あらすじ
生きづらさの往復インタビュー。発達障害の当事者と、潰瘍性大腸炎の当事者が、互いを取材して考えた、それぞれが抱える苦悩と、それぞれにしか見えない世界。心と体はどっちがどうつらい? ふたりの当事者が、議論をたたかわせてケンカする!
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Posted by ブクログ
頭木さんの文章は好きだし、横道さんも注目の書き手なので読んでみた。
大変よかった。
確かにインタビュアーとインタビュイーが固定だと、インタビュアーは(自分は安全地帯にいるのに相手のことに突っ込むのはどうかと思い)遠慮したり忖度したりしてしまう可能性がある。交代で役割を変えることによって、自分も突っ込まれる覚悟を持ってさえいれば、相手にも突っ込めるというわけ。
特によかったのは、発達「障害」なのか?という日頃から抱いていた疑問に答えが出たこと。「発達障害」は行政用語で、障害ではなく「ニューロダイバーシティ」、つまり脳の多様性だという考えが90年代から出てきているらしい。かつては同性愛やトランスジェンダーも精神疾患として治療の対象となっていたが、社会の方が変わった。発達障害という概念も修正される可能性は大いにあるということ。
また、自閉スペクトラム症には男性の方が多いというのも不思議の一つだったが、それは基準が男性中心に作られているからだというのも、なるほどと思った。
頭木さんの、発達障害の人には固有の感じ方考え方がありそれが文化と言えるが、(頭木さんの持病である)潰瘍性大腸炎の文化はないと思う、という言葉に対し、横道さんがある、と答えているのも興味深い。
発達障害の人がドラマに出てくる「天才的能力を持つ発達障害者の女性と理解ある彼くん」にうんざりするとか、病人にも病人を差別する感情があるとか、納得する話も多かった。
頭木さんのタイムスリップものや難病ものに対する怒りにも共感。
新しい知見が得られ、当事者にしか言えないことを聞け、本物の「多様性」や、人間存在そのものについても深い気づきを得ることができた。
お二人とも肝を据えて語った、素晴らしい本。
Posted by ブクログ
まず、タイトルと表紙の虎がすごくいい!
おふたりはそれぞれ自分の心や体に困ってる“当事者”だけれど、困りごとの種類や状態、対処法も全然違う。そんな真逆のふたりがお互いにインタビューし合うことで理解を深めながら見えて来た世界とは?横道さんの発達障害の説明はわかりやすく(時には過剰なほど詳細だけど)編集者が大胆に再構成し大幅に短縮した、とのことで一冊丸ごと読み易いのに読み応えあり。
Posted by ブクログ
心で困っている人と体で困っている人の往復インタビュー本
ケンカする、とは随分物騒だが、読み進めるとなるほどと思うし最終章でその芯についても語り合っている
お二方の人柄か、インタビュー形式ということもあってかとても読みやすかった。他人への攻撃性があまりないからかもしれない。男性同士で集まるとありがちな女性蔑視や女性を使ったマウンティングも無いので落ち着いて読めた。それぞれが抱えている問題の影響なのか、男性・女性もそうだが、世の中の物事に対して過度に肩入れせずにとてもフラットに見ている印象がある。
手をもう一本生やすのは無理だとわかっているのに、心は変えられるという認識が世間にはある、というくだりが面白かった。手は生やせない、心は変わっていくが、それは良い方向であるとは限らない。
あとがきの横道氏の、タイトルで勝手に反感を持って、この著者の本は読まないぞと決め込むのすごくわかる。
Posted by ブクログ
発達障害の当事者である横道さんと、潰瘍性大腸炎の当事者である頭木さん。
それぞれの生きづらさについて2人が互いにインタビューをし合ったものをまとめた一冊。
タイトルに「対決」「ケンカ」といった言葉が並ぶが、意見を戦わせるような内容ではない。
むしろ対話をするなかで、自身の生きづらさを再確認し相手の生きづらさを知っていくような内容だった。
それによってお互いの共通点や相違点が見つかっていき、個人の話から社会の話へと広がっていったように感じた。
自分自身読んでいて、共感できるところや、想像しなかった生きづらさについて知れたことがあった。
特に印象的だった話の1つは頭木さんの、ほんとうは対応できるのに、少数の意見で「特別な配慮」はできないと、「ふつうのやり方」を押し切られてしまうという話。
そしてそれは、「ふつう」自体が動くとあっさり変わってしまう、と。
コロナ禍により、生活様式が急速に大きく変わったことに関しての話だった。
自分もコロナ禍により不便さが増えた部分は多かったが、コロナ禍以前より楽になった部分も確かにあったように思う。
例えば、体調が悪いときには無理せず休むことが推奨されるようになったこと、様々な用事や手続きがオンラインで済ませられるようになったこと等だ。
コロナ禍以前より望んでいた人もいたと思うけれど、結局のところ「ふつう」が変わらないとなかなか実現しなかったものもあるのだと思う。
個人の生きづらさに関することのみならず、社会の構造についても考えさせられた一冊だった。
ユーモアも交えていて読みやすく、横道さんと頭木さんそれぞれの他の著書も読んでみたいと感じた。
Posted by ブクログ
往復書簡のような対談集。それぞれの悩みの質も内容もちがうが、生きていく上で、何にぶつかり、何によって沈んだり前に進んだりできるのかが、具体的で手に取るようにわかった。
私は就職氷河期というレッテルから逃れられずに未だ職探しの渦中である。ちょうど2ヶ月前に入院手術と自宅療養を経験してから、本当にこれからも職探しを続けられるのだろうかと暗い気持ちになっていた。貧・病・争と共にこれからも生きられるのだろうか。できれば生きたい。
Posted by ブクログ
対決というよりは、真っ当な対話だと思う。
「ASDのこだわりをADHDが邪魔をする」という現象が、もう本当に当事者じゃないと分からない感覚だなとびっくりした。
Posted by ブクログ
なかなか心と体はやはり切っても切れないものだし、それぞれの経験は深いから一冊にまとめるのは難しい気がした。
横道さんの生い立ちも凄まじく、宗教二世の話もあり、心云々の前にそれに驚いてしまったし、性についての話は少し読んでて疲れた。
頭木弘樹さんの本としては「食べることと出すこと」の方がおすすめ。
横道さんの
「大衆文学は難しい
大衆文学は、定型発達者同士の情緒的な交流
大衆文学は共感を求めてくるから非常に読みにくい
純文学のほうがむしろ読みやすい
純文学は一種の抽象性
現代アート的、単純化
それがある意味わかりやすい」
という内容は、そういう見方もあるんだなと、印象に残った。