【感想・ネタバレ】天皇を覚醒させよ 魔女たちと宮中工作のレビュー

あらすじ

■最後の「新潮45」編集長の衝撃デビュー作、ついに刊行!
天皇制の空白に徘徊する「新興宗教」のタブーに挑むノンフィクション

「昨日、おとといと相次いで魔女から電話」
「皇后さまがかうまで魔女にやられていらっしゃるとは」

昭和天皇の侍従はなぜ日記にこう記したのか?
松本清張が『神々の乱心』で描けなかった真相に挑む

■天皇に霊的自覚を促そうとした「神政龍神会」、皇后の手かざし医師、宮中魔女追放事件……。
近代天皇制に侵入した宗教事件に深く分け入り、いま皇室から失われた精神性を明らかにする

(本書の内容)

■第一章 宮中魔女追放事件
昭和四十六年七月、宮中から一人の女官が追放された。旧華族出身の彼女は、新興宗教に出入りして香淳皇后を誑かし、さまざまな宮中祭祀に介入しようとした。このため天皇側近の入江侍従などから「魔女」と呼ばれ、宮中では数年にわたって暗闘が繰り広げられていたのだった。いったい彼女は何者で、何を行おうとしていたのか。

■第二章 皇后陛下の手かざし医師
「魔女」の背後にいたのは、東京帝国大学医学部出身のれっきとした医師だった。だが彼は、怪しげな民間療法を施し、第二次世界大戦後には、霊能者を擁する宗教団体を設立していた。そこでは頻繁に神からの託宣を受ける儀式が開かれ、「真手」という病気直しも行われていた。やがて教団は分裂し、その医師は宮中に最接近する。

■第三章 女官と邪教
「邪教」は、女官を通じて宮中に入り込む。明治期の女子教育の第一人者は、同郷の「行者」の託宣を頼りに、昭和天皇をお妃選びやヨーロッパ外遊の可否を進言した。また大正期に東宮女官長を務めた島津家出身の寡婦は、当時の新興宗教に次々と接触して独自の信仰集団を結成する。そしてその教えが「不敬罪」にあたると逮捕された。

■第四章 金毛九尾の狐
「宮中に魔物が入った」として、天皇の自覚を促し、日本の「建替え建直し」を進言した宗教があった。ここには華族やエリート軍人など、社会的影響力がある人物たちが集結、あるいは支持をしていた。彼らは懇意の女官を通じ「書物献上」という形で、実際に宮中に入り込んだ。彼らはどのように生まれ、どんな教義を持っていたのか。

■第五章 神話と宮中
近代民主国家建設の中でエアポケットとなった万世一系の天皇制。伝統と科学的知見がせめぎ合う中で、宮中は軋み、混乱し、新興宗教が入り込む余地が生まれた。彼らの荒唐無稽な教義は、皇室の存立基盤と重なる部分があった。それに皇后と女官たちが呼応し、やがては排除されるが、同時に皇室の本質を毀損することになった。

...続きを読む
\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

Twitterで江西さんが紹介していたので読んでみた。予備知識ゼロで買って、小説かと思ってたらノンフィクションだった。皇室みたいに明らかに壁があって世間と隔絶されている世界に、どうやって新興宗教がつけ入る余地があるんだよ?と思いながら読み進めた。

展開が独特で、まず戦後の魔女追放事件から始まって、そこに千鳥=真の道が登場する。全然関係ないけど、普段ランニングでよく行く小仏登山口の横に真の道の奥宮って施設があって、その宗教が本に出てきたのはちょっとびっくりした。あと、生長の家も出てくる。あれも神道ベースの新興宗教だったんだなと改めて思って、これもびっくりした。実は父が若い頃生長の家に傾倒していたことがあって、その後右翼活動の道に進んだという経緯もある(これは余談だけど)。

そこから戦前、さらには明治・大正期へと時代を遡ってその源流をたどっていく構成なんだけど、これははっきり言って読みにくい。普通に時系列で書いたほうが構成としてすっきりするし、頭に入りやすかったと思う。

内容自体はかなり興味深くていろんな人物が突然「神がかって宗教を始める」みたいな話が次々出てくるのが驚き。しかも多くの教団が「皇室や天皇は本来もっと偉大な存在なんだ」という、ある種の熱烈なフォロー感情から出発していて、そこがオウムや統一教会のような「破壊的カルト」のイメージとはだいぶ違っていて面白かった。

天皇は記紀にもあるように「神の子孫」とされているが、近年では宮中祭祀の簡素化などもあり、皇室内部にも考え方の違う皇族が出てきていると。過去を重んじる層にとっては「もっと天皇家は神聖なんだ」と言ってくる新興宗教が、ある種の味方のように見えるのかもしれない。そういう“つけ入る隙”が、近代と神話の摩擦の中で生まれてしまったんだろうな。

個人的に一番面白かったのは、金毛九尾(の狐)が出てくるくだりと、藤原家が天児屋根命の末裔であるため「天皇家に侍り続ける存在」だという話。すでに少数民族的な存在になっていて、春日大社には藤原家の勅使にしか開かない門があるというエピソードも出てくる。神話と家系が実際に繋がって今に至っているという事実にはかなり驚かされた。

国家神道というものを作り上げる中で天皇の神聖性や神話との繋がりが強調され、その一方で近代化との摩擦が起こった。そのすき間に新興宗教が入り込む余地が生まれていった。この本はその過程をかなり細かく書いていると思う。ただし構成には難あり。

0
2025年09月25日

「ノンフィクション」ランキング