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Posted by ブクログ
本当に素晴らしい小説だった。
一人の女性と、その周辺(おもに家族)の、戦時中の子供時代から平成の老後を描いた長い物語。
主人公の左織は、戦時中には家族と離れて疎開を余儀なくされ、父親も戦争で亡くしているが、それ以外はごく平凡で、親からも兄姉からも愛されて育った普通の女性。特に悪いこともしていないし、特に何かに努力して自分を高めようともしていないけれど、まぁ昭和の時代の「普通の母」たちはみんなそんなものだったんじゃないか…。主婦(妻そして母)として、一生懸命家庭を守り、子育てをしている。なのに、なんだかうまくいかない。まず、第一子である長女百々子と異常に相性が悪い。あまり可愛いと思えず、第二子の男の子柊平の方がかわいいと思ってしまうことを自覚している。
この子育て奮闘記に、昭和時代の社会のできごとがいろいろ絡めてあるだけでも面白いのだが、ここに「風美子」という個性的な女性が深くか関わってくる。風美子は疎開中に左織に助けてもらったと言って、そのお礼がしたかったというが、左織自身はまったく覚えていないし、風美子をきっかけに忘れていた疎開中の出来事を思い出すと、リーダー格の上級生に言われるがまま、自分もいじめに加担していたような気もする。肝心なことがよく思い出せずに苦しみもする。いつも自分では何も決められず、誰かに決めてもらっていた。年の離れた兄や姉が、「あなたはいいから」となんでも先にしてしまったせいでもある。それで母が死んだとき、姉のすることにちょっと口をはさんでみたら、姉とは決定的な溝ができてしまう。(これは小説中特に、とてもとても悲しいエピソード)。
夫を信頼できずにいるのも、娘の百々子とうまくいかないのも、風美子のせいにしてしまいそうなできごとが数々出てくる。
読者も、「風美子っていったい何者なの?」と佐織と一緒になって疑いそうになる。
でも、風美子は風美子なのだ。左織が左織であるのと同じように。自分の人生は、他の誰のものでもない、自分の人生なのだ。それに気づくのが、左織は、遅すぎたのだろうか?
もし「何でも人のせいにしようとして自分で努力しなかった」せいで、「娘から決定的に嫌われ、息子にも裏切られ、家族がみんな去ってしまい、一人ぼっちになった」という物語の結末であるならば、あまりにも重い代償だと思わざるを得ない。だって左織は、勇気がなく、平凡を望んでいただけで、ごくごく普通の主婦ではないか。あまりにも悲しすぎるではないか。
でも、左織の物語は続いていく。まだ人生は終わったわけではない。どうやって生きていくのか、どうやって死を迎えるのか、自分で決めることができる。自分の人生は自分の人生なのだから。
Posted by ブクログ
とりとめもない左織の思い出話から、昭和を生きた世代の味わった苦労と戦後の大きな変化を肌で感じるようだった。
忘れたくても忘れちゃいけない、必死になって生き伸びた時代なのだと思う。運命に抗いながら、運命の中でしか生きられないような錯覚を何度もした。生きて生きてその先に何が待っているかはそこに到達した人にしか分からないのだと思った。
変わっていけない沙織を見ているのは正直苦痛だったのに、やがて人生を悟ったようになっているのを見ると切ない思いが押し寄せた。思わず鼻の奥がツンとなるラストだった。
Posted by ブクログ
どうか最後にどんでん返しがありますように…という思いだけで最後まで読んでしまうくらい、終始うっすら暗い話だった。
何十年もそばにいるのに、心の底ではふーちゃんを信用していない。家族も離れてしまった。
寂しいが連続する展開だった。
救いが欲しかったなぁ。
Posted by ブクログ
心がえぐられる気分で読んだ。
ずっと、どこか不幸な空気が漂う小説だった。短い間で読んだので、読み終わった今は1人分の人生を体験した気分。
選択肢が今よりずっと少なかった頃の時代の話。きっと、似た人生を過ごした人がいたんじゃないかなと思う。
娘のことを好きになれなくて、でもそれを見栄のために隠そうとして、自分も将来母親になったらそうなるんじゃないかとゾッとした。子供を愛せなかったらどうしよう。