【感想・ネタバレ】動物哲学物語 確かなリスの不確かさのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 動物を題材に哲学を語る。良い試みだと思う。

 森で孤独なクマ少年が、どこからか注がれる視線を通じ森との一体感を認識したり、若きキツネのメスが幼い次世代の弟を案じ自己犠牲もいとわず他者との関係の上での自分を認識したり、サル山のボスの存在はその個の力ではなく迎合する大衆があってのことではないかと問いかける。さらには、ボスという認識ですら、「人間社会をサルの世界にそのまま投影」した人間側の早合点ではないかと看破するあたりも痛快。

 ただ、あまりにも著者のそうした意見が表に出過ぎていて、昔読んだ動物物語のように、その動物になり切って、あるいは静かに第三者的目線で自然の生態を垣間見て、そこから学びを得るという感が少ない。
 『ペロリン君の進化』という章では、ネズミと主人公のアリクイ(彼がペロリン君)に、こんな会話をさせる。

ネズミ: というと、わしらは進化しとらんということか?
アリクイ: 頭がよくても、殺し合いをやめられない生き物もいます。僕たち生き物には、進化ではなくて、変化があるだけなのかもしれませんよ

 昨今の人間の愚考への戒めであることが、あまりにもあからさまに見て取れて、いかがなものか。

 実際、動物の行動から学び、感じることは多い。それらの行動に意味づけをし、メスキツネの行動に和辻哲郎の「間柄」を当てはめ、アホウドリにはソシュールの「言葉とは何か」、コウテイペンギンにはフランクルの「ロゴセラピー」と、哲学的命題をあまりに意識させすぎてないかという気がした(実際、哲学と動物の行動をリンクさせて書いていったのだそうだけど)。やりすぎると、それこそ、この本が、サル山のボスの存在意義を意味付ける人間側の思い込みtと同じ産物になってしまう。
 もう少し、物語として、寓話的にオブラートにくるんだほうが、読者にも考えさせる余白があったやに思うが、贅沢な要望か。

 とにかく、序盤は、ツキノワグマは’20年度に6085頭が捕殺されているとか、鎌倉のタイワンリスも害獣指定を受け今や捕殺対象だという情報が出てくるたびに、無味乾燥なデータが物語とそぐわない感じがしたり、あれこれ著者が顔を出して意見するかのような部分が邪魔に感じる(顔出しちゃいけないわけではないのだけど)。
 動物の物語なら、語り部は彼ら自身か、あるいは神の視点から彼らを見守るナニモノかが語っているような、控えめなテイストで良かったのではないかと思う。

 本書、書き始めた順に収録されているのだろうか、徐々に良くなっている気はする。ゾウガメやコウテイペンギンの章なんかは(ほぼ終盤の2編)、物語としても泣けるし、よいお話でした。

 更なる続編には期待したい企画ではある。

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2023年12月09日

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