感情タグBEST3
このページにはネタバレを含むレビューが表示されています
Posted by ブクログ
恋するソマリア
著者 高野秀行
集英社
2015年1月30日発行
早稲田大学探検部出身のノンフィクション作家、高野秀行氏のソマリアもの第二弾(たぶん)。探検家でノンフィクション作家の角幡唯介氏の、早大探検部先輩にもあたる人。
「アフリカの角」と言われるソマリアは1991年以降、無政府状態となって、海賊たちが通過する船を襲っているという印象がある。アメリカが介入しようとしたが、悲惨な戦いとなって撤退。その壮絶なる様子はリドリー・スコット監督の映画「ブラックホーク・ダウン」で観た人も少なくないだろう。
しかし、そんなソマリアは、実は今、実際には3分割されていて、そのうちの一つがソマリランドという複数政党による「謎の民主主義国家」になっている。ただし、国際的には認められていないため、グーグルマップなど普通の地図にはソマリアは1つの国として描かれている。
北のソマリランドのほか、角の部分プントラントは海賊の国、南部ソマリアでは暫定政府軍とイスラム過激派の戦闘が続いている。国際的社会での首都は南部ソマリアにあるモガディショだ。
ソマリ人は、これら3分割された国と、隣接するジプチ、エチオピア、ケニアの一部にも住んでいる。著者が最初に訪問したのが2009年、次が2011年。ソマリアに魅せられ、人脈も掴んできた2回目の帰国後、著者は必死にソマリ語のネイティブを日本で探した。ソマリ語は非常に難解で、フランス語やアラビア語ですら文法構造が単純に感じるほどだという。やっとの思いで早稲田に留学している兄妹から習えることになった。
今回は、2011年10から2012年12月までの滞在を、4パートに分けてリポートしている。一応、ソマリアのケーブルTVの東京支局長の立場をもらい、ジャーナリストとして入国した。平和なソマリランドでの話と、イスラム過激派と暫定政府軍が対立する南部ソマリアでの体験を書いているが、生々しいノンフィクションというより、なにもかも日本と違いすぎるソマリアに魅了され、よそ行きでないソマリアが見たいと思い始めた著者が、結局、皮肉な状況で最後にそれを達成するというドキュメントだ。
クライマックスは、最後。南部ソマリアのある知事が、著者を含めたジャーナリストたちを引き連れて故郷に凱旋する。半日で戻るはずが、知事のそうした気まぐれ、思惑により、何日も引っ張り回され、帰国便にも乗れなくなった。これまでイスラム過激派がいて危険だったが、やっと多国籍軍がなんとか制圧するようになった知事の故郷、そして、さらなる奥地。荷物もなにも持ってこず、着替えも風呂もない。大量の蚊になやまされる。おまけに、現地の人が食べるカート(和名アラビアチャノキ、日本では合法)という弱い麻薬作用のある葉っぱの食べ過ぎにより、極端な便秘に悩まされる。
もう最悪の状態の中、皮肉なことにそこで著者自身が望んでいたソマリアの「素の姿」を見ることができる。
便秘にいいとされるラクダの乳を飲み、上からは下痢、下は岩のような糞づまりで一晩苦しんだ後、ついに「ツチノコのような便」が2つ出るシーンがあるが、読者としてもその瞬間がなんとスッキリ爽快感を感じることか。
しかし、知事の気まぐれが終わってやっと戻れるようになった帰路、イスラム過激派により待ち伏せされて襲われる。著者と知事は装甲車に乗っていたが、防弾ガラスにもひびが入り、頭から血を流した知事が悲鳴を上げて倒れ込んできた。ただただ伏せて待つしかない著者。結局、援軍が来て九死に一生を得るが、難を逃れた後に、ジャーナリスト仲間達が彼を囲み、お前も戦闘に参加したんだ、やっと仲間だと彼を迎え入れる。
そして、頭から血を流していた知事は、撃たれたのではなく、混乱して自分で頭をぶつけていただけだということが分かる。
まるで映画のようなエンディングだが、やはり心打つものがある。
高野秀行氏の本は、たぶん、これまで読んだことない。いや、あるかも知れないけど、忘れている。もちろん、新聞や雑誌では読んだことがあるが。
角幡唯介氏同様、早大探検部出身ノンフィクション作家、とても面白い。
冒険系ノンフィクション、今年3冊目。いずれも傑作。
今、一番おもしろい。
Posted by ブクログ
前著「謎の独立国家ソマリランド」に続き読んだ。前著でラクダ・キャラバンを匂わせていたが、そうではなく、今回は主に南部ソマリアへの旅である。日本に来ているソマリ人留学生と現地南部ソマリアが繋がる様が妙である。著者のお遣いがなんといっても心にくい。
