【感想・ネタバレ】龍の起源のレビュー

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Posted by ブクログ

中国の龍とインドのナーガは姿形は異なるのに、性格的に類似していたのはなぜか。中国とメソポタミアのみ種々の動物からなる「龍らしい龍」が生まれたのをどう考えるべきか。なぜ中国ではそれが聖獣であったのにメソポタミアでは悪神視されたのか。どうしてインドとエジプトでは「龍らしい龍」が生まれなかったのか。(略)調査に一区切りがついた現在、いよいよ龍の起源を問うときである。
(104p)

このように世界の龍伝説をスケッチした後「龍の起源」「日本の蛇と龍」「龍と宇宙論」へと進む構造の本である。著者の専攻は「科学思想史」であり、考古学の立場からは、異論が出そうな気がする。しかし、「龍の起源」の仮説は非常に魅力的で、大変参考になった。

以下はマイメモ。
第3章「龍の起源」
・人類にとって「食べること」と「産むこと」は、生存のための基本的な条件だった。そのために、技術の進化と共に、呪術的な自然の支配も努めてきた。女性像や男根像はその現れ。
・BC1万年頃から氷河期は終わり、温暖化に入る。農耕が始まる(新石器時代)。分けても農耕に不可欠な降雨の制御に、人間は無力だ。そして呪術に「蛇」が加わる。
・初めから(日本の弧帯紋の前身を想起させる※)渦巻き紋様は、蛇を意味していた(BC五千年西ウクライナ・シビンツィ)。蛇の神秘的なダイナミズム、卓越した活力、周期的に若返る生態という「強靭さと不死性」が、過酷な自然環境のもとでの願いに結びついただろう。
・男根と蛇は早くから結びつく。
・世界共通で忌み嫌われる動物である蛇。しかし「恐怖は畏怖心に変わる」。
・中国とインドは仏教以前に「稲の道」を通して交流があった。よって龍の性格が似通ったのだろう。
・新石器時代の仰韶期の中国(甘粛省)や東南アジア(タイ・ウドン)から出土した壺に施された渦巻き紋様は、ほとんど弧帯紋になる直前のように思える(※)。やがてこれはギリシアのメアンダー紋様に、青銅器の雷紋にもなる。
・角や足を持つ複合動物の「龍らしい龍」の誕生は、メソポタミア・シュメールと中国からであった。シュメールでは、洪水の治水のために強力な王権と官僚制の確立が不可欠だった。天や牛を信仰していた侵略者シュメール人は、先住民の蛇信仰は退治すべき存在だった。よって悪神化される。暴れ川の治水は、蛇では表現できない。猛獣と猛禽の能力が入ってきた。中国でも同様の過程を経る。しかし中国・黄河では、龍は黄河のシンボルとして、天子の権力の強大さを示すシンボルとして、限りなく強力な獣が創造されねばならなかった。
「龍は政治化された蛇である」
・インドとエジプトではコブラという特殊な蛇の存在が、あえて特別な怪獣を創造させる必要性を無くした。

※は、私の感想です。

第4章「日本の蛇と龍」
・中国の影響を受ける前から、地球規模で蛇の信仰はあり、日本も例外ではない。縄文土器にも女性像と男根、そして渦巻き紋様、蛇形把手、頭に蛇をつけた土偶などが出土する。縄文時代なのにヨーロッパの農耕シンボルたる蛇が登場?焼け畑農業をしていたか?
・なぜか弥生前期には、蛇紋様や蛇土器は姿形を消す。著者は中国から稲文化が持ち込まれたのだから、反豊穣のシンボルである蛇の紋様は消えたのだろうと推測する。
・弥生後期から龍が描かれた土器が出土する。(水の祭り)中国伝来の神獣鏡の龍がどういう位置にあったかは不明。渦巻き紋様は残ったが、主流は流水紋になる。男根などの性の呪術は健在。

※中国では、暴れ川の象徴たる蛇の怪物化が王権と結びつくことで、龍となった。つまり治水と王権は初めから一緒だった。しかし、日本ではじめ全国に広がった龍は王権と結びついていない(今年の関西遺跡の旅で確信した)。それを結びつけたのが、吉備の特殊器台祭司である。何故そういう輸入が行われたのかは、本書を読んでも謎が深まるばかりであった。
※ここから一挙に話は古事記・日本書紀に移る。結局、弧帯紋や王権としての龍は、この著者の目には入らなかったようだ。
※最終章は「龍と宇宙論」という訳の分からない話ななった。

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2022年11月15日

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