あらすじ
日本人の生き方の指針として、長く愛読されてきた不朽の古典『論語』。孔子の言行を比較的平易な言葉でまとめた『論語』は、多くの金言名言の出典ともなり、私たちの生活に息づいてきた。しかし、その思想を咀嚼し、人生のなかできちんと実践することは相当に難しい。本書は、東洋学の泰斗として知られた著者が、『論語』を自らの生活に活かし、心を高める糧とする方途をわかりやすく説いた講話録。活学としての『論語』の読み方を絶妙なたとえ話とともに詳説した「論語読みの論語知らず」、人間の進歩向上の原理を説き明かす「中庸章句」、『論語』の多彩な群像に人の世の機微を見る「論語の人間像」、日本人に根ざした儒教的伝統を簡明に解説した「日本と儒教」の4篇を収録した。社会状況がめまぐるしく変転し、多くの人々が人生や仕事に迷いを抱える現代日本。時を越えて読み継がれた味わい深い言葉に触れながら、生き方の知恵を学べる本。
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Posted by ブクログ
論語を講釈ではなく、生きた学問である「活学」として捉えた書
論語読みの論語知らずとは、人を中傷するための言葉ではなく、自分自身に向けて学問をちゃんと身につけていないことだと指摘をしています。
安岡正篤という方は、儒学古典の人かとおもっていましたが、欧米からも仏教からも引用があり、現代人という印象を受けました。
3部にわかれていて、論語の概要、中庸の概要、論語の人物像になっています。
得てして、知らず知らずの論語の言葉をなんとなく知っているというものが結構でてきます。
気になったのは、以下です。
・人間というものは自分ではわかったような心算でも、なかなか本当の事がわからぬものである。
・利によって行へば怨多し:利を追うばかりでは人の恨みを買う。利の本は義、義がなければ、いくら儲かっても長続きしないのである。
・行いに敏ならんと欲す:頭で考えるだけではだめで、実行に移すこと。敏とは、頭をフルに使うこととある。
・未だ生を知らず、焉んぞ死を知らん:生とものを知らないのに、死を知ってどうするのか。もっと自分の生そのものに徹せよ。
・巧言令色:口先がうまくて如何にも表面はよいが、中身がない
・人の己を知らざるを患へず、己、人を知らざるを患ふ:人が自分を知ってくれないということはどうでもいい。そもそも、自分が人を知らないことが問題である。
・中庸とは真ん中ということではない。「中」とは相対するものから次第に統一的なものに進歩していく働きのこと、「庸」とは、絶えず更新してゆく。続くという意味。「中庸」とは、すべての人が如何に変わらずに相待って和やかに、調和を保って、進歩向上していくことをあらわしている。
・六中観
忙中、閑有り
苦中、楽有り
死中、活有り
壺中、天有り 壺の中にもう一つの世界、別天地があるとこと
意中、人有り 心の中に人がある
腹中、書有り 腹の中に本をもっている
・君子多能を恥づ 器用貧乏とのこと、あれこれやることなしに、何か一つのことに打ち込んだほうがいい
・誠実、質朴といった内実が、外貌のあや、かざりに勝れば、粗野になり、負ければ、礼にはかなっても、誠実に欠ける。両者がうまく調和してこそうまくいく。
・知;賢人とは似たりよったりだが、愚:馬鹿にはそうそうなれぬもの。知より愚のほうがはるかに難しい。
・君子とは、2つの意味がある。一つは民衆に対して指導的立場にある人、今一つはその立場にふさわしい人格・教養を持った人。この二つをもっていることが君子である。
・あたかも愚物のごとし。孔子の優秀な弟子、顔回も曾子も、一見はいはいと愚者に見えるが実はそうではない。しかし、退いた後の行動をみれば大いに啓発するものがある。見た目で判断をしてはいけない。
目次
「論語に学ぶ」によせて 田中忠治
論語読みの論語知らず
其の一 本当に読みたい人のために
其の二 活学としての論語
中庸章句
一 序論 変わらざる進歩向上の原理
