あらすじ
「はじめに」より
本書は、精神医療界のオールスターチームによるメンタルヘルス向上のためのガイドブックです。回復に役立つ知識から社会的課題を解消するヒントまで、ありったけの情報を盛り込みました。
個々に主役を張れるほど著名な精神科医たちに、ウルトラ兄弟のように大集結してもらったのには理由があります。薬にばかり頼って来た精神医療が袋小路に入り込み、史上最大級のピンチに直面しているからです。このままでは患者が益々追い込まれてしまいます。(中略)
各章に登場する精神科医たちは、20世紀から続いてきた薬物療法偏重という生物学的精神医学の激流の中で、時に大波にのまれながらも踏み止まり、患者の「こころ」と向き合い続けた人たちです。葛藤の中で見出された精神療法などの叡知を、生きづらい自分や劣化する社会を変えるために共有し、「みんな」のものにしたい。それが本書の狙いです。
第1章 依存症「ヒトは生きるために依存する」
松本俊彦さん(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)
第2章 発達障害「精神疾患の見方が根底から変わる」
原田剛志さん(パークサイドこころの発達クリニック院長)
第3章 統合失調症「開かれた対話の劇的効果」
斎藤 環さん(筑波大学医学医療系社会精神保健学教授)
第4章 うつ病・不安症 「砂粒を真珠に変える力」
大野 裕さん(国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター顧問)
第5章 ひきこもり「病的から新たなライフスタイルへ」
加藤隆弘さん(九州大学大学院医学研究院精神病態医学准教授)
第6章 自殺「なぜ自ら死を選ぶのか」
張賢徳さん(日本自殺予防学会理事長/六番町メンタルクリニック院長)
第7章 入院医療「新時代を切り拓く民間病院」
堀川公平さん(のぞえ総合心療病院理事長・院長)
渡邉博幸さん(千葉大学社会精神保健教育研究センター特任教授)
成瀬暢也さん(埼玉県立精神医療センター副病院長/埼玉医科大学病院臨床中毒科客員教授)
秋山剛さん(世界精神保健連盟理事長)
高木俊介さん(たかぎクリニック院長/オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン共同代表)
アーロン・ベックさん(認知行動療法の創始者)
田邉友也さん(訪問看護ステーションいしずえ代表)
樋口輝彦さん(国立精神・神経医療研究センター名誉理事長/日本うつ病センター名誉理事長)
野村総一郎さん(六番町メンタルクリニック名誉院長)
和気隆三さん(新生会病院名誉院長)
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
全ての章は読めていないが、関心のある疾患の章だけ拾い読み。
全体の構成としては、医療ジャーナリストの著者が依存症や発達障害、統合失調症などの分野で第一線にいる臨床家にインタビューしながら、各臨床家の考え方をとてもわかりやすく書いてくれている本(だったと思う)。
特に、その臨床家の顔写真を載せてくれている点がこの本の白眉だと思う。
この顔写真の先生が、どのように医者を目指し、どのような紆余曲折を経て、今の臨床に至ったのかをイメージしながら読み進めることができる。
Posted by ブクログ
すごくすごく興味深い本でした!
