あらすじ
時間を逆行し生きる女性と中年男の愛の日々。
数ある山田太一の小説作品の中でも、初期の最高傑作。骨折で入院中の主人公・田浦の病室に列車事故にあった患者が運び込まれる。衝立ごしに出会った女性患者・睦子との不思議な一夜から、信じられない物語が始まる。主人公が再会した彼女は「若返って」いたのだ。老女から少女、そして幼女へ、さらには……。彼女は自らの若返りを止める術を持たない。二人はいつか訪れる関係の終焉を予感しつつも、互いを愛おしみ、逢瀬を重ねる。
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Posted by ブクログ
超常現象もの・・・と読むのがスムーズなのかな。
もしくは主人公の空想世界での出来事か。
の割に何かすごくリアリティがあったんですよね。
起こっている結果は説明つかないんだけど、結果に辿り着くまでの過程、結果から生まれる道程、
それぞれが緻密に繊細に描かれていて、何ら不思議じゃないような気がしてしまう。
女を嫌悪しつつも睦子を求めてしまう田浦の心境も、
仕事も家族もどうでもいい、どうでも良くないんだけどどうでもいい、みたいな厭世観も。
自分のすぐ隣にあるもののような気がしましたね。
睦子が時たま表す理不尽さも、理解する必要すらないような。
こんな状況で安定している方がよっぽど気持ち悪いですからね。
『こういうもの』としてそのまま受け止めるべきもののような。素材をそのまま食べているような感覚。
田浦にとって睦子は、世間に対する不安を関係ないものと割り切らせてくれる一方、
男冥利に尽きる新しい心配を寄越してくれる存在、
そんな感じだったんでしょうな。
ラストも綺麗でした。度々詩が引用されるように、1編の詩を読み終わった気分。
Posted by ブクログ
未来に向かう男と過去に向かう女の話。
彼らが生きる時間軸は正反対の方向に進んでいるから、彼らはその交点でしか重なりあうことはできなくて、すれ違い、離れていくことしかできなかったのだなと、人ごみに消えていく睦子を見送りながら思いました。
刹那い。
Posted by ブクログ
淫らで美しく残酷な物語でした。荒唐無稽なスートーリーであるにもかかわらず、歳を重ねることの寂しさ、時の流れの容赦のなさ、二人でいることの、二人でいるからこそなお身に沁みる孤独感、生きることの空しさ、悲痛、寂寥感などがリアルに描かれていました。
ちなみにタイトルは、吉原幸子さんの〝ゆめ〟という詩から引用されたもののようです。