【感想・ネタバレ】千々にくだけてのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

著者≒エドワードは、2000年9月11日にアメリカに向かっていた。しかし搭乗中の航空機で、機長がワールドトレードセンターへの攻撃を知らせる。

The United has been a Victim.
アメリカは被害者になりました

カナダで足止めされた著者は、時間的にも存在的にも、宙に浮いたような数日間を送る。ホテルに設置されたテレビは、ニューヨークの惨状と嘆き悲しむ人々のすがたを伝える。

Please Search my brother.
あにきをさがしてください

著者は、歴史的テロ事件について、英語と日本語の二つの言語で受け止める。二つの異なった衝撃を受け、二重の感想を持ち、主に日本語で考える。

文章がのきれいな小説を読むと、真っ白い印象を受けることがある。「千々にくだけて」は特にそうだった。
整理された文章が紙面を無駄なく感じさせるのに加えて、思想にナショナリズムが介在しない(できない)著者の立場的な空白が「白い」。

このお話はテロ事件を中心としている。でもそれは一例でしかなく、多くの人々に対して、ある人には特別であり、ある人には特別でない事象がある。語り手のエドワードは、ニュースで流れる言葉を、まず英語で受け止め、次に日本語に書き換える。二層の意識を通し、9.11テロ事件はアメリカ人でも日本人でもない知覚に保管される。翻訳を通すことで言葉は減速され、その生々しいイメージはリアルタイムではエドワードの中に入ってこない。その変わりに、繰り返しや言い換えによる衝撃、驚きを受ける。読者はその文章を読むことで、英語と日本語の離れた二つの意識を寄り合わせる著者の追体験をする。

この小説をどういうジャンルに分類するべきなのか、よくわからない。言語をテーマとした作品といえるのかもしれない。でも、なにより作者の意識に染み付いた乾いた哀しみが記憶に残る作品だった。

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2015年08月23日

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