フィンランド・西ラップランド地方の精神科病院ケロプダス病院で生まれた「オープンダイアローグ」の話に驚いた。
p91 「オープンダイアローグの対話が深まっていくと、意味不明な幻聴や妄想と思われていた患者の訴えの理由が、周囲にも分かってきます」と斎藤さんは語ります。こうして周囲の理解が深まると、孤立から脱した患者が落ち着くのは当然のことです。更に斎藤さんは、「患者自身が病的体験を言語化(物語化)することで、無意識に抑圧されていた葛藤や欲望が分かったり、恐怖が和らいだりする治療的意義もある」と説明します。
フィンランドでオープンダイアローグを導入した地域では、服薬が必要となる統合失調症患者は35%(通常治療群は100%)にとどまりました。また、2年間の再発率は24%(通常治療群は71%)、2年後の精神症状残遺率は18%(通常治療群は50%)、障害者手当の受給率は23%(通常治療群は57%)と目覚ましい成果を上げました。対話が治療の中心で抗精神病薬をあまり使わない患者群の方が、抗精神病薬を飲み続けた患者群よりも健康状態がはるかに良好だったのです。
p100 薬は時に有用ですが、時に害にもなります。良し悪しをきちんと踏まえて判断するのが科学的な態度です。ところが日本では、薬の漫然使用や安易な病名づけを疑問視しただけで、すぐに「反精神医学」や「カルト」扱いされます。既得権益や同調圧力のため思考せず、事実無根の決めつけで異論を切り捨てる空気のまん延が、精神医学や精神医療の健全な発展を阻み、患者の回復を妨げているのです。
p103(全国でオープンダイアローグを受けられる日はやってくるかと聞かれて)
「それは無理だと思っています。フィンランドですら無理なのですから。今の医療は、圧倒的にバイオロジー(生物学)なのです。精神科医は、どうしても内科医のように振る舞いたいんですよ。その欲望がある限り、バイオロジーは捨てられないと思います。精神科医は、今さら心理士やカウンセラーのようなことはしたくないのです。内科医のように正しい診断をして、正しい治療をすれば治る、という幻想をなかなか捨てられません」
「私は、それは間違っていると思いますが、多くの精神科医はこれ以上、三流のない回的な立場でいるのは耐えられないので、自分達を一流の内科医に近いものと言いたいのです。一種の屈辱感を持っていると思います。この発想はなかなか変えられないだろうと思います」
p106 (要約)日本は健康寿命などのスコアは高いのに「人生の選択の自由度」や「他者への寛容さ」の低さが目立つ。同調圧力で他社に振り回され、多様性を受け入れる寛容さを持てないということか?これは対話泣き社会の末路のようなもので、日本人こそオープンで豊かな対話が必要だ。
日本のオープンダイアローグへの関心の高さは、対話の欠乏感ゆえ、なのかも? 対話実践がメンタルヘルスの分野を超えて、一般家庭、教育現場、起業などにも浸透し、日常の中で自然に活かせるようになれば、日本はもっと生きやすくなるはずだ。
p217 一般社団法人日本うつ病センターの無料メンタルヘルスセミナー(オンライン開催)を、同センターのWebサイトで見ることができる。
この本に登場する大野裕先生や加藤隆弘先生など著名な精神科医が登場。
Posted by ブクログ
新聞広告だったか何だったか、本書の刊行を知る。錚々たる精神科医たちをはじめ、精神医療に携わる面々への取材をもとにまとめられたものらしい。なによこれ、こんなん絶対読まないわけにいかないじゃないの!と、早速手にした。
いやーよかった。
どの章も、精神医療の現場を、こうであればいいのに、と願っていた私の思いをそれぞれの医師が汲んでくれたような内容ばかり。
こんなふうにサポートをしたかったとつくづく思った。
今の仕事の臨床でも役に立つような具体的な記述も多く、また自分のいつもの取り組みを肯定されたような気持ちにもなり、本当に読んでよかった。
久留米ののぞえの丘病院の件では、当時齋藤院長が都立松沢病院で取り組んだ改革も思い出し、ああいいな、やっぱりこういうのいいな、こうであるべきだなと改めて思った次第。
そうしてやっぱり思ったのは、対話の力。きちんと話を聞くこと、一緒に考えること、人対人として関係をつくること、そこに行き着くなあ、と。時間をかけて、話し、関係をつくることに勝るメンタルの治療はないよ。
今ひとつ納得できないことを挙げるとすれば、本を手に取ってもらうための付け方なのかもしれないけれど、タイトルはこれがベストなのか?ってこと。本書を表すには、別にふさわしいタイトルがある気がするけど。
あと、本の帯に「心の不調を感じた時に最初に読む本」とあるけれど、これはむしろ、本人よりその家族や周囲の人が読むべきでは。
そして以下は思いっきり蛇足。
