【感想・ネタバレ】言語都市のレビュー

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Posted by ブクログ

 言語学の教科書では、まず言語名称目録観の否定、なんてことが書いてある。言語は実際の事物の名前のカタログではないということである。言語と事物が一対一対応することはなく、言語は言語で独自のシステムを形成しており、言語と事物は恣意的に結びつけられている。〈林檎〉が「リンゴ」と呼ばれるのはまったく何の必然性もないということである。うんぬん。
 つまり言語は記号であり象徴であるということなのだが、事物と一対一対応しているような言語があったらどうする、とミエヴィルは考えたのではないだろうか。

 原題は『エンバシータウン』、強いて訳せば「大使町」。作品の舞台となる都市である。
 宇宙のあちこちに人類が植民している時代。空間には恒常空間、イマーと、通常空間、マンヒマルがある。これはドイツ語の「常に」と「時に」から来ているが、イマーはワープ航法を可能とする超空間のようなもので、イマーの中で意識を保っていられる特殊な素質を持ったイマーサーが航海士となって、超光速航法が可能となっている。ところが、通常空間における距離と、イマーを介した距離はまったく一致しないので、通常空間においては比較的近い惑星でも、イマーにおいては極めて遠い場所というのがあり、舞台となる惑星アリエカはそういう意味での辺境である。
 アリエカ人はエンバシータウンではホストと呼ばれているが、「昆虫と馬とサンゴと扇がごっちゃになったもの」といった姿をしており、2つの発声器官で同時に喋るという奇妙なゲンゴを持っている。ホストのゲンゴを解析し、コンピュータで真似てみてもホストはまったくそれを言葉と解さない。そこに語る主体が存在しない場合、ホストはそれを言語と認識できないのだ。そこで、エンバシータウンではクローンで作られた双子に訓練と薬物と技術的なリンクでもって、ひとつの精神を持った存在となるようにし、ゲンゴを習得させる。彼らが大使である。大使は何人もいて、ホストとの意志疎通を担う。ホストは大使だけを知的存在と見なし、ゲンゴを喋れない普通の人間の言葉を解することはない。
 ホストのゲンゴは上述のように、何かを象徴したり、代表象したりするのではなく、実際の事物そのものを示すだけなのだ。そんな言語が存在可能なのか極めて疑問だが、そういう設定なのである。だからホストたちは嘘をつけない。嘘をつけないので、大使たちが嘘をついてみせる嘘祭が毎年開かれる。ホストたちにとって嘘とはまったく驚異的なことなのだ。
 パースの記号論では、通常われわれが用いている言語は、われわれ、事物、記号という三者関係からなるシンボルである。「あれ」「これ」といった記号は記号と事物と二者関係にあるインデックスである。しかるに標識のように、その記号そのものが何かを示すような記号がアイコンである。ホストのゲンゴは恐らくアイコンの水準にある。

 「わたし」、アヴィス・ベナー・チョウはエンバシータウンでかつてホストの「直喩」にされたことのある女性で、イマーサーとなって「アウト」を経巡った末に、言語学者の夫と共にエンバシータウンに戻ってきた。そこに赴任する新しい大使、エズ/ラー。エズとラーと二人だからエズ/ラー。彼(ら)はエンバシータウンの宗主国である惑星ブレーメンから赴任してきた、異色の大使。クローン双生児ではない大使というあり得ない存在だったのだ。赴任のパーティーでエズ/ラーがホストに話しかけると、ホストは異様な反応を示す。エズ/ラーの言葉はホストたちに麻薬のような影響を与えてしまう。アリエカ中のホストがみな麻薬中毒者になってしまうのだ。われわれの言語が無意識を介してわれわれに影響を与えることはフロイトが示した通りであるが、ゲンゴは直接、ホストに影響を与えてしまうのだ。
 ホストは生態を機械のように調整するバイオリグという技術を持っており、彼らの町はバイオリグでできている、肉の町である。バイオリグもまた中毒になり、ホストの都市が崩壊していく。

