あらすじ
全作書下ろしホラーアンソロジー「異形コレクション」第59巻。過去に好評を博しました〈グランドホテル〉が復活。今回の舞台は年越しの一泊二日。新年を迎える夜にホテルの上空に現れるという奇跡――そのオーロラを見たものは幸福になれるとか……。クラシックな雰囲気のグランドホテルで、「極」の読後感でおもてなしをさせて戴けましたら幸甚です。
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Posted by ブクログ
2003年6月刊の#26『夏のグランドホテル』以来23年ぶりの「グランドホテル」。今回は都心からそう遠くない山間の瀟洒なホテルでの、年越しの一夜という設定での15編。全般を通じ、怖さや驚きよりもどこか哀感と一抹の救いがふわりと漂っていたような読後感。
特に印象に残った5編。
・ホテルの地下駐車場に客から長年に亘り"預かっている"米国製の'58年型プリムス・ベルベディア。年に一度、大晦日にこの車を動かすことを客から依頼されており、その役を任されたバレーパーキング係のカワサキは、ベルベディアを運転しながら、在りし日の父と、そして母との記憶を蘇らせる―(ミセス・ベルベディア/坂崎かおる)。カーラジオの声と共に蘇る閉ざされていた記憶は苦く、ただ物悲しい。
・競合ホテルから破壊工作の密命を帯びて〈グランドホテル 極〉を訪れた朽名は、ホテルのロビーに飾られた精巧なホテルのミニチュア模型が目に留まる(ジェイルハウス・ロック/久永実木彦)。〈グランドホテル 極〉のセキュリティはこうなっているのか。タイトルが三重の意味を持っているのも面白い。ラストは希望の含むバッドエンド、か。
・スランプに陥った作家の"私"はホテルのプールの水中に折檻を受ける女の姿を幻視する。それをきっかけにスランプからは脱出するが―(スウィミング・プール/斜線堂有紀)。作家がグランドホテルに通う動機は、小説家のみならず他のクリエイティブな職種の人全てに共通する怖さなんだろう、と。
・グランドホテル内の〈珈琲店トルシュ〉で年に一度、大晦日にだけ提供される限定スイーツセット。パティシェ占部からの招待を受けてホテルを訪れた俺は―(忘却のグランデセール/上田早夕里)。グランドホテルの魔法はスイーツにも。主人公が選択したのは永く続く甘さではなく、爽やかさを感じるビターな後味だったのかも。
・〈グランドホテル 極〉に長期滞在していると思しき客の一人語りは、やがて……(極のチェックアウト―あるいは、長逗留の危険/井上雅彦)。これはもう監修者だからこそ可能なお遊びたっぷりの一編。あの悪名高いメニューに言及されているのがウレシイw。文字通り、〈グランドホテル 極〉宿泊のおみやげ。
その他の作品は―
・A girl meets A misterious boy.(蛇のナイフ/北沢陶)
・澤村伊智の一人称作品に油断する勿れ。(ネーブルサンシャイン/澤村伊智)
・オーロラにかけた願い事は叶えられていたわけ、だが。(雑な神隠し/背筋)
・狂宴の主賓はホテルの客やスタッフではなく。(大宴会/王谷晶)
・このホテルに来る“お化け”は二つの意味を持つ。(扉を開いて/柴田勝家)
・霊感0の怪談師と怪異を呼び寄せる同居人コンビが迷い込んだのは。(ホテル・リミナル・アスレチック/宮澤伊織)
・戦地とも地続きの今回のグランドホテル。否、ホテル自体が異界なのか(237号室/平山夢明)
・ホテルに“選ばれた”女は強くなる。(雪まつげ/篠たまき)
・オーロラの下で続けられる告解。(イカボドの栄光/芦花公園)
・己の身体とホテル全体が一つになる感覚。(見えざる光の、その先の、/空木春宵)
……過去の〈グランドホテル〉2冊も再読したくなったのに、手元に無いのが何とも無念。