【感想・ネタバレ】科学と人間の不協和音のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

科学と人間の不協和音

著者 池内 了
2012年1月10日 発行
角川書店

同じ著者の本「科学の限界」(ちくま新書)は2012年11月10日発行、この本は2012年1月10日発行。内容的に重なる部分もある。

理性の時代である19世紀は、科学者がサイエンテイストと呼ばれ、公的資金(基本的には税金)によって雇用されるようになって、科学者の顔は市民に向かっていった。20世紀に入って科学と技術が密接に結びつくようになると、社会における科学者の役割も変化。まず戦争の時代となって、科学者は愛国者になることを迫られた。二つの戦争の時代が終わると、今度は市場主義が幅を利かせることになった。今日のそんな状況下で、科学は、科学者はいかにあるべきかについて考える本。結論は「文化のための科学」の復権だと主張する。

以下、印象に残ったこと。

電子レンジは、第二次世界大戦のときに敵機の姿を捕捉するためのレーダー開発の際、技術者のポケットに入れておいたチョコレートがレーダーの発するマイクロ波で加熱されてグニャグニャになっていたことが研究の発端らしい。

軍事研究の産物。ナイロン、ソナー、レーダー、電子レンジ、コンピューター、インターネット、ロケット、ディーゼルエンジン、原発、スプレー(南方での虫除け)、冷凍食品(戦場での食糧調達)、ボールペン(移動中でも書ける)など。

アメリカではID説「インテリジエン卜・デザイン(ID)説」が強力で、神が進化の仕方をデザインしたと考え、ダーウィンの進化論を信じない人の割合は現在でも50パーセントを超えている。

遺伝子改変の農産物に関する安全線の根拠。新たに組み入れた遺伝子が作り出す物質が通常の作物と同様に(人工胃液の実験で)分解されることから、実質的に同じと判断して安全とされる。

東日本大震災においてトリアージが行われた。一気に多数の患者が病院に運び込まれたが、患者を診て、確実な死が間近である者や、手の施しようがなく治療対象ではない者には黒のリボンを付け、治療行為をしなかったのである。

「世界初」は麻薬と似ていて、一回でも味わうと止められなくなる。マンハッタン計画の場合、世界最初の核分裂反応の連鎖反応を実現するとあれば、それがいかなる厄災を及ぼすかについていっさい考えず、ひたすら成功に向けて努力した。「世界初」は止められないのだ。科学者は鍵が無くなった箱を開けようとする錠前屋に似ている。錠前屋は、鍵を開けることに挑戦し始めると、その箱から何が飛び出すか気にせず、ただひたすら箱を開けることのみに熱中する。そこから怪物や悪疫が飛び出して来ても、「最後には希望が残っている」と言い、「私がやらなくても、いずれ誰かがやるのだから」と居直る。

アカデミック・キャピタリズムが進行。日本でも、国立大学の法人化前後に特許の取得と一体化して大学の起業が行われ、1000社を超えるベンチャー企業が。5年以上経過したが、成功例は少ない。経営には素人の大学教員が商業化に手を出すのが間違いであったと言えそうである。
(大阪府や大阪市の莫大な借金は、役人が素人のくせしてビジネスマンごっこをし、大型開発をした結果。公共の土地は二束三文で巻き上げられ、おまけに借金まで支払わされていることを読んでいて彷彿とした)

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2021年03月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

原発事故に代表される、科学万能信仰の危うさはなぜ生まれるのか。
科学者も普通の人間であるはずなのに、なぜ科学は暴走するのか。
それが知りたくて手に取った。

現代の科学が置かれている状況は理想郷ではない。

「科学者が頭の中に常に思い描いていることは、いかに世界最初の発見をするかであり、もう一つは研究費をいかに調達するかである。」

という一文が示しているのがすべてだろう。
そのプレッシャーの中で科学は人間と乖離していくのだ。
大学さえもが収支を勘定に入れることを要求されている現在、そこにモラルが入り込む余地はあまり用意されていないと考えられる。

日本の科学者の数は80万人とも言われ、小学校の教師30万人の倍以上である。もはやマイノリティではない科学者という職業に、特別な倫理を求めても無理なのかもしれない。

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2012年05月03日

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