前著同様に著者の行動力には脱帽するが、現地の情勢や人の動向のめまぐるしい変化にも驚く。
ホーン・ケーブルTVの剛腕ジャーナリスト ハムディがあっさり、大学で勉強して母国で政治家として貢献したいという思いで、難民としてノルウェーに行ってしまう行動力にも感服する。若い力を感じるうえに、世界はこんなにも動いているんだ、と感じた。
人間模様が興味深く、単なる興味だけでなく応援する意味で、また続きを書いて欲しいと思う。
Posted by ブクログ
氏族が絶対であり、外に向けての愛想はふりまかず、北欧に行っても同胞だけの世界で過ごす。これだけ聞くと内向的な民族に見えるが、ところがどっこいそんな単純な話ではない。期せずして紛争に巻き込まれた体験記など重い話もあるが、いつも通り軽く笑わせる文体でとても読み応えあり。
Posted by ブクログ
よくこんな所に潜り込めたな〜という感想がまず出てくる。
ソマリの伝統を前に、現地の人々の暮らしを間近に知ることは今回は出来ないのかなと思っていたら、その強固な扉をスルッと抜けて、気付いたら寝室にまで入り込んでいたのにはニヤリとしてしまった。ドルが通じない所まで行ってしまったことも、いよいよ本領発揮といった感じで面白かった。
無茶苦茶だけど爆走する車で帰るクレイジーな仲間たち、ちょっとカッコいいなと思ってしまった。こういう人がよく事件に巻き込まれるんだろうな〜と思っていたら本当に狙われていて、よく死者が出なかったなと。
頼もしいジャーナリスト、ハムディが22歳ということに驚きを隠せない。そして彼女のフットワークが軽くて凄い。迷いなく突き進む美しい若き姫は、誰の目にも眩しく映るだろうな。
恋するソマリア。ソマリアというか、ハムディへの恋みたいなものかな。
Posted by ブクログ
「謎の独立国ソマリランド」の続編
ソマリをより深く知ろうという著者の情熱はつきない。
美人ジャーナリスト ハムディーへ恋慕の念もつきない。
カートを食べて、ソマリランド人と和みたい。
ソマリランドに対する熱情が 意味もなく高野さんを突き動かす。
行ったことのない地方もみる。できるだけ現地の生活を
体感する 料理をならう。など
なんとかこじ開けて 入り込んでいく。
その執念が実り 最後は テロの標的に・・・・
なんとも 凄まじい異文化体験。
全くちがう 文化でも 同じような考えがあったり
なかったりで、納得したり、驚いたり、恥じ入ったりしながら
高野さんは 人類の営みについて より深く
体験したのでした。
Posted by ブクログ
「謎の独立国家ソマリランド」に続く、高野さんのソマリア本第2弾。
「内戦が続いているソマリアで平和な独立国家があるってどういうことなん???」という色んな謎や疑問点、そして今まで映画「ブラックホーク・ダウン」と「何か海賊?がおって日本の石油とか積んだ船が通られへんらしいで?」というイメージしかなかったソマリアという国が少しづつ明かされて行く過程が面白かった前作とは違い、今回はソマリアに関する知識がそこそこある状態で読み始めたので、インパクトはトーンダウンしてるんやけど、ワイヤッブやハムディの後日談として楽しく読めたと同時に、日々変わりゆく情勢を見るに少し寂しい読後感もありました。
高野さんが終盤イスラム勢力のアル・シャバーブの待ち伏せをくらい九死に一生を得るところでは、それまで中東へ行きイスラム過激派の人質になったり、命を落としたりするジャーナリスト、ボランティアの方たちのこと、自分からは遠い世界のニュースだとぼんやり思っていたのですが、高野さんもソマリアで命を落としてニュースになる可能性もあったんやな〜と思うと急に身近な話に感じられて、よくある危険だと分かっていてなんでそんなところにどうしても行かなければならない必要性もないのにわざわざ行くのか、という批判が何だか的外れなものに感じました。また、アル・シャバーブの勢力が落ちてきてモガディショの街が復興しつつあるのと同時に今度は政府批判を繰り返すジャーナリストたちが(アル・シャバーブとの戦闘が激しかったときよりも)命を落とす危険にさらされている、というのも衝撃的でした。
そんな、しんみりすることも多かった「恋するソマリア」ですが、一般ソマリ家庭におじゃましてソマリ料理を習ったり、ソマリ女子が美白に夢中になってたり、はたまたソマリNo.1のミュージシャンにインタビューしたり、ほのぼのエピソードも健在で楽しい1冊でもありました。