【感想・ネタバレ】「推し」で心はみたされる?~21世紀の心理的充足のトレンドのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

「推し活」についての本ではなく、サブタイトルにもあるように「推し活による心の満たし方」についての本。心理学者マズローや精神科医コフートの理論を下敷きに解説されている。


以下、概要。

2000年代にSNSが流行りだしたころは「いいね」を集めることが注目されていたが、東日本大震災のあたりから「リツイート」や「シェア」の情報を広める効果が認識されはじめた。それをうけて、2010年代後半には「推し活」は手軽になり、大規模に行われるようになった。

「いいね」の時代は承認欲求ばかりが注目されていたが、「推し」の時代は所属欲求が盛り返してきたことを意味する。承認欲求は他人から認められたいという欲求で、所属欲求はみんなで集まって仲間意識を持ちたいという欲求である。

ナルシシズム(自己愛)を充たすためには、承認欲求と所属欲求の両方が必要である。「いいね」でトラブルになる人は所属欲求を充たすのに慣れていない、推し活に激しく入れ込んでしまう人は承認欲求を充たすのに慣れていない、という場合が多い。

ナルシシズムの成熟の度合いは、充たし方の得手不得手、ひいては技能習得や人間関係の得手不得手につながる。

母親(的役割りの人)は自分を愛してくれる=承認欲求を満たしてくれ、父親(的役割りの人)は、理想像を引き受ける=所属欲求を満たしてくれる。どちらも幼いころには完璧な存在に思えるが、成長して五感が発達するにつれてそうではない部分がわかるようになり「適度な幻滅」を覚える。ナルシシズムを成熟させるには、この「適度な幻滅」が重要で、幻滅していく体験を積み重なれば、欠点のある対象をとおしてもナルシシズムを充たせるようになり、それにともなってナルシシズムも成熟していく。

しかし、現代では母子家庭や父子家庭も増え、両親にかわってその役割りを祖父母や地域の大人が代行してくれるということも少なく、ナルシシズムが成長しにくく、誰もがナルシストになりやすい社会になっている。出しゃばりやVIP気取りの人だけでなく、傷つくのが怖くて引っ込み思案の人や、「推し」を推したり尊敬したりするのが苦手なひとも、ナルシストと言える。

資本主義社会ではどんなものでもビジネスの対象になり、承認欲求や所属欲求も例外ではない。いまやゲームやアニメのキャラクター、SNSのインフルエンサーなど欲求充足に適したキャラクターが大量生産・大量消費され、ナルシシズムを充たしやすい時代になった。

しかし、無条件で愛してくれるソーシャルゲームのキャラクターやSNS上で「いいね」をくれる誰かを相手にしても、ナルシシズムを成熟させることはできない。もし気に入らない点が見つかったら他のキャラクターに乗りかえることができ、「適度な幻滅」を経験することもなくなる。

職場や学校など身近にいて、ときには欠点も見えるような人を推せて、見習いたいような一面を見つけられるようになると、所属欲求を充たせるだけでなく、職場や学校でのモチベーションも獲得しやすくなり、そうしたちょっとした推しをとおして技能習得できる確率も高くなる。また、身近な人の長所や美点を見つけられるようになれば、周囲からの反応も肯定的になりやすく、巡り巡って自分の承認欲求が充たされる可能性まで高まる。

このような関係が続けば、ナルシシズムの成熟は少しずつ進んでいき、より広範囲の人を尊敬したり推したりできるようになる。日常の些細なやりとりをとおして承認欲求や所属欲求を充たしやすくもなり、それらが社会適応や人間関係にプラスの影響を与えるとも期待できる。日常的なコミュニケーションをとおしてナルシシズムを充たし合うような人間関係を大切に育てることが大切である。

「良く推し、良く推されて、良い人生を」

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2024年05月16日

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