【感想・ネタバレ】解夏のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

両手どころか両足の指まで使っても足りないほど、私には、この世で怖い人、怖い物、怖い事がある。あまりにも多すぎて並べられないほどだが、それでも、最も、一番、絶対に怖い事は決まっている。それは、視力を失ってしまう事だ。病気、怪我などで、何も見えなくなる事を、私はこの世で一等に恐れている。
そんな臆病な私の心にぶっ刺さってくる小説が、この『解夏』だ。映画と連続テレビドラマになっているので、読んだ事がある方も多いだろう。もしかすると、その人たちも、私と同じように、目が見えなくなる、つまり、本を読めなくなる事が最大の恐怖である人かもしれない。もちろん、さだまさしさんのファンって人もいるだろう。当然と言ってしまうのは失礼かもしれないが、この『解夏』は文章の構成が、さだまさしさんの歌のように美しかった。映画とドラマ、どちらが上か、それは決められない。その上で、あえて断言しよう、この原作が最高だ、と。
ある日、唐突に、目が見えなくなる事が決定している病に罹る主人公。彼の、自分が陥った災厄と向かい合い、受け入れ、時に、恐れおののき、絶望に浸り、そして、そんな自分を支えてくれる者の大切さを痛感し、自分が進むべき道を自分の眼で見据え、ついに、その時を迎える、この感情の流れ、その描き方、これが素晴らしい。大胆と繊細、実力がなければ、両立させる事が叶うはずのない要素が一つとなって、読み手の心を揺さぶり、涙腺を崩壊させてくる。果たして、私は、己の目が病気に食い潰され、「読書」が出来なくなる時、どのような選択を下すんだろうか、と考えながら、読み進め、答えを出せぬまま、読み終わってしまった・・・皆さんは、どうしますか?

この台詞を引用に選んだのは、これは、さだまさしさんにしか、さだまさしさんだからこそ書ける、男の心の弱い面だな、と感じたので。
性差別と言われてしまうかもしれないが、男の弱さってものは、女性には理解や共感がし難いものだ、と思う。もちろん、男だって、女性の弱さを、正確に把握するのは不可能だ。
と言うか、人間は全員、違う弱さを抱えていて、一つとして同じ弱さはないんだから、他人の苦しみを100%理解するなんて、無理なのだ。
アナタの辛さが私には理解できますよ、と言う奴は、基本的に嘘吐きだ、と私は思ってしまう。
何だか、何を言いたいんだか、自分でも不明瞭になってしまったんだが、まぁ、要するに、この弱さの表現は的確だ、と感じたのだ。
自分の中にある弱さ、怖いもの、と直面した時、ほとんどの男は、こういう状態になってしまうんじゃないだろうか。
そうなってしまってしまった以上は受け入れるしかない、と頭で考えて結論を出し、心に納めたつもりでも、結局、それは自分を騙していたに過ぎない。
この作品では、失明に対する恐怖ではあるにしろ、他の事に対する恐怖であっても、やはり、男は、こういう風に取り乱してしまうだろう。きっと、私もこうなると思う。
しかし、こんな風に取り乱す事を、恥ずかしい、とは思わない。
これこそが、人間らしさじゃないだろうか。
怖いモノは怖い、それは受け入れるしかない。
みっともなく取り乱してしまうからこそ、心に生じる余裕もあるんじゃないか?
業と行は、一人一人で違っているし、取り乱し方も異なるだろう。
大事なのは、生きる事を諦めず、希望を捨てず、弱い自分をあるがままに認めてやる、それだと私は思いたい。
男は、自分の弱さを糧にし、どんなに辛い状況に追い込まれたとしても、自分の人生を、自分だけの力で切り拓き、自分だけの物差しを杖にして、自分のペースで前進していくしかないんだから。
うーん、結局、この台詞の良さを上手く伝えられないなぁ・・・まだまだ、修行が足りないか。
次の瞬間、隆之は空に向かって「ああっ!」と大声で叫んだ。
今まで魂の奥底に押し込めてきた得体の知れない絶望的な怒りが、発作のように突然に隆之の身体の奥の、そう、内臓の底から火を噴きながら駆け上がってきたような叫び声になった。
言葉にならない感情が隆之めがけて襲いかかってくる。
哀しさと、悔しさと、恥ずかしさと、寂しさと、怒り、そして不安が一斉に隆之を襲う。
「ああっ!」
もう一度叫んだあと、隆之は自分の右手で拳を作り口にあてがい、強く噛んだ。
俺は怖いのだ。本当は怖くて怖くて逃げだしたいのだ。
俺は強くない。俺は本当は弱虫なのだ。
ああ、一体俺はどれほどの悪いことをした報いでこんな目に遭うのだろう。
なぜ俺だけがこのような目に遭わねばならないのだ。
誰か、お願いだから、助けてください。
ばあちゃん、助けてください。
親父、助けてください。
自分で噛んだ右手の痛みが必死で隆之の背骨を支えた。
「助けて」だけは絶対に言わないと決めた言葉だったはずだった。
「ああっ!!」
隆之は振り絞るようにもう一度叫んだ。(by天の声)

