あらすじ
1795年、フランスとの長きにわたる戦いによって、イギリス海軍は慢性的な兵士不足に陥っていた。戦列艦ハルバート号は一般市民の強制徴募によって水兵を補充し、任務地である北海へ向けて出航する。ある新月の晩、衆人環視下で水兵が何者かに殺害されるが、犯人を目撃した者は皆無だった。逃げ場のない船の上で、誰が、なぜ、そしてどうやって殺したのか? フランス海軍との苛烈な戦闘を挟んで、さらに殺人は続く。水兵出身の海尉ヴァーノンは姿なき殺人者の正体に迫るべく調査を進めるが――海上の軍艦という巨大な密室で起きる不可能犯罪を真っ向から描いた、第33回鮎川哲也賞受賞作。/第33回鮎川哲也賞選考経過、選評=辻真先 東川篤哉 麻耶雄嵩
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第33回鮎川哲也賞受賞作。主人公ネビルの日常が強制徴募によって破壊されるというショッキングな序盤や過酷な船内生活などドラマチックなストーリーで純粋に面白かったです。
ミステリ的には帆船軍艦内での不可能犯罪という設定は魅力的で、舞台を活かしたオンリーワンなトリックも良かったものの、演出の仕方次第ではもっと面白くなりえただけに勿体ない印象を受けました。
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帆船軍艦での訓練や生活、戦闘が生々しく描かれておりパイレーツオブカリビアンの世界が味わえる。その中で起こる殺人事件。真っ暗闇の夜や不可能状態など面白く読めた。
オチは強引なハッピーエンドなのが御愛嬌。
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18世紀イギリス海軍、水兵の現実と戦争の不条理さが切ない冒険&本格ミステリー #帆船軍艦の殺人
■あらすじ
18世紀のフランスと戦争状態だったイギリスでの物語、イギリス海軍は帆船軍艦の水兵の人材が不足していた。靴屋を営んでいた主人公ネビルは、ある日酒場で友人と呑んでいたところを、海軍につかまってしまう。彼は強制的に軍艦に乗せられ、水兵として働くことになってしまい…
■きっと読みたくなるレビュー
国産ミステリーとは思えない、18世紀の海洋を舞台に繰り広げられる物語。イギリス海軍、帆船軍艦の水兵たちの現実をありのままに描きながら、船内で発生した殺害事件を謎を解き明かす本格ミステリーです。
文章もシンプル丁寧で読みやすく、まるで海外ミステリーを読んでいるような趣き。そのままアニメーション映像にできちゃうくらいの完成度でしたね。
本作はとにかく帆船軍艦と当時の軍隊についてよく調べられていてスゴイ。これは勉強になる。特に水兵の扱いた船内での生活なんかを見ると、いつの世も戦争の不条理さを感じて切なくなります。
特に腹立たしいのは、戦争に勝つことが最優先で、それ自体が正義とされてしまうことです。巻き込まれた市井の民たちが、どんなに運命に恨んだとしても、その中では希望を見つけようとしてしまうこと。悲劇が悲劇を生み、不幸が不幸を招いてゆく。いつの時代でも場所や方法を変えて繰り返される戦争には憤りしか感じられません。
キャラクターも上官、仲間、家族と性格や特徴が分かりやすい描写なので、すぐに感情移入できちゃう。まるで水兵のひとりになってしまったような臨場感でした。
鮎川哲也賞を受賞した新人先生とは思えない、まとまった出来具合。楽しませていただきました。
■ぜっさん推しポイント
大好きな映画『U・ボート』を思い出してしまいました。海底の深く、密閉された潜水艦という狭い空間の中、人間の極限状態が描かれる映画です。
一方的な戦争の意義を叩きこまれ、未来と夢のあるはずの若者たちが変えられてしまう悲しさが描かれる。生き残るためだけに文字通り必死になる姿は、まさに狂気です。戦争の罪咎が人間にどんな影響を及ぼしてしまうのか、本作でも大変よく伝わってきました。
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阿津川先生と青崎先生が揃って今年のベストに挙げていたし、一般の方からも評判が良かったので、楽しみにしていた作品。
