【感想・ネタバレ】夜ごとの揺り籠、舟、あるいは戦場のレビュー

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Posted by ブクログ 2015年10月28日

このタイトル、何て秀逸なのだろう。
読み終えた後このタイトルをしみじみと見つめて、センスの高さを感じた。

主人公は三人の娘を持つ小説家。末娘の問題行動がきっかけでセラピストによるカウンセリングを受け始めるが、そうなった原因は、彼女自身がいわゆる毒母に育てられたことにもあったということが分かる。
...続きを読むとの関係も破綻しかけていたが、再和合を図るために旅に出かけた南国の地で、夫と激しく問答してしまう。
そして徐々に自らが抱える闇の根源に気づいていくが…。

経験したことのない何とも不思議な感覚。今現在の現実、セラピストとの対話、そして空想(主人公の心象風景?)が、何の説明もなく交錯しながら進んでいく、時間としてはたったの一日を描いている小説。
会話にかぎ括弧がついていなく、そして会話の合間に主人公の独白も混ざるから、どれが誰の台詞なのか、どれが主人公の独白なのか…柴門ふみさんの解説によると、男の人はとくに途中で挫折する人が多いらしい。それも肯ける。
でもはまる人は本当にはまると思う。私もその一人で、すごい世界を見てしまった、という気分になった。

主人公はどうしても抑えられない家族への嫌悪感を自覚していて、カウンセリングを受けているわりに非常に冷静で理知的だ。
これは著者の森瑤子さんの感覚も強いのかもしれないけれど、主人公は同じ女だけではなく男のことまでものすごく理解していて、男から見たらこういう女は脅威なのではないかと思う。賢すぎて。だからこそ作中の夫は主人公を見下げたり馬鹿にするような発言も多いのだと私は感じた。怖いからそうするしかないのだと。

妻、母、そして一人の女として「性」と向き合い、はっきり自分にとっての害だと自覚していた母親について考えることを通して、自分の中では存在感が薄かった父親についても考えを深めていく。
30年以上前に執筆された小説が、毒親という言葉が浸透し始めた今にリンクしている不思議。先を見通す、ってこういうことかと。

森瑤子さんに憧れる女流作家が多くいる、という理由が分かった。
40歳を手前にして主婦から売れっ子作家へ転身を遂げた女性の、普通というものを知っている感覚。の、凄まじさ。

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Posted by ブクログ 2019年01月19日

著者自身を思わせる女性の主人公が、南の島で夫との口論をおこなうシーンと、著者が心理療法家のもとを訪れ、幼いころからのトラウマに向きあうシーンが織りあわされながら、物語は進んでいきます。

女性である著者が、家庭を顧みず小説を執筆することに不満をいだいている夫との口論は、二人のあいだのセックスの問題に...続きを読むもその影を落としていることが明らかになります。一方、心理療法を通じて著者はけっして彼女を愛することのなかった母親によって心のなかに埋め込まれた問題に直面することになり、激しい葛藤をくり返しながらも、すこしずつ内面の闇に光がもたらされていきます。

会話文に引用符は用いられず、地の文のなかにそのまま取り入れられているために、主人公の内なる視点から出来事の推移が見られるような独特の臨場感があります。その一方で、主人公や他の登場人物たちの名前などは明かされておらず、舞台となる南の島もどこなのか言及されていないため、どこか現実から遊離したような印象も併せもっています。夢と現実の両面にわたる主人公の深刻な心理的葛藤が、彼女自身の置かれている個別的な条件を越えて普遍性をもつように感じられます。

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Posted by ブクログ 2017年06月21日

夫との関係。娘、実母との関係。破綻をきたした女性が、夫と旅に出る。

セラピストとの会話を回想しながら。現在、過去、空想、現実が入り乱れ、インスピレーションのままに吐き出されているような、そんな文章。

きっとノンフィクション部分も多いのだろうと思ってしまう生々しさ。
筆者の、そして我が身の体験であ...続きを読むるように感じられる文章力はすごい。

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