あらすじ
寂れた島で過ごした夏、記憶の中で鮮やかさを増す夏、限りなく続く仮想の夏――夏を舞台とする4編に、青春のきらめきと痛みを封じこめた、第12回創元SF短編賞受賞作を表題とするデビュー作品集。/【目次】「射手座の香る夏」意識の転送技術を濫用し、危険で違法な〈動物乗り(ズーシフト)〉に興じる若者たち/「十五までは神のうち」出生の〈巻き戻し〉が合法化された日本で、過ぎ去りし夏の日の謎を追う男性/「さよなら、スチールヘッド」限りなく夏が続く仮想世界で、自らの身体性に思い悩む人口知性の少年少女/「影たちのいたところ」少女の憂鬱な夏休みにある日現れた、九つの“影”をつれた男の子/解説=飛 浩隆
...続きを読む感情タグBEST3
Posted by ブクログ
言葉では言い表せないほど素晴らしかった。どの作品も、文章から夏の匂いとノスタルジックな雰囲気が漂っている。伏線の張り方が緻密でありながら、書きすぎずさらりと読者の想像に任せる部分もあり、バランスが良かった。
「射手座の香る夏」
話は二視点で進行していく。どこか幻想的でありながらも、作業員たちの身体が消え失せるという身に迫った事件が現実的。最後収束していく様子に震えた。
「十五までは神のうち」
一番のお気に入りの作品。生まれるかどうかを自分で決められる<巻き戻し>という魅力的な設定が、ワイダニットに繋がっていくのが圧巻。過去は手を伸ばすには遠く、記憶は薄れていく。それでも過去は甘く苦く心に残り続ける。
「さよなら、スチールヘッド」
2つの視点で全く異なる世界観の話が進んでいくが、そのニ視点は夢で繋がっている。ここは夢なのだろうか、現実なのだろうか。立っている場所が揺らぐような怖さがあった。
「影たちのいたところ」
こちらもすごくお気に入り。病床にある祖母が思い出を語る。舞台はイタリアの小さな島。少し未来の設定なのか、設定が現実と地続きなように感じた。若かれし祖母・ソフィアは影を運ぶ青年・ロランと出会う。影狩りと呼ばれる人々からの逃走劇にはハラハラし、そして明かされる秘密もまた衝撃的だった。若かれしソフィアの選択ははっきりとは描かれていないが、きっと「そう」なんだろうなと思う。余韻がとても良かった。
Posted by ブクログ
SF短編集。短編といっても300ページ超えの本に4作なので、それぞれ70ページくらいはあるので読み応えはある。
『射手座の香る夏』
自分の意識を動物に載せることができる世界。なんというか、最初からすごい未来感で不思議。
『十五までは神のうち』
十五歳で、このまま生きていくかリセット(生まれなかったことにする)を選べる世界。リセットされてもその人に関する記憶がなくなるわけではなくて残された家族はつらい。兄がリセットを選んだのは何故なのか。
『さよなら、スチールヘッド』
これが個人的に難しかった。一番長い作品なんだけど、自分の意識を仮想空間に入れることができる世界。二つの世界を行き来する物語にちょっとついていけなくなったりした。
『影たちのいたところ』
おばあちゃんが話してくれたのは嘘みたいな体験談。子供の頃に出会った9つの影を持つ子との出会い。その影たちがみんな違う人の影でちゃんと自我があるのが面白い。
全体的にSFでもしかしたら未来にはこんなことが起きるのかも?いやまさか起きないでしょ、とも思える作品たちだった。
個人的には影たちのいたところが好きかな。たくさんよ影を連れてみたい。
Posted by ブクログ
24/05/12
Xでたびたび推薦コメントを見かけたので。
どの作品も良作で、タイトルのセンスがある。繊細でロマンチックで、過剰ではない。できれば夏の気だるい暑さの日に読みたかったな。好きなのはやはり十五までは神のうち、か。
飛浩隆の解説もよかった。ジュブナイルとアクチュアル、というワードがぴったりの作品たちだった。インタビューの引用箇所も素晴らしい。
私の考える「世界の果て」というのは、つまりこの感覚です。自分が信じられないほど遠くにーーこの後の人生で二度と訪れることが出来ないであろうほど遠くに来てしまったという(若さゆえの)感覚。その一瞬を切り取ることが、物語を書くうえで一番のモチベーションになっています。
Posted by ブクログ
CL 2024.7.6-2024.7.9
SF連作短篇集
「十五までは神のうち」がよかった。
ただ、何もかも無かったことになるのに残された人の記憶には残り続けるというのは、残酷だし整合性が取れていないのではないかと感じた。