鮎川哲也賞は、やっぱりハズレが少ないなーという印象。
軍艦の上で起こる殺人ということで、知らない慣習も多く序盤でも飽きない。
船乗りというと、荒くれ者が多いかと思いきや、意外に新人の面倒見が良く、研修?みたいなこともしっかり行われる。
久々に当直の交代時間を書き出したり、5層ある戦艦の階層をメモしたが、あんまりトリックには関係なかった…残念…
もっと食卓班の皆の話も掘り下げてほしかった。みんな魅力的なキャラだったので。
あと、どうでもいいところだけど、ネビルが捕まるまで飲むのはエールで、船に乗ってからはビールというのは、明確に記述を分けたかったんだろうなぁ。どんなこだわりなのか気になる…
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久しぶりの鮎川哲也賞大賞作品。イギリス海軍の帆船軍艦で巻き起こる事件を扱った正統派本格ミステリ。強制徴兵されたネビルの目線と殺人事件の真相解明を任されたヴァーノン海尉の目線が主だが数多くの人物を魅力的に動かして読ませる。事件はまとまっており特に1つのトリックには大いに興奮した。そっちで来るかと。また前半の軍艦内での生活を丹念に描く部分は冗長的とも取られるが個人的には◎。やっぱり大航海時代の物語が単純に好きだと実感。展開がよめてしまう所は勿体無いものの犯人あても全うで新人作品としてはありなんじゃないかな。
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良作。鮎川哲也賞って本格に大きく偏っているイメージなんだが、本作は謎解き部分はかなりあっさりしており、どちらかというと、強制徴用により妊娠中の妻と離別した男の苦難を描いた冒険譚的なパートが非常に面白かった。
水兵は4時間ごとの2交代制で過酷な肉体労働を強いられ、睡眠時間もわずか4時間。食べ物はウジ虫の沸いたビスケットと塩漬けにされた硬い肉。士官に気に入らないことがあると水兵は鞭を打たれて、全身に赤い模様が浮かび上がる。そんな環境で精神が荒廃し、狂い出す者も多い水兵達だが、語り手ネビルは同じ水兵仲間と打ち解け合うことでなんとか正気を保っているが、仲間と共に船からの脱出を試みる。そんななか不可能状況で水平達が次々殺されていき…という内容。
不可能状況は1つ目と3つ目で、前者は暗闇の中でどう標的を狙ったのか?後者は密室からの犯人の消失であり、いずれも舞台設定を存分に生かしたユニークなトリックである。ただ、数十人単位で死ぬ海上戦が描かれてしまうと、連続殺人はいささか添え物の感があり、本格厨の私でさえ緻密に計画された脱出劇を見たかったという思いがないこともない。
選評を読むと著者は最終候補に残るのは5度目ということで、著者の精神力と体力が本作の水兵達を凌ぐレベルで凄い。本作は受賞して然るべき作品と思う。鮎川哲也賞にハズレなしが今のところ継続されている。
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序盤はいいものの、肝心の真相部分とか後半がやけに駆け足だったりとかとこまごまとした不満がないでもないですが、それよりもなによりも「帆船軍艦」という舞台設定があまりにも魅力的すぎる。もちろん登場人物たちは過酷な状況下であるのはわかってはいるんですが、読み手としてはその生活環境がとにかく興味深い。もうそれだけでも一読の価値ありだと断言できます。
しかし帆船についてもっと掘り下げられそうな部分も多く感じたので次回作もなんなら帆船もので!もっと読みたい!というのが正直な感想。
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鮎川哲也賞受賞作。18世紀末のイギリス海軍に属する帆船軍艦を舞台にしたミステリーだが、謎解きは少なめ。ただ、水兵達や士官達の生活や、登場人物の描き分けがしっかりしていて海上冒険小説として斬新で面白かった。エピローグの急展開は、著者がポジティブな人なのかな、と思わせてくれた。今後もこの著者の作品が出たらまた読みたいと思う。