本書に登場した著名な精神科医が、以前(かなり前)私が勤務していた会社の上司のご家族。精神科医をされているのは知っていたし、著名な方なので、今までにお顔を拝見する機会があっても良さそうなものだったが残念ながらその機会がなく。今回初めて拝見。あ、似てる!やっぱ似てるわ〜。しみじみ。ってのも変だけど。ある懐かしささえ感じるわ。
そしてそして、著者の別の著作も読みたいと思っていろいろ確認したら『なぜ、日本の精神医療は暴走するのか』は一年くらいまえに既読だった。私が付けた評価は⭐︎三つ。うーん、どんな内容だったかなあ…。
Posted by ブクログ
薬に依存しているのは、患者だけでなく、この医療業界全体の可能性があることに大きな危機感を抱きました。
オープンダイアローグは、大学の講義で取り扱ったこともあり、精神医療の分野において、大きな成果を残せると考えています。対話が行われる環境がもっと身近になれば、業界全体が前進するのではないでしょうか。
Posted by ブクログ
オーディオブックで聴了。精神医療の最前線で働いてきた人たちが、何を考え、どう行動したかが紹介されています。願わくば、この方々の試みが広がりますように。、
Posted by ブクログ
Audibleにとても合った書籍だった。聞きやすく内容が頭に残りやすい。
精神科医のわりかしキラキラした部分が描かれた書籍だっけけれどもっと精神科医の苦悩とかに焦点を当ててほしかったなぁと個人的には思う
Posted by ブクログ
【目次】
第1章 依存症「ヒトは生きるために依存する」
松本俊彦さん(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長)
第2章 発達障害「精神疾患の見方が根底から変わる」
原田剛志さん(パークサイドこころの発達クリニック院長)
第3章 統合失調症「開かれた対話の劇的効果」
斎藤 環さん(筑波大学医学医療系社会精神保健学教授)
第4章 うつ病・不安症 「砂粒を真珠に変える力」
大野 裕さん(国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター顧問)
第5章 ひきこもり「病的から新たなライフスタイルへ」
加藤隆弘さん(九州大学大学院医学研究院精神病態医学准教授)
第6章 自殺「なぜ自ら死を選ぶのか」
張賢徳さん(日本自殺予防学会理事長/六番町メンタルクリニック院長)
第7章 入院医療「新時代を切り拓く民間病院」
堀川公平さん(のぞえ総合心療病院理事長・院長)
渡邉博幸さん(千葉大学社会精神保健教育研究センター特任教授)
コラム:
「ようこそ外来」とハームリダクション
成瀬暢也さん(埼玉県立精神医療センター副病院長/埼玉医科大学病院臨床中毒科客員教授)
グレーゾーンとリワーク
秋山剛さん(世界精神保健連盟理事長)
精神疾患の在宅支援(ACT)
高木俊介さん(たかぎクリニック院長/オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン共同代表)
認知行動療法の最終進化系CT-R
アーロン・ベックさん(認知行動療法の創始者)
トラウマを理解し,支える訪問看護
田邉友也さん(訪問看護ステーションいしずえ代表)
面接時間を延ばす
樋口輝彦さん(国立精神・神経医療研究センター名誉理事長/日本うつ病センター名誉理事長)
野村総一郎さん(六番町メンタルクリニック名誉院長)
グリーンホスピタル
和気隆三さん(新生会病院名誉院長)
Posted by ブクログ
こころの病を治療するのは日本では今まで薬の投与に偏重いていたが、オープンダイアログ(メディカル、コメディカル家族との対話を通じて)に進むとしている。
msdical cure or treatment ではなくCAREである。日本の精神病院のベッド数は世界でも抜きんでて平均在院日数もとびぬけている。
ちょっと筆者前のめりすぎないかな。気になった。
Posted by ブクログ
心のケアの問題は単純には言いづらい。多様な要因からなっている部分もあり、何が正しいか何が間違いかというのは一概に言い難い。我が国のメンタルケアは国際基準としては圧倒的に遅れているのは事実であり、政策を早急に変えていくことは必要ではある。本書はその現状をジャーナリストとして、熱い思いで伝えるものであるが、少し感情的になっている部分は否めないのが少し残念であった。
Posted by ブクログ
薬物のみではなく、認知行動療法やオープンダイアローグを適切に用いていくことで、寛解を目指す方針。「グレーゾーン」という語が一人歩きしているが、「困っている」状態は事実であるので、当事者の苦しさを受け止めて上記の治療に繋げる。
日本はまだまだ精神疾患への理解がされていないので、正しい情報と理解を広げていく必要がある。
Posted by ブクログ
本著全体の主張は対話を通して精神を不安定にさせている原因を取り除こうというもの
直感的に合っているし、そうあってほしいと思う
ただなんとなく薬を投与して治すことを推している側の意見も聞きたくなった