【感想・ネタバレ】セイジのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

本書を知ったのは、俳優としても実績のある伊勢谷友介さんが監督を務め、西島秀俊さんと森山未來さんが主演した同書原作の「セイジ〜陸の魚〜」という映画を見たのがきっかけでした。

先に、映画について書くと、二度観ました。
二度目に見に行ったとき、一緒に行った連れには、この映画をよく二回観ようと思ったね、と意味深なことを言われましたが。

いいとか、悪いとか、面白いとか、つまらないとか、そんな単純な言葉では割り切れないものがあって、とにかくよくは分からないけれどもかき乱されるような、引きつけられるような、そんな何かがある映画でした。

好みで分かれると思うので、人にお薦めできるかどうかは分かりませんが、とにかく映像と音楽が美しいです。

ストーリーの合間合間に、奥日光の自然がふっと写されるのですが、それを観ていると泣きそうになるくらい、綺麗でした。

映画全体が、キラキラ光るガラスのかけらを川の中で掌に掬いとったような感じ。
それが希少価値の高い宝石か、ただのガラス玉かなんて査定は大して重要なことじゃない、そう思える映画でした。

もう少し、このストーリーの出来た背景を知りたくて、買ってみたのがこの原作の小説です。

辻内智貴さん、という作家をそれまで知らなかったのですが、読み出してみると、面白いほどするっと違和感なく読めました。

文章が格別巧いという人ではないかもしれませんが、本人の人柄と独特な人生観のようなものが簡素な描写の中にも滲み出ていて、書かれたのはだいぶ前のはずなのに、小説自体はまったく古びた感じがしません。

映画よりも、ストーリー展開が言葉によるせいか、かなり各場面の説明が親切な気がしました。
それぞれの脇役の思いや主人公・僕のことも、セイジのことも、きちんと分かるように、書かれているというか。

なぜセイジが陸の魚なのか、というところも、祥子さんがきちんと説明してくれています。
映画は映画で良いし、原作は原作で良いなと思いました。

個人的には、『セイジ』はもちろん良かったのですが、同じ本におさめられていた『竜二』の以下の一節が衝撃的でした。

現実の世界に馴染めず、何をやってもだめで、これ以上生きていく理由を見つけられなくなった竜二のことを描写したシーンの抜粋です。

『底知れぬ虚無への埋めあわせの様に、せかいは時折、輝くようなうつくしさを、竜二に表せた。虚無は、或いは豊饒な何かと一体の者なのかも知れなかった。その豊饒さの中に立つ時、(〜中略〜)全ての意味が理解る気がした。自分は誰よりもこのせかいを知っているとさえ思った。このせかいの全てが、ただもう、泣きたい程に、いとおしかった。しかしそれが、自分に生活というものを続けさせる力を持っている訳でも、当然、無かった。』

こういう感覚で生きてきた人がいたのかと、衝撃でした。
自分だけではなかったと、思ったというか。でも、きっとそう思った人は沢山いたんだろうなと。
多くの人が思っていても、それを適切な言葉に起こせる人は少ないのではないかと思います。

どんなに世界が美しくたって、日常世界で生きていくということは、まったく別の次元にあるんですね。
切ないけれども、真理だなと思います。

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2012年03月20日

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