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第33回鮎川哲也賞受賞作。
18世紀、フランスと戦うイギリス海軍の軍艦で起こる殺人事件。強制徴募された新米水兵の目線で描かれる軍艦の生活はとんでもなく過酷で、序盤は帆船お仕事小説っぽかったが、次々と殺人が起き、フランスとの戦闘で戦死者もでて状況は緊迫してゆく。
ミステリとしては、舞台となる帆船になじみがないので最初のイラストを見ながら読まないとよくわからない部分が多くて難しかったが、帆船ならではのトリックもあってなるほどと思った。それ以上に海洋冒険小説として面白かった。
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十八世紀末、フランスと交戦状態にある英国海軍は常に兵士不足だった。強制徴募された若者たちを乗せ、戦列艦ハルバート号は北海を目指すが、新月の夜に衆人環視下で水兵が何者かに殺害される事件を切っ掛けに、続けて不可解な殺人が発生。逃げ場のない船の中で、誰が、なぜ、そしてどうやって殺したのか? フランス軍との苛烈な戦いのさなか、軍艦という巨大な密室で相次ぐ不可能犯罪を描く第33回鮎川哲也賞受賞作。①軍艦の中?船室?が理解力ないせいでわからない②登場人物の名前が覚えられない。
致命的ですが、それなりに楽しく読みました
Posted by ブクログ
3年ぶりの鮎川哲也賞受賞作品。1795年のイギリス海軍が物語の舞台。読む前はこの設定にスッと入れるかちょっと不安だったけど、読み始めるとすぐに物語の世界に引き込まれました。逃げ場のない船上で起きる連続殺人事件。トリックもこの設定ならではでおもしろかったし、絶望的な状況スタートの主人公だけど、同じ班のメンバーがみんないい人で良かった。
Posted by ブクログ
鮎川哲也賞が文学界においてどれだけの価値ある賞かはしらないけど期待して読んだ割には内容はごく普通。
最初からもうハッピーエンドは予想でき当にその通りになり失望。
作者ファンには申し訳ないがそんなに良い作品とは思えなかった。
Posted by ブクログ
「鮎川哲也賞受賞」という権威付けと
「帆船軍艦」というタイトルから手に取る
タイトルから大好きなクローズドサークルの
匂いがプンプンするのよ
読んでみて
クローズドサークルではあるのだが、
あの特有の人が減っていってお互いに疑心暗鬼という
感じでは無かったかな
あと受賞作特有の
最後の選評が好きなのよ
感想を共有したい欲求が強いのかも
(俺の選評)
今回は東川先生と一緒で
ちょっと前半が重いなと感じた
あと、誰も指摘してなかったけど
最後のトリックが少しイメージしにくい
じっくり読まないと絵が浮かばないね
俺はサクサク読むタイプなので
ここは何となくで読んでしまった
あと最後のあっさり感はページ数合わせる
必要でもあったんかな
全体的に粗いなという感想を持ちましたが
雰囲気は楽しめました
Posted by ブクログ
期待が大きすぎたせいか、読後感はうーんていう感じ。
海洋冒険小説、とりわけ帆船小説好きからすると最高の舞台。なんと鮎川賞受賞作がと思い反射的に購入。しばらくは読むのが惜しくて表紙を眺めながら積読していた。
気が変わって読み始めたのが3日前。出だしはすばらしく強制徴募された水夫の英国帆船内での悲惨な生活が詳細に記述されていて『海の覇者トマス・キッド』ばりだと興奮しながら読んだ。ふしぎなことに登場人物すべてがイギリス人なのになぜか和風な感じがしてならなかった。描写なのか、人物の口調のせいなのかはわからないが。
読後感は鮎川賞受賞作に対して不適当だが殺人事件はいらなかったなというのが正直なところ。1回の交戦で何十人もの戦死者が発生し、さらに多くの戦傷者が手足を切断施術され苦痛にうめいているような軍艦内でひとりの死者に対する興味や執着心が長く続くとは思えない。
とは言え、日本初の英海軍帆船小説を歓迎したい。
そして妻と乳児には申し訳ないがもう一度ネビルと航海がしたい。