【感想・ネタバレ】昭和二十年夏、女たちの戦争のレビュー

あらすじ

人生で最も美しい時を戦時下で過ごした5人の女たち。作家・近藤富枝、評論家・吉沢久子、女優・赤木春恵、元JICA理事長・緒方貞子、作家、評論家・吉武輝子。彼女たちには、明日の見えない日々でさえも、その日常には青春の輝きがあった。妻でもなく、母でもなく、ただの若い女性だった彼女たちは、あの戦争をどのように生き抜いたか。大宅壮一ノンフィクション賞受賞の作家が綴った、あの戦争の証言を聞く。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 『昭和二十年夏、僕は兵士だった』は、現在著名な5名の男性の戦時中の体験談だったが、こちらは現在著名な5名の女性の体験談。それも、兵士の母、妻、娘という立場ではなく、当時10代20代の独身だった方たち。

 著者も書かれているけど、銃後の生活の話なので、戦地の体験談と違い、目を覆いたくなるような無残な場面は少ない。
 それでもやはり、戦争の恐ろしさはヒシヒシと感じる。
 むしろ、自分は今のままの制度であるなら、性別的にも年齢的にも戦地へ行く事はまずないので、成る程、ひとたび戦争が起これば、自分たちの生活はこうなるのだと、その恐ろしさをより具体的に感じた。

 当時NHKのアナウンサーをしていた近藤富枝氏の話の中で、終戦後数日経った頃、局内で「戦地から男性放送員が帰ってくるから、女子の放送員は辞めて職場をゆずれ」という声が出たというくだりがある。
 これを読んで思い出したのが、アメリカ映画の『プリティ・リーグ』。野球選手たちが皆兵隊に取られてしまい、プロ野球の運営が難しくなってしまった。その為に作られた女子野球リーグの選手たちの、実話を元にしたストーリー。
 国力の差を感じる話ではあるけど、彼女たちもまた、戦争が終わる頃になると、オーナーたちに「男の選手が帰ってくるから、女子リーグはお役ご免、女子選手たちは台所へ帰せ」と言われてしまう。
 それからもう一つ、『硫黄島からの手紙』で、亡くなった米兵の所持品に故郷の母親からの手紙があり、それをバロン西が翻訳しながら読み上げる。周りで聞いていた日本兵たちが「自分たちと何も変わらない」と感じるシーンも思い出した。

 他にも色々な印象に残る出来事、言葉があったけれど、一番衝撃を受けたのが吉武輝子氏の話の中の「本当の民主主義教育がなされたのは、敗戦から朝鮮戦争まで」という言葉。朝鮮戦争以降は、軍国主義時代とはまた違った形の管理教育に変わって行ったと。
 確かに世の中どんどん管理社会になって行くよな、という印象は常に持っているけど、そうか、もう私が生まれた時には「本当の民主主義」ではなくなっていたんだと思ったら、えー、じゃあ今までの自分て何だろうという気持ちがした。
 吉武氏が言う「本当の民主主義」ではなくても、一応「民主主義」の中で育って来た私が、「本当の民主主義ではない」というたった一言でこんな衝撃を受けるのだから、自分が今まで信じてきたイデオロギーが一瞬にして覆されるというのはどういう気持ちなんだろうと、改めて考えようと思った。

 それにしても、操縦しているアメリカ兵の表情が見える程近くから機銃掃射に狙われた、そして戦後、14歳で9人のアメリカ兵から性的暴行を受けた吉武氏の、相手をただ呪うのではなく、何故彼らはああだったのかと思いを巡らせた事、何て強い女性なのだろうと思ったけれど、氏の「心の傷などなくても、深くものを考え、勇気を持って行動する。そんな人生がよかった。そんな女性でありたかった」という言葉は心に刺さる。
 戦争に限らず、色々な争い事の原因を知ると、必ず想像力の欠如があると思う。
 悲惨な経験をしなければ何事も分からない、それでは人間である意味がない。人間には考える力、想像力があるのだから。

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2012年09月06日

Posted by ブクログ

ネタバレ

著名な女性5名の「個人的な戦争体験」。
NHKのアナウンサーだったり、慰問団の女優だったり、緒方貞子さんだったりするので、市井の方とは少し違うこともあるが、当時の生の様子が垣間見えて興味深かった。ちょうど母と同年齢の方の話もあり、そんなふうだったのかな、ということが、少し想像できた。

戦時中、つづらに入れておいた遺体が盗まれたり、艦載機の機銃掃射で追われた際に米兵の笑う顔が見えたり、敗戦の日、働こう、と誓ったり、教科書に墨を塗りながら泣き出す先生の話や、戦時中は男性に代わって放送戦士と言われたのに、戦後、男たちが復帰してきたらアナウンサーの職場を追われたり、戦時ならではのエピソードがある一方で、今に通じる話も多い。女性ならではの視点や意見もある。
緒方貞子氏からの「自分のサイクルで生きながら長期戦で構えたほうが良い」との後進の人へのアドバイスも胸に響くが、やはり、吉武輝子氏のエピソードが一番衝撃的だった。米兵からの集団暴行という恐ろしい事件、しかし、そのことから、人間考察、民主主義についてまで深い考察をするところが圧巻だった。
「戦争とは兵士に、ある種の人格崩壊をもたらすのではないか。いつ生命を落とすかもしれない緊張に常にさらされている状況では、恐怖は憎しみに容易に転化する。恐怖ゆえの憎しみは暴力となり、弱いものへと向かう」
「私は女同士の嫌な関係を見てきたら、女が女にやさしくあることがどんなに大事なことなのかがよくわかる。そのためには、自分がまずのびのびと自由に生きていないと駄目なのね。自分が抑圧されている人は、他人のことを抑圧するし、攻撃する」
こういった考察から、吉武氏は以下のように言う。
「女が女にやさしくしなければ民主主義は成り立たない」
これは、現代にも通じていることではないか。

でも、未来(現在)は、その当時思っていたものとは大きく違っていることと思う。
道を間違えてしまったことの根元に、こういった当時を生きた方々の一つ一つの小さな営みの積み重ねがある気がする。

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2024年09月15日

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