 というような話である。
 ミエヴィルの作品のキーワードは「都市」と「二重性」ではないだろうか。『都市と都市』と『アンランダン』では都市自体が二重だった。エンバシータウンで二重なのはホストのゲンゴであり、大使という存在である。
 ゲンゴがなぜ二重に発声されなければならないのかは、はっきりとした説明はない。われわれは言語の世界に入ることで二重化する。ゲンゴは恐らく最初から二重化しているのだろう。
 また都市の崩壊というのも『『ペルディード・ストリート・ステーション』や『アンランダン』、あるいは短編の中でもよく出てくるイメージだ。辺境の閉塞した都市で、淡々と進む話は、崩壊する都市、崩壊する世界のイメージが侵食してくる。それをはねのけるかのように、ついにアヴィスが世界を救おうと戦う姿はペルディード・ストリート・ステーション』や『アンランダン』のように、心を熱くするものがある。
 しかし、本書は恐るべき言語SF。主役はゲンゴなのである。

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2016年02月05日

Posted by ブクログ

遠い未来。人間とエンバシータウンで共生する、「ゲンゴ」を話す異星人たち。彼らと人間、そしてその両者を繋ぐ〈大使〉たちの間で起きる、「言語」を巡る物語。SFだけど哲学だ!

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2013年06月26日

Posted by ブクログ

面白かった。
最初は難解だったけど(今でも理解出来てない部分がいっぱいあるけど)読後感は面白かった!に尽きる。
これぞSFって感じ。
本の裏にあるあらすじから新しい大使が現れて不思議な力を悪用して星を乗っ取る話だと思っていた。大雑把に言えばそういえなくもないけど全然違った。

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2013年05月13日

Posted by ブクログ

なんだこれは!よくわからないけれど、何だか大変なものを読んだような気分。
言語をテーマにしたSFだけれど、読んでいるこちらの脳がハックされた気分。地球由来の異なる思考による言語によって中毒を起こしてしまったアリエカ人そのもの。ミエヴィルおそるべし。考えさせられたとか、これからの人生に役に立つとか、そういうこととは次元が違う。何を読んだのかよくわからないけどすごい感じは初めてだ。

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2023年07月04日

Posted by ブクログ

初ミエヴィル。まず、アリエカ人と彼らの棲む都市(バイオリグと呼ばれる生物から生成した家や道具でいっぱい!)の異形さに圧倒される。異世界に踏み込んだ感がすごい。アリエカ人には口が二つあり、その二つの口から同時に発声し会話をする。人間の通常の会話はノイズとしか受け取られず、そのため「大使」と呼ばれるペアの人間を育成しコミュニケーションを図るが・・・。読み手にとってはとても長い導入部、しかし最後には読んで良かったと思える展開が。ちくしょう上手く言えないけど面白かったよ!

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2019年10月18日

Posted by ブクログ

 人類はは辺境の星で、「アリエカ人」と呼ばれる異星人と共存していた。
 彼らの言語は特殊で意思疎通をするための「大使」と呼ばれるクローンを生成し、人類は平和に過ごしていたはずだった。
 ところが、新任の「大使」エズ/ラーが登場したことにより、そのバランスが崩れ始める。エズ/ラーの言葉はアリエカ人にとって、麻薬に等しく、エズ/ラーもまたその事を知っていた。
 そして徐々に、平和だった星が混乱に巻き込まれていく。

 ほぼ逐語しか理解できない「アリエカ人」が暗喩を含んだ言語を獲得していくのはとても感動します。
 ただ、理解しやすい話とは言えず、そこに至るまで読み通すのがわりと大変ですが・・・
 思考実験としての非常にSFらしいといえば、そうなんだろうか。

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2018年12月22日

Posted by ブクログ

わーい、すごいすごい!
想像力の幅と深さが桁外れ、著者はSF界の殿堂入りまちがいなしだな。

あまりネタバレしてしまうのもよろしくないので具体的なことは書かずに。

ゲンゴから言語へ。
たかが日本語文化と他言語文化だけでも理解しあうのは困難なのに、全く違った大系・概念・表現のコミュニケーション手段をとる生命体同士が、どうやってわかりあうのか、それともわかりあえないのか。

真実しか語らないゲンゴ、かぁ。すごいこと考えつくなー。
後ろのほう、ややパワー切れを感じたけれど、難解でチャレンジしがいがある。
読書好きならぜひ!

