あらすじ
発達障害と診断される人は、日本だけでなく世界中で増えている。アメリカでは子どもの6人に1人に発達障害があるという調査もある。一方で、「親の育て方のせい」「食事で治る」といった偏見・誤解はいまだ根強い。同じ障害なのに診断名が変わったり、新しい呼び名が次々に生まれたりすることも、当事者の不安を大きくしてきた。発達障害とは何なのか。この分野の先進国であるアメリカで診断・研究に携わる小児科医が、最新の知見にもとづき、発達障害の正しい理解と向き合い方をわかりやすく解説する。
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Posted by ブクログ
■「知的障害」という診断名自体も変化している。2013年のDSM-5への改定以降、日本語では正式に「知的発達症」という名称に変更された。
現在の知的発達症の診断基準においてIQよりも重視されるのは、「適応機能」。これは日常生活を送る能力と言い換えることもできる。
・概念的領域:言葉の理解、読み書き、計算、記憶、抽象思考など
・社会的領域:会話力、対人スキル、感謝や謝罪といった、社会的ルールの理解やコミュニケーションに関するもの
・実用的領域:食事、排泄、入浴、金銭管理などといった日常生活の自立に関するもの
■一般的な「コミュニケーションが苦手」という意味と医学的な診断基準に基づく「コミュニケーション症」は少し異なる。コミュニケーション症の4つの種類
・言語症
言葉の理解や仕様に困難を抱える状態。具体的には文法の誤りが多い、語彙が乏しい、話の内容が他者には理解しづらいなどの特徴がある。言葉というシステムそのものを「脳で処理する機能」ニコン案があるのが特徴。
・誤音症
正しい音を発するのが難しい状態を指す。幼児期に見られることは一般的であるが、成長しても年齢相応の発音ができず、会話に支障をきたす場合は誤音症と診断される。耳で聞き取った言葉が脳では違ったように聞こえていたり、舌と唇を上手に動かせなかったりと原因は様々。
・小児期発症流症(吃音症)
いわゆる「吃音」のこと。医学的には「流暢症」と呼ばれる。
・社会的(語用論的)コミュニケーション症
言葉そのものというよりも、会話のルールにおける困難を抱える障害。例えば、会話の順番を守らずすぐ割り込む、自分の話ばかりして聞き手のことを考えられない、人の皮肉や言葉の裏を読むことができない、といったこと。
■現在では多くのメディアやSNSで使われている「グレーゾーン」という言葉であるが、実はこの用語は法律や医学の世界では定義されていない。医療用語や診断名としても存在していない。英語圏では同じ意味では使われておらず、日本国内で誰かが作り、一般社会の中で広がっていった俗語の一種。この言葉がこれほど浸透した背景には大きく3つの要因があると考えられる。
①周囲に合わせることが求められる社会
日本独特の文化的背景。日本では場の空気を読み周囲に合わせることが強く求められる社会。そこにうまく適応できないことが本人にとっても周囲にとってもストレスの原因になりやすい。結果として何かしらの発達特性がある人が「生きづらい」と感じやすくなり、それが「グレーゾーン」という言葉で可視化されてきた要因の一つ。
②「職員型」から「マルチタスク型」への変化
時代とともに変化した仕事のスタイル。かつては「職人型」の仕事が主流であったが、今は80%の完成度でもいいから短時間で複数のタスクをこなす効率性が求められる場面が増えてきた。こうした社会では頻繁なコミュニケーション、マルチタスク、臨機応変な対応力が重視されるようになり、特定の発達障害のある人にとっては非常に負担の大きい環境になってきている。
③診断がつくことへの不安
■「原因帰属理論」とは人が他者の行動の原因をどう理解し、どこに責任を求めるか(内的か外的か、統制可能か、不可能か)を説明する理論のこと。統制可能であれば他者を責める傾向が強くなり、統制不可能であれば弱くなる。
■ADHDは依存症も含め、うつ病、不安症、強迫性障害など、様々な精神疾患を併発しやすいことが知られている。これは単純な原因と結果の関係で起こるものではなく、多くの場合様々な要因が絡み合って結果として現れるもの。これを「マルチファクトリアル」と表現する。
■赤ちゃんの脳の発達をサポートする
妊娠中の過ごし方によってお腹の赤ちゃんの脳の発達をサポートできることがある。代表的なものは次の3つ。
・妊娠中はお酒を飲まないこと
・妊娠中に「ビタミンB9」(葉酸)と「鉄分」を適切に摂取すること
・妊婦健診を受け、産婦人科医のアドバイスに従うことで母体の感染症や赤ちゃんの脳への酸素供給不足(虚血)のリスクを減らすこと
これらはお腹の赤ちゃんの神経発達を支えるために重要とされている。
■ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)
発達障害のある子供たちにとって、社会性や感情の調整、それに伴う行動のコントロールが困難なことはよくある。その支援として、ソーシャル・エモーショナル・ラーニングが注目されている。これは感情の理解、衝動の制御、他者との関係づくりなど、日常生活や集団生活に欠かせない、「心のスキル」を育てる学習プログラムである。
アメリカでは教育現場でも導入が進められており、大人の発達障害への支援としても重要視されている。
SELの5つの中核領域。
・自己認識:自分の感情や強み、限界を理解する力
・自己管理:衝動やストレスをコントロールし、目標に向けて努力する力
・社会的認識:他者の視点を理解し、共感する力
・対人関係スキル:他者と良好な関係を築き、協力する力
・責任ある意思決定:論理的で建設的な判断を行う力
■ADHD、自閉スペクトラム症の人にはこんな配慮を
ADHDは「実行機能」と呼ばれる脳の働きと深く関係している。実行機能とは日常生活や仕事における課題を整理し、計画し、実行していくために必要な一連のスキルのこと。実行機能には以下の3つの力が含まれる。
・抑制:衝動的な行動を抑え、今必要なものと不要なものを選別する能力
・ワーキングメモリ:必要な情報を一時的に保持し、処理する能力
・認知的柔軟性:急な変化や状況に柔軟に対応する能力
ADHDの特性としてこれら3つを含めた実行機能が弱い傾向にあるということが知られている。
「抑制」〜やらなければならない仕事が手につかず、期限を守れない
「ワーキングメモリ」〜指示された内容を頭の中で保持できず、すぐ抜け落ちてしまう。ある作業中に別のタスクを思い出し、そちらに気を取られてしまう
「認知的柔軟性」〜予期せぬトラブルが起こると適応できずパニックになってしまう。新しいタスクへの切り替えに時間がかかる
このため次のような配慮が必要。
・指示は短く具体的に伝える
・複数の依頼を同時に出さず1タスクずつ区切る
・重要事項は口頭のみでなく書面やチャットなどで残す
自閉スペクトラム症の大人の場合ADHDと異なる。
特徴的なのは「人との関わりにおける「見えないルール」や「暗黙の了解」を読み取ることが難しい」という点。
支援のポイントとしては、
・回りくどい曖昧などの表現を避け、明確に伝える
・「察して欲しい」と勝手に期待しない
・不快に感じることがあっても本人に悪意がない可能性が高いため、事実を直接言葉で伝える