感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
今は図らずも遠く離ればなれになった友人に向かって語りかけるようにつづられた35年以上も前の少年時代の思い出。
小学校3年の2学期の始業式の日に主人公モッチたちが通う小学校に転校してきた不思議な雰囲気を持つ少年リンダ。彼が小学4年の2月始め、つまり1年足らずで突然転校してしまうまでの間に起きた出来事を綴った物語です。
それは、自分たち子供にはどうすることもできず味わう無力感だったり、人生経験に乏しい(それは子供であるが故に当たり前のことなのですが)ことによる無知・未熟さ、世の間の理不尽さにやり場のない憤りを感じながら、少しずつ大人になっていくことなのだと。
昭和のあの時代に生まれ、少年時代を過ごした自分たち世代にとっては、何とも懐かしいキーワードがたくさん出てきます。あの頃の想い出は今となってはセピア色に色あせていますが、それでもふとした瞬間に天然色の映像を伴って蘇ります。
数々出てきたキーワードの中で、一番私の琴線に触れたものは『スパイメモ』でした。自分は『スパイ手帳』と呼んでいたように記憶していますが、確かに所有していました。「水に溶ける紙」や「追跡シール」。あまりの懐かしさに悶絶してしまいました。(笑)
ついぞお土産など買って帰った記憶がない私の父が、唯一出張の折に買って来てくれたのがこの『スパイメモ』だったものですから、このキーワードですっかり忘れていたそんな記憶が色鮮やかに蘇りました。
Posted by ブクログ
朱川湊人お得意のノスタルジック小説。SF気はあっても、ホラーっぽくないのがちょっと新鮮か?ただ、この手の小説は作者のものだけでなく、結構な弾数が出揃っていて、その中から抜け出しているくらいかというと、ちょっと疑問符。
基本は王道のノスタルジック路線。中年にまで成長した語り手役が、少年時代を思い出し、主人公の不思議な少年や幼馴染の仲間と過ごした2年ほどの小学校時代を思い出す形式。
小学生らしい冒険譚の中に、当時も現代にも顕在する困った問題、貧困やジェンダーやハラスメント、老人介護、交通事故等がテーマとして取り上げられている。
主人公の反則禁じ手をもってしても、その場を収め離だけで安易に解決させないそれらの問題が、苦みとしてノスタルジーのやるせなさを引き出しているあたりは、さすが名手の技使い。