【感想・ネタバレ】師父の遺言のレビュー

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Posted by ブクログ 2014年12月17日

京都は南座近くの老舗料亭の家に生まれた今朝子さん。恵まれた環境で大切に育てられたのかと思いきや、幼い頃から住処を転々とし、両親と離れて暮らす時期もあるなど、子供ながらに気苦労の多い生活を送っていた。そのせいか、とことん頑固で人に左右されない、腹の据わった子供だった。大学進学で上京し、学生運動の真っ盛...続きを読むりだった大学生活の話は、学生運動を知らない世代にとってはとても貴重。著者が師と仰ぐ武智鉄二は、一筋縄ではいかない変わり者だが、歌舞伎の脚本を書かせたらピカイチという天才肌の人。著者はその師に振り回されながらも、いくつもの大役をやってのける。最後まで師に弟子として仕える著者だが、その奥底には表に出さない恋心もほのかに感じる。

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Posted by ブクログ 2014年09月29日

松井今朝子さんの作品は直木賞を受賞した「吉原手引草」を読んだことがあるだけだ。ミステリーめいて非常に面白い作品だったけれど時代小説が苦手なせいでなかなか手がのびす。

ところが先日読んだ「直木賞受賞エッセイ集成」で彼女の生い立ちやら小説を書くようになったきっかけに興味を持ったのと、あの直木賞受賞のエ...続きを読むッセイなのにまったくフレッシュさがなく玄人めいた感じだったのがやけに気になっていた。
と言うわけで話題の本書を読んでみることにした。

なるほどねー。分かりましたよ。
松井さんの人生のピークは直木賞を貰う前にとうに来ていたようで。
それは武智鉄二の演出助手として「けいせい仏の原」という歌舞伎作品に携わったときのこと。
だから直木賞はおまけみたいなものなのですね、きっと。
もともと小説家志望でもなかったわけだし。
いやこれ悪い意味じゃなくて全然。

松井さんは祇園の料亭に生まれ、歌舞伎役者とも親戚関係にあり、幼いころから歌舞伎や芝居を変わった環境に育った言わば筋金入りの人物。
大学時代には人形浄瑠璃の戯曲を綴った古文書をクロスワードを解くような娯楽として読んでいたのだと言うから驚きである。
その彼女が松竹に入り、その後武智歌舞伎に深くかかわっていくようになるのも紆余曲折はあれど道筋は通っていたのではないか。

武智鉄二という人物は全く知らなかったので、へー、そんな鬼才がいたのね位の印象しか受けなかった。
でもこの人物が自分の後を託したのが松井さんだったというのだから彼女の溢れ出る才能はいわずもがなだったのだろう。
なにしろ知識が半端じゃないもの。
歌舞伎を作る作業って私の想像の域を軽く超えている。
その時代に使われていた言葉を一つ一つ丁寧に調べ上げて作ってるなんてびっくりしたわ。
こんなすごい人が秘めたる才能で小説を書いたらそりゃ面白いに決まってる。
でも勿体なくない?小説書いてるなら松井今朝子演出で歌舞伎座公演をどーんとやってほしいわぁ。

武智鉄二に興味のある人、松井今朝子に興味のある人、歌舞伎に興味のある人、みーんな楽しめると思います。
スーパー歌舞伎に対する評価とか良かったぁ。
決して異端じゃなかったのね、猿之助って。
なんだかちょっと歌舞伎通になった気分♪

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Posted by ブクログ 2014年06月25日

「歌舞伎」の物語を
たっぷり 楽しませてもらっている
松井今朝子さん

なるほど
書かれるべくして
書かれた ものがたりたち なのだ
と 改めて
「腑に落ちた」気がします

作家の生い立ちというものは
否応なく
その作品世界に反映してしまう

むろん
その 作品が生まれるまでの過程の中に
言いしれぬ...続きを読む 苦悩や葛藤が
あることでしょう

でも
あれもこれも
後から考えても
必然的になっていく時

一人の 作家 が生まれる
のですね

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Posted by ブクログ 2014年06月14日

松井今朝子の本には、個人的に、ものすごく引き込まれる作品と「いや、これはどうか・・・?」と思う作品が混在している印象がある。
前回読んだ『壺中の回廊』は、1つの作品にすばらしいところと今ひとつに思われるところがあり、全体にバランスが悪いと感じた。背景となっている歌舞伎界の描写は傑出しているのに、ミス...続きを読むテリとして整ったものには思えなかった。これならば、いっそ、歌舞伎座や役者について書いて欲しい、というのが正直な感想だった。

