【感想・ネタバレ】命の家 上林曉病妻小説集のレビュー

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Posted by ブクログ

 作者上林暁の著作は、これまで本書の編者山本善行氏の編集したものをt何冊か読んできたが、本書は、上林のいわゆる「病妻物」と呼ばれる作品に絞って編集された作品集。

 上林の妻は昭和14年に精神の病を発症(現在に言う統合失調症だったようだ)し、昭和21年に入院先の病院で亡くなったが、本書では初めて入院させる際の様子を描いた『林檎汁』から始まり、病院から一時的に家に戻ったときの子どもたちとの接触の様子を綴った『命の家』、病院で付き添った際の妻とのやり取りが描かれる『聖ヨハネ病院にて』(戦時中ということもあり、乏しい食べ物を巡っての夫婦間の悲喜が印象的)、臨終の死に目に間に合わなかったときから葬儀までを描く『嬬恋い』、幼くして母と離れた暮らしを余儀なくされた子どもたちそれぞれに送る父親の手紙『庭訓』などを読み通すことで、読者としても上林の妻に対する思いを追体験するような感情に捕らわれる。

 これらの作品は、現実の時間の進みと同時進行で書かれ発表もされているわけだが、いくら私小説作家とは言え、妻の病気(それもこの時代には気違いと言われた病気)のことを書くことは非常に大変なことだったと思われる。作者自身、「お父さんは、小説の中には、包み隠さず、あからさまに何も彼にも書いたよ。小説を書く以上、そこまで突き詰めて書かなくては承知出来なかったんだ。嘘や隠し立てをして、自分の境遇をごまかしては、作家の道がすたれるとさえ思ったのだ」(本書289頁)と書いているが、正に作家としての意気地を感じた。

 もちろん、8年という長期間のこと、作者自身の綺麗ごとでは済まないいろいろな感情や態度も生々しく描かれているが、それだけに一層心撃たれるものが多い。
 
 

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2023年11月21日

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