【感想・ネタバレ】ありふれた祈りのレビュー

あらすじ

〈アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞/バリー賞/マカヴィティ賞/アンソニー賞受賞作〉1961年、ミネソタ州の田舎町で家族とともに暮らす13歳の少年フランク。そのごく平凡だった日々は、思いがけない悲劇によって一転する。少年の人生を変えた忘れがたいひと夏を描く、切なさとほろ苦さに満ちた傑作ミステリ

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Posted by ブクログ

ネタバレ

1961年夏。ニューブレーメンに住んでいた「わたし」ことフランク・ドラムの級友が、構脚橋の線路で列車にはねられて死んだ。それを皮切りに、現場近くで亡くなっていた身元不明の男、フランクの姉アリエル、アリエルの友人カール・ブラント…と多くの人の死が続いていくが、特にアリエルの殺害事件をめぐっての家族や周囲の人々の動きが本作の中心になっている。
フランクの父ネイサンは牧師だ。もとは弁護士を目指していたが、戦争で人を殺す経験をして牧師になった。フランクの母ルースはそれを不満に思っている。決して怒らず、情熱的に話すわけではないが静かに説教をして人々に神の存在を宣べ伝える姿は、神のように絶対的に正しい姿に見える。対して街の人々は粗野で、彼が戦場で臆病だったと揶揄したり、フランクの弟ジェイクが吃音なのをからかったりしている。一番印象に残ったのは、アリエルの葬儀の後の食事の席で、食前の祈りを唱えようとした父に、「ありふれた祈りをして」と母が頼むシーン。いつでも卒なく正しい道へ人々を導くネイサンに対し、この時母は突然娘を奪われた悲しみと怒りで神を拒否する心情になっているから、そんな夫の正しさが我慢できなかったのだと思う。それに対して、人前では3語とどもらずに話せたことのないジェイクが名乗り出て、代わりに本当に定型句のような、食前のありふれた祈りを、どもらずに捧げたシーンが本当に良かった。それは神からの奇蹟だし恵みだと思う。ありふれた祈り、原題はOrdinary Graceだが、そのgraceは祈りとも恵みとも訳せる。ラザロの復活のような劇的な奇蹟はなくとも、どもらなくなったとか、それで母に笑顔が戻ったとか、そうしたありふれた些細な出来事が神からの恵みであって、それに気づくこともまた恵みだと思う。
インディアン、吃音、障がい者、同性愛者など、弱者を描いた物語でもあった。
父は戦争で人を殺したことを、フランクは姉を殺したかもしれないインディアンのウォレンを見逃したことを、ジェイクは人から揶揄われる自らの吃音を、それぞれ十字架として背負いながら生きている。遠くへ行っても自分からは逃れられないから自殺したくなる気持ちは分かるとジェイクは言うけど、そうではなくて自分の重荷を口にして誰かと担いあったり許されたりしながら生きていく人間の姿がとてもよかった。最終的にウォレンは犯人ではなかったし、フランクが見逃したからウォレンは生き延びることができたのも、そもそもそうでなければ生きられなかったということ自体先住民差別が背景にあるけれども、それをフランクが後に知って許された気持ちになることも含めて恵みだと思う。

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2025年01月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

この作者の作品は以前読んだがさほど好みではなかったが…。
この作品は少年が遭遇したひと夏の出来事が抒情的に、そしてすごく視覚的に描かれている。
サスペンスという括りにするとさほどの事件も起きないし、犯人(真相)もあっさりと分かるのでは?
でもこの作品は殺人事件を核にしながら、61年夏のアメリカの田舎町の生活や人間関係を少年の視線を通して濃密に描きこんで、文芸作品に近い。
この時代を過ごした人々から見るとたまらなく懐かしく切ない物語であろう。
またこの時代を共有しない我々でも、トマス・H・クック、ジョン・ハードの小説や、「スタンド・バイ・ミー」「グリーンマイル」のような映画、ホッパーの絵画に描きこまれたアメリカの古き良き日常の生活が見事に再現され、懐かしさを感じる。
運命の糸のように絡んだ人々の人生と、兄弟の少年時代の終わりと卒業が切なく描きこまれて傑作となった。

こんな文章が書ける作者だったとは!改めて他の作品を読んでみようと思う。訳も丁寧だしおそらく原作にあるリズムが大切にしてあってとても気持ち良く読めた。

・・・エピローグは心に沁みる。

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2015年08月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

いくつもの死に向き合う中で成長する兄弟。
とりわけひとつは最愛の姉の死。

姉の死にまつわるフーダニットの目くらましも悪くない。
また、そういったミステリ性をおいておいても、周囲の人々との繋がり、母の心身崩壊と再生を通じて過ぎて行く少年時代の特別時間の描き方がとても良いと感じた。

時間の軸を進め、関係者達のそれぞれの死でこの物語を締めくくっていくところもふさわしいクロージングだった。

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2019年08月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

何故かはわからないがちょっと取っつきにくくて読み進むのに時間がかかった本だった。タイトルの意味が分かったあたりから盛り上った感じでしたが。主人公が男の子だったせいですかね?感情移入がイマイチ出来なかったような……

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2016年01月30日

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