を実際の大学改革などに活かそうとすれば、もう一段階のブレイクダウンが必要だろう。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2014年03月16日

中世の大学の起源から、フンボルト型大学、帝国大学、戦後型大学と、その設置形態、目的、理念の変化をたどる。現代の大学がいくつかの改革を経てなお、70年代に提起された問題に完全に答えられていない、という指摘に頷かされる。

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Posted by ブクログ 2012年10月19日

新書を読んで、知的好奇心を味わいたい人には
ぜひ読んでもらいたい作品です。

僕自信、新書を読んで久しぶりに興奮しました。

「大学」の歴史的な変遷を丁寧に辿りつつ、
いま現在抱える問題、その未来像まで語られた本書。

いわゆる「大学問題」自体はメディアを通じて得る程度の知識しかない
僕のような人間...続きを読むでも分かりやすく、かつ面白く読みました。

特に、中性以降、存在意義を見失ってゆく大学が
近代国家成立とともに価値を見いだされ、復活してゆくくだりや、
大学の没落と新しいメディアの誕生の関係性などの部分が
とても印象に残ってます。

また、僕はこれまで、なんとなく今自分達の目の前にある
大学のスタイルが古くから連綿と続いているイメージを
持っていました。なんの疑問も持たず。

本書を読んで、同じ「大学」という言葉でも
それが現す状況というものは時代・地域によっても
違うという、極めて当たり前なことに気付きました。

安易に言葉のイメージに流されてはいけない、
ということも、本書を読んで得た教訓でした。

今年読んだ新書の中では有数の面白さでした。

おすすめです。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2012年03月19日

最初は非常に難しい(とわたしは感じた)昔の海外の大学の出来かたやいまの日本の基礎になった帝国大学のできかたなどについて非常に学問的に解説している。

戦後の大学改革について、筆者は「たくさんの分野を結びつけるのが真の教養主義」と言っていて、現在の日本の大学のもとになった部分を痛烈に批評している。つ...続きを読むまり「大学は真の大学の体をなしてないのではないか?」ということを読み取った。
大学紛争と最近の大学改革についても言及している。

それでも大学は必要、でももっと頑張らなきゃね、という筆者の言葉には、もっと頑張らなきゃなと思わせてくれる。大学に関わる中級者向けかな。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2012年01月15日

岩波書店でこのタイトル。
しかも著者は教育学者ではない。
興味津々で読んだ。

目次だけ見ると「大学の歴史を振り返るのか」と思われたが、「メディアとしての大学」の視点があるため、これまで知らなかった大学像が立体的に浮かびあがってくる。

・キリスト教は、日本の大学システムの形成期と転換期の二度にわ...続きを読むたり、ペリー提督やマッカーサー元帥以上に大きな役割を果たした (P186)

・(国立大の法人化について) 財務構造にすでに劇的な変化が生じているのに比べ、組織運営のあり方があまり変化していないように見える最大の理由は事務組織や職員の意識と能力が新しい体制に追いついていない点にある (P231)

・現在の状況に有効に介入しうるような新しい大学概念を、歴史と未来の中間地点に立って再定義していく (P239)

・ グーグルやアップル、フェイスブックといった新たなネット上の知識システムに対し、大学という相対的に古い知識形成の場が何を固有にできるのかを明らかにせざるを得ない時が来ている (P249)

など、多くの箇所を備忘録に留めた。

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Posted by ブクログ 2012年01月04日

限られた紙幅のなかで大学の起源と変遷の歴史がコンパクトに概観された上で、深い洞察と重たい問題提起がなされている。「未来に向けて命がけの跳躍をしなければならない」(p239)との言葉には痺れた。大学関係者必読の書。

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Posted by ブクログ 2011年10月21日

読むのに時間がかかりましたが大変勉強になる一冊でした。
大学4年である今更になって、もっと早くこの本に出会いたかったと思います。(もっとも、出版自体今年ですが)

なぜ大学に来たのか、なぜ今いる大学を選んだのか、なぜ今いる学部を選んだのか。
そもそも、なぜ大学はあるのか、大学とは何なのか。
そういっ...続きを読むたことを考えさせられます。
大学生必読の書だと思います。

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Posted by ブクログ 2023年03月21日

世界(欧米)の大学の歴史と日本の大学の歴史。それぞれに国家や宗教,産業,民衆との関係が表れる。
日本の学校制度(大学)も始めから今のような仕組みではない。江戸時代→明治維新→産業殖産・富国強兵→世界大戦→アメリカ占領→学生運動→人口動態に合わせた対応→グローバル(米国)スタンダードへの表面的追随→?...続きを読む
本書は大学とは何かについて大学教育に関わる人が知っておくコモンセンスかも。

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Posted by ブクログ 2021年08月13日

中世ヨーロッパからの大学の起源から、歴史的な大学の成り立ちや変遷を、その時々の時代背景や多大な影響を与えたキーマンなども含めてしっかりと述べられています。中世はさすがにイメージしづらいですが、後半の明治維新以降の帝大や私大の成り立ちやその後の臨教審・大学審議会を受けての環境変化は興味深く、そして今の...続きを読む大学が抱える問題は簡単なものではないことがあらためてわかりました。
自由を基本原理として、人と人、人と知識の出会いを持続的に媒介するメディアが大学であり、自由の空間を創出し続けなければならない、と述べられています。
大学を取り巻く状況は危機的ですが、それを乗り越えていくこともまた、大学の使命だし、大学に関わる人だけに任せるものでもないという気がしました。
読破はかなり難解でした。

