【感想・ネタバレ】憂い顔の童子のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

大江健三郎の初期は別に好きじゃないんだけど中期以降を読んで行くのが最近の唯一楽しいことといってもよくて、彼の何が好きかという理由の一つに、あの連綿としたいつ終わるともつかないかんじというのがあるのだけど、展開や終わりを殆ど気にしないで、その1ページ1ページが面白く読める。だからきっと何度でも読める。少し前まで彼の作品をいつか読み終えてしまう日が来るのを怖いと感じていたけど、ほとんど終わりなく読める、ブレイクを読んで、ドン・キホーテを読んで、また戻ってくることも出来る。こんな「森」を作り出せるなんて、魔術。

しかしながら通して読んでみて、はっきりと続きを予感させる終わり方の部分を読み終わって、理解が追いつかなくて頭が混乱していると同時に、他の作品でも幾度も語られていた、ウグイのエピソード、頭をがっきと捉えられ、その後に大きな力で一度突っ込まれ、引きずり出されるあのエピソード…、母親が居なくなった今、本人はこの小説の中では使っていないけれど、リーブと呼ばれる「跳ぶ」に近い行為の後、しかしウグイの時のように救助してくれるもののいなくなった今、自らの力で再び生きようとする展開に、私には気持ち的に追いつかなかった。
「当たり前だ、彼でさえ、ここまで来るのにどれくらいかかったと思う?」と思ってみても、それでも置き去りにされた気持ちが拭えない。
文章が悪いとかそういう話ではなくて…。どんどん私から彼がはがれていくような、どこへ行ってしまうの、と声に出したくても最早届かないくらい遠く後ろ姿だけ見せつけられるような、だからこそ今後の私が幾度読み返すことになるか分からないだけの力の差、文章力というのもそうだけどそれのみならず、彼のいる地点と私のいる場所の差というか…。読み込んで理解されるというのみでは埋まらないような差に、猛烈に疲れてしまった。こんなことで『水死』まで至れるのだろうか。

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2013年05月21日

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