あらすじ
障がい者施設のベッドに“かたまり”として存在するきーちゃん。施設の職員で極端な浄化思想に染まっていくさとくん。二人の果てなき思惟が日本に横たわる悪意と狂気を鋭く射貫く。文学史を塗り替えた傑作!
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Posted by ブクログ
映画とは異なっていた。映画は、施設で働く職員側(またその家族)からの視点で描かれていたが、原作の小説は施設に住む方からの視点で描かれている。
重度の障害を抱える方が、どのようなことを実際に感じているか思っているかはわからないが、この小説で書かれてるような詩情的ではないにせよ、それに近いことを感じてるかもしれないなと思った。
特に痛みの記載については、行動障害を抱える方の抱える痛みに近いものがあるとしたらと思うと、何とも言えない気持ちが湧き上がってきた。
この本を読んで、障害を抱える方への支援について偉そうなことを思ってきたかもしれないと、反省させられた。
何か結論やヒントが分かるわけではないが、思考や考えが変わるような、一読すべき良書と思った。
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語り手のとりとめのない想念が延々繰り返され、現実と想像の区別も曖昧。くどいと感じることもあるが、読み手の倫理観や正義観を揺さぶるような鋭い言葉でドキッとさせられた。
終盤の犯行に及ぶ描写は息を呑む。
Posted by ブクログ
異様な読書体験。
現実と虚構が入り混じった情景描写、うたた寝から覚めかかったような不安定な視点、しっかりと伝わる湿度とにおい。
のみこまれて漂っているうちに、凄惨な事件へと物語はすすむ。
読後しばらくは言語化するのが難しく、頭を抱えた。
時間をおいて再読したい。
Posted by ブクログ
生きる、生かされている、生きている、生きたい、
生きていきたい⋯
人間が生きるということはどういうことなのか。
すべての命は平等であるべき世界。その結果、起こった弊害は誰が責任をもつのか。
とても響く本。
読み終わってから、月というタイトル、表紙絵が重く感じられた。
Posted by ブクログ
重い重いテーマだけれど、知らないといけないと思った。今まで知らない世界だから、自分の中で無いと思っていたことがわかり、そんな自分にショックを受けた。
さとくんは障害に位置づけられるのではなく、これは思想だ、ということが印象深い。優生保護法という考え方があった。私が生まれた時にはまだ障害を持った人が学校にも行っておらず、それに疑問がなかった。出生前診断のこと。22週までは認められる中絶のこと。そして、戦争という名のもとに当たり前に多くの人が亡くなるのに、戦争犯罪は悪だ、という違い。日本も戦争で多くの人を亡くしてきた。その時代はそれが当然の思想。
何が良くて何がいけないのか、思想だから、ということでただ受け入れるのではなく、答えは出ないかもしれないけど考えることをやめてはいけない、と強く思った。
Posted by ブクログ
重心とよばれる方々と関わる仕事をしています。
日常的に接する中で、彼、彼女らは確実に「人のこころ」を持っているし、むしろ、それがむきだしで、さまざまな忖度がないと思っています。彼らと好意をもって関わろうとしている人たちは、全員ではないにしろ、その忖度のなさに魅力を感じている人は多くいると思っています。
ただ、そういったある種、悲しいかな少数派の感覚をもった人の世界で生活していると、社会一般から、この世界がどう捉えられているかわからなくなり、それはそれで、平穏なことではないとも日々感じます。
辺見先生は、人間のおどろおどろしい局面に入り込み、この一冊に表現してくださっています。
本来であれば、私たちのように彼らに好意的感情をもって、生活している人たちにもぜひ読んでもらいたいです。
Posted by ブクログ
語り手が障害を持っている主人公きーちゃんであるというのが新しい。きーちゃんの考えが淡々と述べられ、最初は読みづらさがあったがきーちゃんが考えているコト、きーちゃんのさとくんへの想いがしっかり頭に入り込んで終盤にかけての展開は息を呑んだ。
多くの人に一度は読んで重度身体障害者、施設スタッフの現状を考える作業をしてほしいと思った。
私は実際に重度身体障害者の方に会ったこともなければ介助をしたことがあるわけでもない。
テレビの中で施設の方が介助をしてるのを見たとしてもテレビで映せる綺麗な部分を一部分だけ。実際には想像もできないような神経が削られる出来事、場面がたくさんあるのだろう。
その事実が人格や考え方を変えてしまうこともあるとは思う。
しかしどの命にも優劣はなく天秤にはかけてはいけない。これは当たり前。
問題と思ったのはこの重度身体障害者の介助をしているスタッフの心のケアがしっかり出来ているのか。さとくんのように現実を目の当たりにして心が壊れる瞬間が生まれてはいけない。あの事件が起こった容疑者側の背景にも目を向けたい。
