【感想・ネタバレ】兵隊になった沢村栄治 ──戦時下職業野球連盟の偽装工作のレビュー

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Posted by ブクログ 2018年08月14日

沢村栄治といえば、「昔、大活躍したが、戦争で亡くなった投手」くらいしか知らなかったのですが、3度も出兵していたとは…。戦争で投手としての腕を見込まれ、手榴弾を投げ続けたことにより肩を痛め、軍隊生活により心身ともに兵隊として作り変えられたことにより、野球に復帰後は以前の豪速球は見られなくなり、成績不振...続きを読むで野次を飛ばされ…というエピソードを読むと、沢村賞の重みをズッシリ感じた。副題である職業野球の誕生や、昭和19年の11月まであらゆる策略で野球が続けられた背景に多くのページを使われていた。

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Posted by ブクログ 2017年02月04日

 「××の××さん、召集令状が参りました。直ちにおうちへお帰りください」
 戦時中、プロ野球の試合を中断して競技場に響いたアナウンスだそうだ。戦争に関する本を読むといつも思うことだが、戦争は必ず、予想不能の事態を引き起こす。例えば第二次大戦末期、兵士用の毛皮の足しにするため、家で飼っている猫と犬は強...続きを読む制的に供出させられ、撲殺されたが、開戦当初、飼い猫や飼い犬にこんな悲劇が降りかかることを予想した人がいただろうか。
 戦争は誕生したばかりのプロ野球にも荒唐無稽な要求を突きつける。本書は、プロ野球そのものの解散を含む政府のそうした要求に、協力するフリをしながら抵抗した野球界の様子を描いたルポである。沢村栄治はもちろん随所に出てくるものの、決して一人の選手だけを取り上げて書いているのではない。「戦時下職業野球連盟の偽装工作」という副題の方が、本の題名としてはむしろ相応しい。
 戦時下、野球界は時勢に合うよう様々な「改革」を行う。例えば、死ぬまで戦えという軍の要求に合わせて引き分けも9回裏の×ゲームも廃止、これにより決着がつくまで延々と延長戦が行われるようになった。英語由来または、英語を連想させる用語はすべて言い換えた。これによりロシア出身の投手スタルヒンは「須田博」と改名させられた。また、試合前には選手が軍服を着て手榴弾を投げる競技を行うようになった。
 野球界のこうした変更は一見「自発的に」行われた。しかしこれらの「改革」は、全面的に協力しているように見せかけるための偽装であり、その裏で野球界は選手が戦地へ送られないよう、工夫を凝らしていた。例えば、大学生は徴兵が猶予になることを利用して、選手を日大の夜間部などに入学させ、大学生にしてしまう、などである。
 「ヨシ一本」(ストライクワン)、「ダメ」(ファウル)など、今考えるとばかばかしいような言い換えの裏には、プロ野球を愛する人たちの苦心、深い苦悩があったことを、この本は教えてくれる。
 「自発的な決意に期待する」今も昔も権力者の卑怯なところは、強制はしていないという形をとって、強制することである。現在マスコミは行儀よく「自主規制」し、原発にしろオリンピックの阿呆らしさにしろ、軍部に等しい現政権にマイナスになる事実はきちんと報道されない。もっと気概を持ち、誇りを持って、報道する者としての責任を果たしてほしい。この本を読んであらためてそう思わずにはいられなかった。

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Posted by ブクログ 2017年01月03日

昭和9年、ベーブ・ルースを中心とする全米野球チームを相手に孤軍奮闘した17歳の日本人投手、沢村栄治。将来、日本球界を背負うはずだった彼だが、3度の徴兵を受け、その才能をすり減らしたまま戦死する。本書はそんな悲劇のヒーローである沢村の生涯を中心として、戦時下の日本野球連盟が日本野球を守るためにどのよう...続きを読むな行動を取り、軍との関係を作ったのかをまとめる。

戦争の激化により野球どころではないという世論に対し、野球連盟は満州やフィリピンへの慰問遠征や試合前の手榴弾投げコンテスト開催などを実施し、敵国が使う横文字の野球用語を廃止する。こうした軍への協力姿勢を見せる一方で、選手を徴兵させないように大学へ入学させるという裏技も行っていた。

こうした手段を選ばず日本野球を守ろうという連盟の姿勢は、沢村栄治をはじめとする才能ある野球人を失ってしまったことの懺悔によるものなんだろう。沢村栄治の戦死は無駄死にではなかったと思いたい。

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Posted by ブクログ 2019年01月01日

 沢村栄治の軍隊時代の評伝を彷彿とさせる表題だが、そうではなく、1936年から1945年の戦前・戦時期における日本プロ野球(当時は「職業野球」)の戦争協力と協力を偽装した「抵抗」を、職業野球連盟の動向を軸に描いたノンフィクションである。沢村をはじめとする選手よりも連盟の理事らの動きがメインなので、沢...続きを読む村目当ての読者は肩透かしを食うかもしれない。主に学生野球の戦時下の動向を取材した山室寛之『野球と戦争』(中公新書)とは相補関係にあると言える。

 選手の徴兵逃れのために夜間大学に在籍させたり、大学生の兵役猶予停止=「学徒出陣」でその方法が使えなくなると今度は工場徴用に潜り込ませるなど、選手の生命を守ろうとする「抵抗」は興味深いが、直接つぶされる前に先手を打って「許容範囲」内の戦争協力を自発性を装って行うというのは、翼賛体制下の典型的ななし崩し的戦争協力の常道で、本書が評価するほど「美談」ではない。ナショナリズムを前提とする同調圧力と「忖度」がはびこる日本社会の現況を考慮すると、妥協的・折衷的な「抵抗」自体の限界と危険をもっと追究する必要があろう。なお、すでに戦前においてさまざまな問題で東京巨人軍(現在の読売ジャイアンツ)の独断専行ぶりが垣間見えるのも注意を引いた。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2018年02月17日

タイトルは沢村栄治を冠しているが、中身は軍部に翻弄される職業野球の理事である鈴木、赤嶺の二名を主人公とした話。

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