【感想・ネタバレ】アメリカの大問題―百年に一度の転換点に立つ大国のレビュー

あらすじ

アメリカはいま、百年に一度の転換期に立ち、三つの大問題に直面している。第一は格差と移民の問題である。EUは100万人の難民で大騒ぎになったが、アメリカは過去25年にわたり年平均100万人の移民を受け入れており、2016年大統領選挙の争点となった。第二は力の行使の問題である。全家庭の43%が銃をもつ米国は力の行使を是とし、長年「世界の警察官」を自任してきたが、一転して孤立主義に立つ可能性が生じている。第三はエネルギーの問題である。シェール革命後どのようなエネルギー・モデルを構築するかによって、この超大国の命運は決まる――。歴史的転換の本質を、2013年から2015年までヒューストン総領事を務めた著者が、外交官の目で読み解く。

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Posted by ブクログ

アメリカの大問題―百年に一度の転換点に立つ大国
著:高岡 望
PHP新書

大転換時期を迎えた21世紀のアメリカの大問題というか、特徴といったほうがいいのではないかと思います。

その問題とは3つ
 ①格差と移民
 ②力の行使
 ③エネルギー(=シェール:頁岩からとれる、天然ガス、石油)
である

■格差と移民
世界的な傾向として、格差が広がっている
その象徴が医療費 10分の診療で錠剤を処方してもらっただけで、なんと30万
その計測は、ジニー係数と、実効税率、西側では格差は広がりつつあるが、顕著なのは、USAだ
人種間の所得格差は過去40年間驚くほどかわっていない その比は、白人100:黒人60:ヒスパニック70
人種を超えた婚姻率 日系人は、55%非アジア系と結婚している。中国系26%、韓国系32%に比べても際立って高い
日系人の特徴、それを、「我慢」とよんだ
アメリカ人は、小さな政府が好き
南部の怒り

■力の行使
黒人は白人に比べ、銃犯罪の被害者になる確率も、加害者になる確率も、5倍高い
しかも多数のケースでは黒人が黒人に殺されている
アメリカの43%の家庭で銃は少なくとも一丁あり、28%の個人が銃をもっている
地政学 ユーラシア大陸の中心をハートランドと呼び、ハートランドと海洋で接する地域をリムランドとよぶ
重要な3つのリムランド;JIB、アジア=日本、中東=イスラエル、ヨーロッパ=イギリス
アジア、著しい経済成長と、中国の台頭
中東、戦争とテロの混乱
ヨーロッパ、EU統合の軋み
中東のリムランド:アメリカのパートナー、政治:イスラエル、経済:サウジアラビア
中東の3大大国、トルコ、エジプト、イラン

■エネルギー
シェール革命⇒アメリカのLNGの最大の受け入れ国は日本
シェールは石油の損益分岐点を大幅に下げた⇒石油価格が下落⇒サウジをはじめ産油国が苦境に
石油・天然ガスの共有が地球規模で変化 
ロシア⇒ヨーロッパ⇒アメリカが供給
中東⇒アメリカ⇒加えて中国にも供給

アメリカの戦略 ロシアからヨーロッパに供給している天然ガスをウクライナ戦で止めて、アメリカ製を提供、産油国の価格カルテル支配をやわらげ、西側のエネルギー供給の比率を増やす

目次
まえがき
第1章 格差の大問題―移民とティーパーティー
 1 格差の風景
 2 格差、人種、移民
 3 日系移民の苦難の歴史
 4 格差をめぐる左右対立
第2章 力の行使の大問題―銃と地政学
 1 アメリカ社会と銃
 2 アメリカをとりまく地政学
 3 アメリカの世紀は続くのか
第3章 エネルギーの大問題―シェール革命の本質
 1 シェール革命と日本
 2 シェールを求めて
 3 シェール革命の経済的帰結
 4 21世紀のアメリカのシェール戦略
あとがきにかえて

ISBN:9784569829661
出版社:PHP研究所
判型:新書
ページ数:277ページ
定価:840円(本体)
発売日:2016年06月29日第1版第1刷

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2023年12月18日

Posted by ブクログ

大統領選の結果を受けてアメリカに興味が出たので購入。アメリカの問題を①移民と格差②力の行使③エネルギーの3カテゴリに分けて論じている。話題のトランプ現象については主に①②で言及される。トランプ氏の当選について日本では「ナショナリズム」「差別主義」の高まりである衆愚的な結果であると扱われている側面があるが、本書を読むとそうは言い切れないと感じられる。アメリカの文化背景を踏まえるときわめて合理的な選択だったのではないか、そのあたりが簡潔にまとまっているので一読の価値アリ。