本書は、タイトルが示すように、著者が師と仰いだ武智鉄二という人物の評伝の体裁である。
小説家となる前に師事していたとなれば、歌舞伎やら役者やらの話も多かろう、おもしろそう、と読んでみた。

武智鉄二については何も知らなかったのだが、一世を風靡した演劇評論家であり、演出家であるという。狂言作者の意図に忠実な武智歌舞伎で注目されたとのことだが、見てみたいと思っても叶わないのは残念だ。
評伝として、本書が決定版と言えるのかどうか、武智氏の大きさが今ひとつ掴みきれず、何とも言えない。型にはまらぬ人物であることは窺えるが、本書自体は、どちらかと言えば、著者の半生記と言えそうな内容である。

導入は著者の生い立ちから始まる。
歌舞伎界にゆかりがあることは何となく知っていたが、筋金入りである。
実家は坂田藤十郎の親戚筋の老舗料亭。そこを独立した両親は祇園に店を構え、当人は祇園町で幼少時を送っている。南座に入り浸り、下足番に挨拶すれば顔パス状態でただで観劇できるほど。女形の歌右衛門の美しさに魅入られ、東京の歌舞伎座に通いたいがために東京の大学を志望する。
ときは学園紛争の頃。暇を持てあましがちな著者は歌舞伎のみならず、小劇場などさまざまな演劇に触れる。
大学に残る選択肢もあったが、学問として芝居と関わることに疑問を感じ、情報誌の仕事などを経て、松竹に入社する。そうした中で、破天荒な師、武智鉄二に出会う。

このあたりは、時代の空気や、芸能シーンなども生き生きと描かれ、非常に興味深い。観客のみならず、裏方としての仕事も経験した著者ならではの「目」が光る。

一体に、この人は冷静な観察眼を持ち、表現者としての「我」が強くない。名優をつぶさに見てきたせいか、幼少時にすでに、自らは名馬でなく、伯楽である、と悟ってしまっている。頭がよく、アクの強くない人なのだろうと思う。ご本人が仰るとおり、もしかしたら、演出や編集などの、どちらかといえば裏方の仕事が適している部分もあるのかもしれない。

けれども。
何か、この人の奥には情念の井戸のようなものがある、のではないか。その情念は自身のものではないかもしれない。これまでに触れ合ってきた膨大な量の浄瑠璃や歌舞伎やアングラ演劇を源流とするものかもしれない。出所はどこであれ、それが著者の内に秘められている、のではないか。
どこか、湿り気を帯びた「ぬらり」としたもの、けれどどこか笑いも含むような。
日本の風土の、その湿気の中で、死んだら肉は朽ちていくのだ。それはもうどうしようもない事実である。情念は、突き詰めればそんな諦念に通じるようにも思う。

直木賞受賞作の『吉原手引草』に、落語の「お直し」を脚色した挿話がある。私はその凄みにぞくりとしたのだ。ダメダメな男にダメダメな女。だらしのない2人に救いはない。でもそこに「しょうがねぇな」と生じる笑いがある。

本書でも何箇所か、ぞくりとさせられた。
この切れ味を秘める限り、この著者が、ふさわしい題材、ふさわしい調理法に出会ったとき、何かとてつもなくすごい作品が生まれるのではないか。
何だかそんな気にさせられた。
不思議な本、不思議な人である。

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Posted by ブクログ 2015年07月03日

内容(「BOOK」データベースより)
祇園の料亭に育ち、歌舞伎の世界に飛び込んだ著者は、稀代の演出家にして昭和の怪人、武智鉄二に出会った。この反骨の師が全身全霊で教えてくれた、人生の闘い方とは―。直木賞作家が波乱万丈の半生を綴る自伝文学の傑作!

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