【感想・ネタバレ】アルツハイマー征服のレビュー

あらすじ

アデュカヌマブの崩壊から、レカネマブ執念の承認まで。両者の死命を分けたのは2012年から始まったフェーズ2の設計にあった──。当事者たちの証言によって壮大な物語が完結。
物語は青森のりんご農家から始まる。陽子が、りんごの実ではなく、葉をもいで帰ってきたとき、一族のものたちはささやきあった。
「まきがきた」
遺伝性アルツハイマー病の突然変異解明からわかっていく病気のメカニズム。
遺伝子の特定からトランスジェニック・マウスの開発。ワクチン療法から抗体薬へ――。
患者、医者、研究者、幾多のドラマで綴る、治療法解明までの人類の長い道。
解説・青木薫



<文庫書き下ろし新章 目次>

新章その1 オーロラの街で
青森の一族同様、その北極圏の街で、代々アルツハイマー病に苦しむ一族がいた。その地を訪ねたスウェーデンの遺伝学者が全ての始まりとなる。

新章その2 アデュカヌマブ崩れ
アデュカヌマブはFDAで「迅速承認」というトラックをつかって承認される。が、承認直後から批判が噴出、議会調査も始まり、壮大な崩壊劇が始まる。

新章その3 運命のフェーズ2
2012年から始まったアデュカヌマブとレカネマブのフェーズ2の治験には実は大きな違いがあった。その年、エーザイにインド出身の統計学者が入社をしていた。

新章その4 ショーダウン
ついに「アルツハイマー病研究運命の日」が来る。「レカネマブ」フェーズ3治験結果。内藤晴夫はその日、携帯電話を枕元に置き眠りについた。米国からの報せはいかに?

新章その5 みたび青森で
連綿と続く遺伝性アルツハイマー病の苦しみ。レカネマブは希望の光となるか?

他 プロローグ「まきがくる」からエピローグ「今は希望がある」まで

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

アルツハイマー病対策の創薬という、一見とっつきにくいテーマでありながら驚異的にスルスル読めるし、ドラマチックで面白い。

関係する研究者たちのエピソードやコメントが豊富に用いられているので、研究史というより人間ドラマを読んでいる気分になる。
「海外のノンフィクションみたい」という評がされているが、確かにそれはある。各章のイントロダクションの1文の書き方とかも。
一方で、各章が短くて、それは「現代の日本で受ける要素かな」とも思った。

本書の底本たる単行本は2021年刊で、この文庫版が出たのは2023年。その2年間で画期的な新薬レカネマブの治験の結果が出るなど、この分野は変化が早い。
なので未読の人は早くこの本を読んだほうがよいと思う。

なお、本題とは少し外れるが、2012年に始まったレカネマブの治験第2フェーズの設計にはベイズ統計学が取り入れられていて、それが画期的だったのだという。
意外だった。治験のような未知の領域を探る分野こそがベイズ統計学の有効性を示せるものなので、もっと早く導入が始まっているのかと思っていた。

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2025年09月21日

Posted by ブクログ

アルツハイマーを征服する険しい道のりは現在進行系のものであり、本書も単行本が発刊された時点と文庫版刊行時点で状況が、がらりと変わっている(それゆえ加筆されている文庫版を読むことをおすすめする)。
加齢とともに不可避的に発生するものという印象だったアルツハイマー病に対して真摯に向き合う科学者達の姿勢!そこでまきおこるドラマの数々。当然のことながら難解さは伴うが、それよりも人間の情熱や侘しさなど体温が宿ったこのドキュメンタリーは、シンプルに読み手の胸を熱くさせる。

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2025年05月16日

Posted by ブクログ

文庫化にあたり最新情報(その後の経過)についての新章が追加されているが、そこがまた面白い。期待をかけられていた新薬「アデュカヌマブ」が、わけのわかっていない経営陣による判断ミス(値付け、解析の方法など)でダメになっていくのがせつない。アデュカヌマブもレカネマブも、優秀な統計学者が結局キーになっているのが興味深い。

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2024年05月09日

Posted by ブクログ

素晴らしい本なのに、まだだれも感想らしい感想を書いていないことに驚いた一冊。(2024.3時点)こんなに読み応えのあるノンフィクションがあるでしょうか。アルツハイマー病の薬の開発を軸に、人間模様、科学の進展、会社の内紛などを日米欧をまたいで書いてあります。それをまとめた著者の取材力は驚異的です。その情報量は、途中ついていけなくなるくらいで脱帽しかありません。本書は福岡伸一のさんのようなサイエンスノンフィクション系の本が好きな方や、サピエンス全史のような壮大な話がお好きな方にささります。化学式などは出てこないので理系でない方も読めます。

■アルツハイマー病の苦しみがわかる
わたしの祖父もなりました。平日の昼間にスーパーに行くと、視点の合わない高齢者が歩いていた経験はありませんか?この病気は確かに移らない。でも、誰でもなるかもしれない。しかもそれが遺伝性の場合だったら?寿命以外に自分の認知機能は人より早い段階で失われるかもしれないと知ったら?本書を読んで遺伝性のアルツハイマー病があることを初めて知りました。そしてその苦しみも。アルツハイマー病の薬の開発がいかに望まれているかを知りました。

■何事も一筋縄ではいかない
アメリカはベンチャー企業が勢いあるとか優秀な人材が集まっているとか言われますが、そんなアメリカでも薬の開発はうまくいかない。研究者や製薬会社が悩み、時には不正に手を染める様子、日本のある企業が、猛烈な努力で開発を進める様子、でも、社内の人間関係に翻弄される様子。本書の読み所は薬を作る過程だけでなく、作る人間の話まで深く語られているところです。特に治験がうまくいかない場面では、時間がかかる治験を実施する一方で、うまくいかず時間だけがどんどん過ぎていき、関係者に焦りが生まれている様子がひしひしと感じられました。優秀な人が束になってかかっても開発しきれない新薬開発の難しさ。一筋縄では行きません。でもその開発過程で生まれた化合物を次の世代の研究者が引き継ぎ、形にしていく様子もみられ、こうして人の生活はより良くなるのかもしれないと感じました。

■文庫版書き下ろし新章がついた方を読みましょう
同じ名前の本が2冊あり、2023年8月に出版されている方に新章があります。レカネマブ(予測変換にも出るくらいです)の承認までの話が追記されています。

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2024年03月12日

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