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2016年12月03日

Posted by ブクログ

著者の高岡望氏は、2013~15年にヒューストン総領事を務めた外交官。
本書では、(著者曰く)「テキサスがわかれば、これからのアメリカがわかる」というテキサス州・ヒューストンという視座から見た、アメリカが現在直面している3つの最重要テーマ(problemというニュアンスの“問題”ではない)である、「格差と移民」、「力の行使」、「エネルギー」について分析している。
主な内容は以下であるが、私には、日本人には分かりにくい、「低所得者層がなぜ共和党を支持するのか」についての考察が、特に興味深く感じられた。
◆アメリカで格差が拡大している理由は、①「小さな政府」への指向が強く、高所得者層から低所得者層への(税制等による)再配分機能が弱い、➁市場経済の仕組みが協力に作用している、➂年間100万人の移民を受け入れている(移住したばかりの移民の所得は低い)の3つ。
◆経済的には「大きな政府」の恩恵を受ける低所得者が圧倒的多数であるにもかかわらず、アメリカではなぜ「小さな政府」(=共和党)に対する支持)が根強いのか?一つは、建国以来のアメリカン・デモクラシー(政府は選挙で明らかにされた民意に従うべき)は、「小さな政府」の主張と親和性が高いこと(「大きな政府」は選挙の洗礼を受けない官僚組織の拡大につながりやすい)。二つ目は、南北戦争直後は民主党支持だった南部(リンカーンが共和党であったため)において、民主党が進める急進的な公民権運動に対する白人の反感、宗教心に篤く保守的な信条を大切にする低所得者層に対する宗教右派の浸透などにより、現在では共和党の牙城と宗旨替えしたこと。今後は増加するヒスパニック系有権者が民主党・共和党のどちらを支持するかが焦点。
◆トランプ現象の本質の一つは、大量の不法移民の流入とイスラム過激主義によるテロに対する米国民の根本的な不安に率直に向き合うことにより、従来のワシントンの政治家の「政治的な正しさ」に対して不満を持つ人々にアピールしていること。今後はトランプ氏が、更にアピールを強めて元々共和党支持だが選挙に行かなかった有権者の投票率を上げる戦略をとるのか、中道の有権者を取り込む方針に転換するのかに注目。
◆世界経済におけるアメリカの地位は相対的に低下したが、ソフトパワーの優位性、同盟国・友好国の多さ、軍事面での優位性から、アメリカの世紀は今後も続く。しかし、外交政策においては、国内優先主義(=世界の警察官を務めることにノーと言うアメリカ)を強めようとしている。日本にとっては、アメリカが引き続き東アジアに関与することが決定的に重要であり、可能な協力をすることが望ましい。
◆人類にとって採取可能な石油と天然ガスの量を一挙に数倍にしたといわれるシェール革命により、アメリカは国際エネルギー市場の主要プレーヤーとして「新しい力」を手にし、今後スイング・プロデューサーとしての影響力を発揮していく可能性が高い。
本年11月の大統領選挙の争点・歴史的な背景を知る上でも、今読んでおくべきタイムリーな一冊と思う。
(2016年7月了)

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2016年07月11日

Posted by ブクログ

●感想要約:
医療格差や移民統合の課題を通じて日本社会の将来をも考えさせられる本であった.特に小さな政府を志向する政治文化やシェール革命の背景分析は示唆に富んでおり、米国の構造的強みを感じ取れました.トランプ大統領2期目もあり,格差・民族・宗教対立や外交政策を巡る不確実性の動向が,日本にも影響のある点と思います.

●科学博士の書評指数:
楽しみ度:★★☆☆☆
共感度 :★★★☆☆
学び度 :★★★★☆
話題度 :★★☆☆☆
お薦め度:★★★☆☆

●概要:
外交官であった筆者がテキサスから観察した米国の歴史・政治・移民・格差・外交・エネルギーの複合的危機に直面するアメリカを分析している.覇権国として築いた自由主義秩序が揺らぎ,政治的分断と格差拡大が進行.移民問題では多様性が国家の力である一方,社会的亀裂の要因にもなっていると分析.さらにシェール革命後のエネルギー覇権を背景に脱炭素と地政学の狭間で迷走.著者は,歴史的転換期にあるアメリカが理念の再構築を迫られていると主張.

●感想:
(1)アメリカの民間保険制度による医療格差の現状を見ると,日本の公的保険制度は良さそう思えるが,日本の医療保険制度も限界なので,米国的な部分ができるのでは?と心配になる
(2)米国は,建国以来,移民に関する問題を常に抱えてきた国と再認識.その中で,コミュニティーという組織より、アソシエーションという枠組みが人種や格差を超えて団結するという文化があることは,国としての強みなのではと感じた.その中で,日系人が米国社会に同化していく歴史は興味深かった.
(3)政治文化についても歴史的背景を基にされる分析が興味深い.米国に根付く政治的文化が小さい政府を志向する理由,民主党や共和党の支持母体の変化の歴史,トランプ大統領の登場の背景など,米国のダイナミックな政治の流れは日本の政治と比較して可能性を感じる.官僚をできるだけ少なくしたいとする米国と,多くの官僚で行政が行われる日本は非常に対照的.一方で,格差を小さくしようとする税制等による再分配効果は小さいので,自己責任の国だなとの感想もある.
(4)エネルギーに関わるものとして,天然ガスのシェール革命は興味深い.なぜ,米国・カナダだけでシェール革命が起こるのかも理解できる.米国は恵まれているなと羨ましい感想.この本は約10年まえだが,ウクライナ危機でヨーロッパの天然ガス需要が米国からのLNG輸入になりつつあるのが象徴的.Cheniere Energy, Inc等の米国LNG企業の株価が爆上がりしてるし,5年前に買っとけば良かったなと思ったりします.
(5)最後に,日本に比べると万全に見えるアメリカの課題として挙げられている3つの不確実性,「民族・宗教対立」・「外交政策」・「EUとの関係性」については今後も注視すべき点と感じる.この本によると,これら不確実性への対応は米国の内政と密接にかかわっているとのことであり,トランプ大統領とそれに対する米国民意の動きが気になると思います.最近,バージニア州で民主党の方が選挙で勝っているし,米国民意はトランプ大統領でも不満が解消されていないのでは?と思うのでした.

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2025年11月09日

Posted by ブクログ

アメリカの現状について簡単にまとめている。石油関連の話も多く、シェール革命が与えた影響の現状も知ることができた

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2016年10月09日

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