二 本論 人生に活かす中庸
論語の人間像
一 時代背景
二 此の時代の人物の種々相
三 孔子の人と為り
四 救い難き人物
五 この世の難しさ
六 斉の名宰相・晏子
七 子産と寗武子(ねいぶし)
八 周公旦と蘧伯玉(きょはくぎょく)
九 孔門十哲
日本と儒教
日本民族には創造力がないか
ISBN:9784569578132
出版社:PHP研究所
判型:文庫
ページ数:304ページ
定価:619円(本体)
発売日:2002年10月03日
Posted by ブクログ
昭和の碩学・安岡正篤先生が、『六中観』ということを語っていました。
六中観とは、 「忙中、閑有り」 「苦中、楽有り」 「死中、活有り」 「壺中、天有り」 「意中、人有り」 「腹中、書有り」 のことをいいます。このうち、「腹中、書有り」とは、自分に哲学・信念を持っておるということです。
私は六中観という言葉を、「論語に学ぶ」という本で知りました。かなり良い本だと思います。オススメです。161頁参照。
Posted by ブクログ
論語を現代語にしたものを読んでも解説が少なかったりして物足りないところを補完してもらえる一冊。漢字一文字や単語においても実は別の解釈の仕方があったりして、中には耳に痛い言葉もあったりで面白かった。
「利は智をして昏からしむ」
Posted by ブクログ
論語について解説しているが、全ての一字一句についてを取り上げているのではなく、主要な考え方や孔子の弟子達について著者が講釈したものをまとめたもの。時代としてはオイルショック、ソ連の時代のものなので結構前のものではある。解説とはいえ、著者は論語を理論解釈で終わらせることを良しとせず、自分の行いや思考と照らし合わせ、実際の行動のために腹落ちさせるために読むべしとしている。また、この時代は論語ブームらしく、経営者や士業の人たちにもこぞって読まれていたらしいが、それ故漢文からの解釈が安易になされているものもあり、それらについても著者は、儒教という教えや孔子という人柄から俯瞰し、誤りを指摘することもしている。
この本で論語の基本的なスタンス?は知ることができるが、まぁ、これは儒教の上下関係重視的な面がこの社会にしっかり機能してはじめて、論語の教えが生きるのだなという印象。主に昭和時代の働く男性向き。現代なら政治家か。これを子育て・介護中の人に説いたらキレられそう。少なくともケア労働者にとっては実学ではないでしょう。人に対する態度等はこういうのが理想だなと思いつつ無理に理想を追い求めすぎないくらいが、我々一般庶民にとっては丁度いいのではないでしょうか。
とはいえ、成程実践的だなと思ったのが、悪について述べた一節。悪というのは悩みの種でなんとか対処すべきだが、それにあたって悪とは何か善とは何かの問答をする必要はない。まず現に目の前にある悪をどうするかについて考えよというもの。確かに、危機が差し迫っているのに本質論を議論している場合ではない。これぞ学問を理論で終わらせるなという主張に沿ったものだろう。
Posted by ブクログ
論語は、訳者によって印象が違う。安岡氏の論語は骨太。人間力を感じさせる。
ちなみに評者は、古本屋で「論語50円」で売っていたので衝動買い。白文で全く読めず、側にあった論語の訳書(1500円)をそのまま購入。セット商法にまんまとやられて悔しくなった記憶がある。
Posted by ブクログ
つくづく論語は読んでも読んでも本当に理解したとは言えない、一生かかって読んでも理解しきれないものだという事が良くわかった。もちろんだから読み続けようと、さらに決意を増した。論語に出てくる人物、例えば周公旦など孔子が理想とした指導者で論語にも何度も出てくるが、そういった人物の背景まで知って論語を読まなければ本当の理解は得られない。これはよく言われていることだが同じ内容の質問でも、孔子は弟子によって違う答え方をしている。弟子の一人一人の性格、人生まで知ってより深く論語の言葉は理解できる。