【感想・ネタバレ】大量絶滅はなぜ起きるのか 生命を脅かす地球の異変のレビュー

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Posted by ブクログ

『シュットブルージュの研究成果までが、いまわかっている大地の変化である。これより先のページで語ることは、限られたデータからの推論が主体となる。(中略)あるいは、大量絶滅にかんする正しい知識を得るために本書を手にとられた方や、研究者の科学的姿勢を尊重する方は、ここで本書を閉じることをお勧めする』ー『これから先で語ることについて/第7章 消失』

いわゆる地質屋と呼ばれる職種を何十年もやってきてつくづく思うのだけれど、地質学という学問の分野は一応理科系の分野であるとされるが、博物学的意味合いの強い学問であり、物理や化学のように因果律に基づいて観測される事象やその変化を解析できる法則や理論がはっきりとあるわけではなく、かつ、扱う対象も生物学的な対象(動植物の化石)や物理・化学的対象(岩石の鉱物組成や化学組成、あるいは鉱物や粒子の集積様式)、観察対象の地理学的特徴や対象同士の相互関係の見極め、と幅広い、というか取り留めがない。

それら雑多な情報を総合的に解釈して過去に何があったのかを推定するというのが多くの地質屋と呼ばれる人たちが主に行なっていることなのだが、それ故、その仕事は本書の著者も例えているように雑多な証拠から推理して過去に起きた事件の真相を明るみにする探偵にも準えられる。確かにそうだと思うし、理屈っぽい(そして頑固)と言われるタイプの人間に出会う確率の高い人々の集合だとも思うが、他の理科系的職種の人々と決定的に異なるのは、「正解」というようなものが存在しないと初めから分かった上で(かつタイムマシーンが発明されない限り真の意味での検証は不可能だということ知っている上で)見てきたような嘘を吐かなければならないということ。逆に言えば、余程の観察対象の誤認識やデータの解析/解釈の誤謬がなければその嘘が真実のように語られてしまう宿命を負った人々だともいえる。だから、冒頭引用した文章のようなことを宣言しておいて自説を開陳する地質屋は中々に珍しいのだということも読者には分かってもらいたいなと思ったりする。何故なら、繰り返しになるが、タイムマシーンが発明されない限りその嘘を嘘と確定することは誰にもできないのだから。

もちろん、この冒頭の言葉は反語的なニュアンスで語られているものではないけれど、著者がこの分野の考え方の基本に不慣れな人にも解ってもらえるよう丁寧に説明する三畳紀末の大量絶滅に至るシナリオの持つ蓋然性はある程度高く、著者の自説に対する自負のようなものが透けて見えなくもない。実際、その説のあらましを聞いた印象のみで判断するなら、全ての証拠を無矛盾に説明するものではないにせよ、多くの事柄を整合的に説明し得るシナリオであると思う(あるべき地質屋の態度としては、データを自身で吟味して判断するべきではあるけれども、と一応、保険のようなものは急いで掛けておく)。そして雑多な観察対象を抱える分野であればこそ起りがちな特定の専門分野のみの視点から事象を読み解くようなことはせずに、様々な事実を統合的に解釈するという姿勢も好感が持てる。中でも地球環境の変化に寄与する重要な要因として二酸化炭素の気水圏内での循環に着目しているのが面白い。

二酸化炭素の濃度というと気候変動という言葉や地球温暖化という言葉と伴に、その言葉が暗黙に参照する産業革命以降の大気中の濃度の変化のことを直ぐに思い浮かべてしまうかも知れない。だが、注目して欲しいのは、政府間パネルなどが依拠しているモデル上のそれらのパラメータの役割はほぼ物理学的な関数の入力値としてしか機能しないのに対し、著者の視点はそれに加えて、生物活動に与える影響や生物による二酸化炭素の固定あるいは循環も含めて、地球化学的な反応に与える影響を、時間軸上も長い目で見て(地質学の基本的時間の単位は約百万年)大局的な傾向を規制している要因として捉えている、ということ。生物と環境が複合的相互依存の関係にあるのは当然のことながら、物理モデルが前提とするような単純な因果律に従っている(例えば二酸化炭素の大気中の濃度が高くなれば地球の平均気温が上昇する、という)ようにも見える環境変化の痕跡を、地質学的データからは短絡的に読み取らない、ということ。その話を聞いて納得するかしないかは読む人にお任せするしかないとは思うものの、少なくとも物事は左程単純明快なものではないというメッセージだけは読み落とさないでおいてもらいたい。例えるなら、ネットで流れてくる広告のように、数独を毎日解いていれば老化を防げる、というような結論に飛びつくのではなく、少なくとも数独を毎日解くような面倒臭いことをすることを厭わない脳の活動の癖はつくということだなと読み取ることが大切ですよ、というようなメッセージを本書からは受け取ってもらいたいように思うのだ。

さて、本書の中身はどうかというと、書かれている地質学的事実は当然しっかりとしたものだし、それをどう解釈するかという点においても丁寧な論理展開が開示されている。そして今更ながら地質学上の常識というものが自分たちが学生の頃に覚えたものから進化しているということにも気付く。それは誤認されていた事実の再定義という側面があるのに加え、細分化されていた地球科学的対象物が統合的に解釈されるようになってきた為でもある。タイムマシーンは発明されていないが、地球博物学が徐々により地球科学と呼べるようなものになってきている。ここらで学校の教育カリキュラムも見直したらどうだろう。

膨大なデータ群を前にして、単なる寄せ集めになってしまってはいけないが、情報を統合して解釈を求めるということの大切さを改めて感じたところである。

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2024年01月21日

Posted by ブクログ

三畳紀末大量絶滅の謎を解きながら、現代の大量絶滅を知るための手掛かりを探す。学術的だが読みやすい本。

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2023年11月21日

Posted by ブクログ

ストーリー仕立てで三畳紀の大絶滅が発生した原因を1つ1つ紐解いていくのが面白い。最後の著者による大絶滅が発生した仮説についても非常に興味深い。

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2023年10月10日

Posted by ブクログ

地球生命史に起きた過去5回の大量絶滅は原因を含めて解明されていないこともまだまだ多い。それらを解明することは現在の地球が6回目の大量絶滅に突入してしまっているのかを考えることにもつながる。本書は特に三畳紀末大量絶滅について考察を進めていくものだが、実証された定説というのではなく、未知の状況に対して地質学者がどのように仮説(超高温化)を立て検証を進めているのか、その思考や研究の進み方や難しさなどが表れておりとても面白かった。

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2024年05月02日

Posted by ブクログ

 BIG5の原因について実はよく分かっていない。そして現在6番目の大量絶滅時代に突入しているのかもしれない。多くの生命は、地球環境と他の生命と微妙な相互依存の関係にあり、ほんの少しバランスを欠いたことが大量絶滅のキッカケになりかねない。
 

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2024年04月04日

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