あらすじ
ワーグナーに愛されたにもかかわらず、音楽史の表舞台から「消された」楽器、ヴィオラ・アルタ。この数奇な運命をたどってきた「謎」の楽器が数十年ものあいだ、渋谷の楽器店の奥でほこりをかぶっていた。ヴィオラ奏者であった著者は、この楽器と偶然に出会い、魅せられ、ヴィオラ・アルタ奏者に転向。欧州を駆けめぐり、なぜこの楽器が消されたのか、その謎を解いていく。19世紀後半の作曲家たちがヴィオラ・アルタを通して表現しようとしていた音色とはどんなものだったのか。クラシック音楽の魅力と謎解きの楽しさに満ちたノンフィクション!【目次】はじめに/第一章 「謎の楽器」との出会い/第二章 失われた歴史を求めて/第三章 ヴィオラ・アルタを弾きながら/第四章 ヴィオラ・アルタの謎を解く/おわりに
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Posted by ブクログ
ヴィオラ・アルタという楽器を知らなかった。現代では忘れられたこの楽器を、偶然のようにして入手し、その響きに魅了されたヴィオラ奏者の著者が、この楽器がどのようにして生まれ、また、どのようにして葬り去られることになったかの謎解きをする。「失われた楽器」「珍しい楽器」というので、古楽器の一つかと思ったが、19世紀のことということで驚いた。ワーグナーが自分の音楽にぴったりだと称賛したというこの楽器の復元が進んで、ワーグナーを含め、ヴィオラ・アルタを想定して作曲された曲がその本来の響きを取り戻したら、素晴らしいだろう。
Posted by ブクログ
あるヴィオラ奏者が幻の楽器、ヴィオラ・アルタと出会い、そのルーツを求めてヨーロッパを旅する話。ワーグナーに気に入られたというその楽器は近代の発明品であるにもかかわらず、非常に資料が少ないのだが、良い出会いと直感と偶然に支えられ、その秘密に肉薄してゆく。
いやはや、ぜひともNHKで取り上げて欲しいくらい良いノンフィクションだった。著者の平野氏を取り巻く音楽界の人々も素晴らしければ、巡り合いのタイミングの良さも素晴らしい。特に世界最大と言われるパイプオルガンを見学し、そこに残されているはずの「ヴィオラ・アルタの音色を作るストップ」を探すくだりは圧巻で、これはもう平野氏の楽器に対する愛情がなせる技としか思えなかった。
ワーグナーの時代のヨーロッパでは「ファム・ファタール(運命の女性、しばしば破滅を招く)」という概念が流行したけれども、もしかするとこのヴィオラ・アルタは平野氏にとってのファム・ファタールなのかもしれないな。