【感想・ネタバレ】日常生活の精神病理のレビュー

あらすじ

よく知っているはずの画家の名前がどうしても思い出せない.ありえない言い違いや読み違いをしてしまう――日常のささやかな度忘れや失錯の奥に潜む,思いもかけない想念や欲望とは.フロイト(1856-1939)存命中にもっとも広く読まれ,各国語に訳されてきた著名な一作の改訳新版.十全な注と事例の一覧も付す.

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Posted by ブクログ

 原著は1901年から1924年頃までにかけて増補・改訂されたもの。
 本書は人文書院の『フロイト著作集』だと第4巻に入っているもので、フロイト存命中は世界中で最も読まれたベストセラーであったらしい。日本で本書が根付かなかったのは、恐らく新潮文庫のラインナップに入らなかったためだろう。もっとも本書の解説を読むと1941(昭和16)年にいちど岩波文庫で出たようだ。本書は同文庫の新訳版である。
 言い間違いや度忘れなどの錯誤の裏面には、その人の願望や様々な無意識的機制が働いている、というのが本書の大筋で、かなり大量に実例が列挙されてゆく。実例が多すぎて読んでいて疲れてくる部分もあるが、何しろ学術書なのだから仕方がない。例の不評な「氾-性-論」がほぼ出てこないので、多くの読者には受け入れやすいのではないだろうか。
 こんにちでは、フロイトなんて、とさげすみ、完全に捨てて顧みない人も多いようだが、そこまで「完全に」無効だとは私は思っていない。何よりも、現在は常識となった「無意識」領域のロジックを初めて大々的に明るみにし、20世紀の知の進展を支えた点は、歴史上かけがえのない偉大さだ。
 それまでは文学にしても哲学にしても意識上の思考などだけが語られていたのに対し、意識という表面にまで浮上しない底の方で、無意識という、常識的には不合理な、非=理性的でもあるシステムが機能しているという発見とそこに注視する思考は、私見では構造主義思想の先駆のようにもなっている。
 実は本書の言う「日常生活の精神病理」については、自分が最初に気づいたことではない、とフロイトも明言している。すべての「言い違い」に同じような無意識の機制が働いているのか、というと、そこはフロイトも断言はしない。こういった細かい部分を読んでいくと、学者として慎重な、真摯な姿勢も見られるのである。

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2023年01月12日

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