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2018年11月14日

Posted by ブクログ

難解なSFでした。二つの口を持ち同時に発音して意思を伝えるゲンゴを話すアリエカ人、彼らは真実しか話すことができない。アリエカ人の星に居留する人類、アリエカ人と交流するためにクローンで二人一組で育てられた大使。この設定を理解するまでの序盤をクリアできるまでが辛い。
人類の大使がゲンゴを使ってコミュニケーションをとり、アリエカ人に影響を与え、やがて真実以外を伝える新しいゲンゴを持ちはじめたアリエカ人が現れ、いろいろ確執が生まれてきてからの展開は面白かった。

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2013年08月31日

Posted by ブクログ

間違いなくSFだけど、哲学書のような趣。今年のバカロレアの哲学の試験問題に通じる「言語は単なる記号なのか?」という…

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2013年06月18日

Posted by ブクログ

やや難解ではあるが、
とてもミエヴィルらしい都市の物語。
異形の世界に連れて行ってもらえる事が読書の醍醐味。
直喩の扱いがとても面白い。
メタファーのない日常は味気ないと思います。

2012 年 ローカス賞 SF 長篇部門受賞作品。

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2013年04月05日

Posted by ブクログ

ゲンゴや狂う生体ウェアの怖さエグさなどSF的な設定は楽しかったが、文化が今と違うとはっきりさせたかったのか、出てくるテラ人がほぼ全員ゲス。主人公は優秀設定が霞むくらいほぼ傍観者のうえ傲慢で読んでていらいらした。アリエカ人だけがマトモでテラ人に振り回される悲しさに感情移入してしまい、それだけを支えに読んだ。訳がたまに天然で「ゲンゴ」化して読みづらかった。世界観に必要なテクノロジー用語(*ウェアとか)を本文前にまとめて説明した辞典があればもう少し読みやすくなると思う。

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2014年10月15日

Posted by ブクログ

遙かな未来、人類は辺境の惑星アリエカに居留地“エンバシータウン”を建設し、謎めいた先住種族と共存していた。アリエカ人は、口に相当する二つの器官から同時に発話するという特殊な言語構造を持っている。そのため人類は、彼らと意思疎通できる能力を備えた“大使”をクローン生成し外交を行っていた。だが、平穏だったアリエカ社会は、ある日を境に大きな変化に見舞われる。新任大使エズ/ラーが赴任、異端の力を持つエズ/ラーの言葉は、あたかも麻薬のようにアリエカ人の間に浸透し、この星を動乱の渦に巻き込んでいった…。現代SFの旗手が描く新世代の異星SF。ローカス賞SF長篇部門受賞。

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2013年10月24日

Posted by ブクログ

これぞSFか、世界観は綿密ですごい。しかし、読みづらい。世界観のすべては要らない気もする。主題とは関係ない設定が多く最初はとても読みづらい。
全体としてはなかなか面白い。

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2013年10月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

哲学的なSF。遥かな未来、辺境の惑星アリエカ。先住種族アリエカ人は口に相当する二つの器官から同時に発話する特殊な言語構造を持つ。アリエカ人は現実に存在しないことを語ることができない。人類と平和に共存していたが、新任大使が来たことで動乱が起きる。
事象と表明、直喩と嘘、記号論など、言語を中心として物語が展開していく。前に読んだ『都市と都市』と同じく、今回も脳が揺さぶられる感じがして面白かった。ただ、登場人物が魅力的でないのが残念。

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2013年09月29日

Posted by ブクログ

この星の先住民族であるらしいアリエカ人。
彼らは二つの口を持ち、言葉ではなく音に乗せた意識、
ゲンゴで意思の疎通を行なう。
地球人から進化したらしいテラ人は
アリエカ人との意思の疎通を大使に委ねている。
大使は二人一組で特別に育てられゲンゴを使用することができる。
新たに赴任してきた大使は強大な力を持つブレーメンという
外の星から思惑を抱えてやってきたのだった。

ということを理解するまでに結構時間が掛かる、
歯応えのあるSFでした。
通常設定を理解すればその先は早く読めるのですが、
この作品では後の方で明らかになる設定が結構あったので
最後まで読むのが大変でした。
SFらしい作品。

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2013年06月14日

Posted by ブクログ

色んなとこの書評で絶賛に近かったので楽しみにしてたが。
こんなもんかあ。
この設定でこの筋立てだったら、もっと面白く出来んじゃないのかな。
兎に角、色んなオリジナルの用語とか設定とかあるが、全く説明なくどかすか進んで行くのはきつい。この歳になると、登場人物の名前すら覚えられなくって、こいつ何やったんだっけと遡らないと判らない。
途中から面倒臭くなって、判らないなら判らないままで読飛ばしたが、それでも大体判ったような気がする。
てことは、そんなディテールはなくても良いんじゃないかと思った。

あらすじ読むのが一番面白そう。

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2013年05月18日

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