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2023年09月01日

Posted by ブクログ

ネタバレ

標題作は読み進めるのがつらい。

『秋桜』(あきざくら)は、感動のツボを心得た中編。

『水底の村』は少し冗長な気がしないでもないがホッとできる温かさ。

『サクラサク』は、家族、会社、認知症、思慕、いろいろな思いを交錯させながら余韻を残す読後感。

4作に共通しているのは、良い出来事であれ、悪い出来事であれ、人生の分岐点、臨界点を迎えたときの登場人物たちの心の動き。

そして、重松清さんもさだまさし好きなんだろうな。

愛溢れる解説が花を添える。

僕は小学校から高校にかけて、「歌手・さだまさし」の大ファンで、今でも時々、
『長崎小夜曲』、『驛舎』、『夕凪』、『加速度』、『療養所』、『つゆのあとさき』、『フレディもしくは三教街―ロシア租界にて―』などを気が向いたときにカラオケで歌う。

小説家としてもすごいな、と今回改めて感じた。

読んでよかった。

サンキュー、オススメ、ありがとう!

①解夏(げげ)
小学校教師を辞め、婚約も破棄し、故郷に戻ってきた隆之は、母親にその理由を言い出せずにいた。

②秋桜(あきざくら)
自分に辛く当たる姑、喜久枝の叫び声を聞きながら、なぜ私は祖国を離れ、日本の農家に嫁いでしまったのだろう。アレーナはいつも思う。

③水底の村(みなぞこのむら)
小学校6年の時の同窓会の席で、純一は、敦子の名が出てきて思わず身を固くした。敦子は幼馴染で、そして人知れず付き合い、12年前に別れた間柄なのだった。

④サクラサク
今年80歳になる父がちょっとおかしい、俊介が感じたのは昨年の秋、父が一人で出掛けて帰り道がわからなくなり、警察に保護されていた出来事がきっかけだった。

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2023年03月03日

Posted by ブクログ

ネタバレ

とても好きな本。徐々に視力を侵されいずれは失明する病を患いながら、残された時間を仏教の「行」に例え、故郷の景色を己の中に刻もうとする表題作は、視力を完全に失うラストシーンを決して饒舌な文章ではないのにあれほど美しく書き切ったのは見事の一言。また解説で重松清氏も引用した「大好きだった祖母は死んだ後この樹のどこかに住まわせてもらっていることにしよう、と思ったとたん隆之は自分が救われたような気がしたのだった。」をはじめ、所々見えるさだまさし氏の生死感や人への暖かな眼差しが心地良いです。全4編の短編集ですが、どの話も珠玉の出来栄えなのでぜひ読んでほしい。

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2021年09月09日

Posted by ブクログ

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 目が見えていた頃は小学校の教師をしていた主人公が、 視野が狭くなって長崎後に戻った後、幼き日の事や教師 時代の生徒の事を思い出しながら長崎の地を巡る物語や、 ダムの地になるため沈んだはずの故郷が渇水で干上がっ て思い出と共に浮かび上がり思いを寄せる物語や、後少 しで会社の取締役に就ける所まで頑張ってきた主人公が そっちよりも痴呆を抱える父や気持ちがバラバラになり かけていた家族の方を選ぶ物語などがありました。

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2023年12月20日

Posted by ブクログ

ネタバレ

【2023年118冊目】
表題作、解夏の他4つの短編集で構成された一作。単刀直入に言うと、「解夏」以外全部泣きました笑

「解夏」
徐々に視力が失われていく主人公と、それを支える周りの人たちの話。いつ見えなくなるか分からない恐怖を戦いながらも、見える景色全てを記憶に刻みこもうとする、懸命さが光るお話でした。

「秋桜」
異国の地、日本にやってきたフィリピン人のアレーナのお話。日本人男性と結婚し、姑に敵意を向けられつつ、舅の温かさに助けられていた彼女。ところが、舅の死後、姑の当たりはますます強くなっていきます。例え人種が同じだとしても嫁姑問題はよくある話ですが、それを単純に描いたものではなかったです。いや、ツンデレか!泣いちゃったじゃん!

「水底の村」
け、結局誰の子どもだったんですか?!例え血が繋がってなかったとしてもそれでいいって、主人公は割り切ってたけど、一方で酷いことをしてしまったって悔やんでいたのが、ええい、はっきりさせんかい!となりました!話そ!とりあえず!対話から始めよ!まあ、泣いたんですけどね。駒田さんがいい人でした。

「サクラサク」
痴呆はつらいですよね、本人も辛いし、周りも辛い。緩やかに壊れていく父親とその息子家族の話。歯車のかけ違いで、すれ違っていた彼らですが、果たして修復できたんでしょうか。あとね、会社が気になって仕方ありませんでした。中川さんが可哀想過ぎませんか?恩を仇で返してません?旅の後がどうなったのか気になり過ぎますが、「帰ってきたところ」は泣きました。

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2023年09月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ベーチェット病に罹患した隆之がハヤシ老人に会って力を与えられるお話。
「『自分の眼の残りの時間の全てをかけて、歩いて歩いて、歩いてこの町の風景をぜんぶ眼の中に閉じ込めて記憶してしまおう』と決めた。」

さださんの文章力に驚いた

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2022年10月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

4つの短編集からなっています。
それぞれ違う視線があり、行き方の参考になる話です。
表題の「解夏」より「水底の村」がなんか好きになれました。

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2015年11月19日

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