日常的に入居者への虐待が行われてしまっている施設もあると言われてる今、しっかりとその根本に目を向けなければならない。互いが対等であり人としてあり続けるためには尊重が必要。その尊重を作るにはまず施設スタッフの気持ちに寄り添った働き方を作らなければならないのだと感じた。
Posted by ブクログ
相模原障害施設やまゆり園で起こった障害者殺傷事件をモデルとした物語。
身動きも出来ない「きーちゃん」は思う事だけは出来る。
そのきーちゃんの別人格「あかぎあかえ」や犯人の「さとちゃん」の思いで構成されていく。
非常に読みにくいが、その読みにくい文章で障害者の思い、障害者に対する思いを表現しているのだろう。
最後の数ページはさとちゃんが事件を起こしている時の思い。
「こころ」があるか無いかで殺すか殺さないか決めていく。実際の犯人は話せるか話せないかで決めていったらしい。
自分や家族が重い障害を抱えてない事に安堵する自分を見つめ直す作品でした。
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この本は苦しい。
介護がなくては生きていけないヒトを、一処に集めて他人に任せる。大抵そういう施設は街なかにはない。
誤解を恐れずに言おう。
綺麗事をいう人は介護される人の尊厳をとか言うけど、介護士の尊厳には言及しない。
Posted by ブクログ
読むことに多大なパワーが必要だった。
そして理解しようという事が辛かった。
まず思ったのは、他作品を思わせるひらがなの多さ。ひらがなの多用で障がい者の状態を表現するのか。そしてその中で一般的に難しい漢字や言い回しなどで知性を感じさせられる。
著者はきーちゃんの心の中を想像する中でその様な手法でこちらに、きーちゃんの様な状態でも表現できないだけなんだとこちらに伝える。
その様な人が被害に遭ったのではないかとこちらに問いかける。
そして世間の意識も『世界の隠された衝動』として表現する。
この作品は読み手にも刃を向けられた様な感じがした。それくらい切実に考えさせられる。
しかしその中で、政治的なメッセージが出てくるのがちょっと残念だった。
疲れる読書だった…
Posted by ブクログ
他人の無意識にこんなにずっぽりと入ったのは、初めてかも。誰に聞かせるでもなく徒然なるままに、脈略なく飛んだり、ものすごく広がったり縮まったりする妄想とか、とても人間ぽい。
こんなにも頭はお喋りでも、おこころはないって見なされたら、さとくんの「人間の定義」から外れる。さとくんという名の、不特定大多数。さとくんの思想は、誰しもが罪悪感と共にもっている考え方だと思う。知らないフリ、聞こえないふり、可哀想で片付けたい感情。
時代や国が変われば、思想なんてガンガン変わる。でも、流されるのではなく自分の頭で考えなきゃね、と思わせる本だった。
Posted by ブクログ
苦しくてやめそうになる
苦しいのはサトくんの行為がぜったいに間違っていたのかわからないから?もしかしたら、いやもしかしなくても彼のほうがちゃんと考えていたから?だって当事者だから
「心、ありますか?」突き刺さる
Posted by ブクログ
映画を観終わってから気になって仕方がなかった。
正直言って読みにくい。
『きーちゃん』の目線。でも目は見えない。もちろん浮遊も出来ない。
そういう所から語られてる思いで話が進んでいく。
『さとくん』が登場するといくらか読みやすく感じるものの、犯行の最中であろうストーリーの『音』と表記されている部分に震える。
『月』というのはそういう意味もあるのかと。
読み終わり思うことは、
攻撃的でありながら寄り添っている著者なのだなということと、
私は薄っぺらい言葉も出ない異常さも感じない『無』なのだろう
こんな読後はなかなかない
Posted by ブクログ
好き嫌いの別れる作品かと思います。私は嫌いというわけでなく、と読みにくいと感じたため、低い星ですが、ぜひ多くの人の目に触れてもらいたい作品でした。
Posted by ブクログ
読後のスッキリしない気持ち。内容に対してじゃなくて、自分の無関心を晒され炙られ終わることへのスッキリしなさがすごい。
障がい者施設殺傷事件の起きる少し前から発生時を被害者の視点から描いた本作。語り手の重度障害者のきーちゃんの独白(きーちゃんは言葉を発せず、目が見えなく上下肢も動かない)で話が進んでいく。
その話のなかで障がい者という存在がいかに不可視化されているか、障がい者の社会的な位置づけが不確かでぞんざいなものかというのが感じられる。マジョリティの都合で可視不可視が決められてしまうなか、事件や特集のときだけ意見して普段は素知らぬフリをしていることへの指摘。終盤を読んでいてそこが心を抉られました。
考えすぎも良くないけど、考えずに風通しが良いことばかりしてるのもダメだなと感じる読後感。自分の無関心さと偽善を抉る1冊でした。