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Posted by ブクログ 2014年08月05日

中世ヨーロッパを起源とする大学の歴史をコンパクトに解説.全4章構成で前半2章がヨーロッパ,後半2章が日本の大学を取り上げる.
具体的には1章が中世ヨーロッパの古典的大学モデルを提示し.2章が近代ドイツを舞台として,フンボルト理念とそれに基づく近代型大学の誕生を描く.
一転して3章では明治維新により近...続きを読む代化を目指す帝国日本が,当時先進国であったヨーロッパからいかにして学術体系,いいかえると知を輸入しようとしたのかを,帝国大学の誕生から叙述する.4章では敗戦によって崩壊した帝国日本がいかにして新生民主国家として再生するのかを,その一方で大学が戦前からの連続性を維持し,結果60年代末の大学紛争において事実上の解体を迫られていたことを指摘する.

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Posted by ブクログ 2014年01月13日

中世の大学の起こりから、現在に至るまで、大学の歴史を知るには情報がコンパクトにまとまっていて良かったです。天皇の大学、「天皇のまなざしと国民の知性が遭遇する場所」としての帝国大学の「帝国」が、明治初年岩倉使節団が日本に招聘した学監が日本のことをエンパイアを読んだことがきっかけでそれを文部省が「帝国」...続きを読むと訳して定着してきたという話にはへえと思いました。グローバル人材育成の文科省のかけ声が大きくなる以前の出版ですが、今日的な人類の課題(環境、エネルギー、貧困…)が、国境を越えた課題であるがゆえに、国民国家と一体の大学からこれらの課題解決に貢献する大学へ変わる必要がある指摘を覚えておきたいと思います。おわりににある「大学とは、メディアである。」のとおり、大学とは何かと問いは、その時代と課題と大学の持つ実験の場において出てきたものにより答えが変っていくものなのかなと思いました。

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Posted by ブクログ 2011年09月21日

本書は2つの読み手によって異なる印象を持つだろう。高等教育の入門の段階で読む場合は、「より抜いたポイントの集約」かなと。多少高等教育をかじってから読む場合は、「いつまで先行研究のレビューまで続くのか、と思っていたら終章になってしまった」と思うかもしれない。

新書1冊に日本大学史を総覧した価値はある...続きを読む。参考文献リストも学習者に役立つ。ただ、筆者の考える新しい主張が終章の一部くらしか見当たらないのは、少し寂しい。教育学を専攻としない情報学環の先生だからこそ、このような本が書けたのかとも思う。2時間で日本の大学の誕生から今日までをかけ抜けることができる意味は大きい。

印刷技術の発展に伴う書物の爆発的な出版、インターネットによる知の洪水という各メディアが大学に与えた影響に触れられている。メディア論としての大学論を今後期待したい。

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Posted by ブクログ 2011年09月16日

研究とも関連して興味あるテーマなので面白く読んだ。
ヨーロッパにおける大学の成り立ち(1章)から国民国家と大学の再生(2章)、舞台を日本にうつして帝国における大学(3章)、戦後日本の大学改革(4章)という今までの、最後の章では「それでも、大学が必要だ」とのタイトルで今後の大学のあり方に関する提言が書...続きを読むかれている。

今後の日本に置ける大学の形を考える時、既存の大学概念の中で中世の都市ネットワークを基盤にしたポスト中世的大学モデルが参考になるのではないかと提言している。その理由として、1、世界で多数の大学が国境を越えて都市間で密接に結びついていること、2、高等教育のアメリカ化の中で
学術言語としての英語の世界化がおきており、北東アジアなどの近隣諸国の学生と知的交流をすすめるのにも英語でのコミュニケーション能力が必須であり、それを単純な英語支配と捉えず共通言語以上の可能性を持ったものとして認識することが重要であること、3、今後人類が取り組むべき課題はすでに国民国家の枠組みを越えており、ナショナルな認識の地平を超えて地球史的視座から人類的課題に取り組む専門人材を社会に提供することが大学に求められていること、などを挙げている。(pp.240-243)

面白いのだが、取り立てて目新しいものではない。
それよりも、未来の完全なインターネット社会で大学が生き残ることができるのか、との懸念をぶっこんでたことには、その懸念は理解できるもの、もう少し大学がキャンパスをもち、人と人との直接的な交流が生まれることの意義を聞きたかったなあと思う。最近のキャンパスの国際化や、地域連携などの点についても触れてほしかった。そして、すべての大学教員がマイケル・サンデルのような「白熱」議論ができるわけじゃない、という部分には素直に笑ってしまった。

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Posted by ブクログ 2011年08月09日

この新書版一冊で、中世の大学誕生から、アリストテレス、カントから・・・、またまた1960年代の大学紛争、さらに国立大学の法人化まで、なんと、すべてが網羅。これ一冊で、大学のことならわかる・・・という本。大学とはメディアである。これが著者の結論。共感を覚えますねぇ。

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