【感想・ネタバレ】心は孤独な狩人(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

闇を鮮やかに描きだしている作品。
みんな誰かと心を通わせたいと思っているのに、うまくいかない。そんなときにただ聞いてくれる存在がどれほど有難いか、そんな人がいてくれたらどれほど人生が明るくなるか。
私も誰かの光になれたらと思えた。

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2024年01月17日

Posted by ブクログ

色彩豊かな片想いが錯綜する物語。
1930年代の大不況による貧困と差別が蔓延するアメリカ南部で暮らす人々。
主人公のミック、ジェイク、ブラント、コープランドを中心に様々な人が聾唖の白人、シンガーに心を寄せる。
シンガーが唖であるがゆえに理想の友人像を作り出し傾倒する。ただしシンガー自身はその友人たちのことを強く思っているわけではなく、心の中にはただ一人、精神病院に収容されてしまった友人アントナプーロスのみ。
理想の友人のおかげで日々の苦しい生活が救われていると感じている中、その一方通行は突然ドミノ倒しのように崩壊し、人々は孤独へと帰っていく。

こう書くととても重苦しい感じがするのだが、マッカラーズが描き出すこの悲劇はとても美しいのだ。
冒頭に「色彩豊か」と書いたとおり、世界を、そして登場する人々に色々な色を与え、80年前の人々の姿を生き生きと描きだし、決して古くさいと思わせることなく、全員を愛おしく感じさせる。
これは素晴らしい小説。600ページとなかなかの長編だけど、決してその時間は無駄にならない。
傑作。2023年の締めくくりがこの本でよかった。

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2023年12月31日

Posted by ブクログ

これほど力強くも繊細な小説を読んだのはいつ以来だろう。海の向こうではファシズムが台頭しつつある暗い時代、アメリカ南部の貧困と人種差別が蔓延する小さな町に暮らすひとりの聾唖の男と、彼をとりまく4人の人びとの物語だ。
町にある夜流れ着いた大酒飲みのアナーキストは、この世の矛盾について多くの知識を蓄えはしたが誰にも理解されず、巨大な怒りを内に抱え込んで自己破壊的な暴発をくりかえしている。
一方、この町にただひとりの老黒人医師は、差別と暴力に虐げられる同胞たちへの大いなる愛とともに彼らの愚かさへの怒りに突き動かされているが、彼もまた、家族を含め誰ひとり理解者をもたない。
才気煥発な下宿屋の少女は、心の「内側の部屋」に豊かな音楽をあふれさせているけれど、これもその力を外に向かって表現する方法を知らぬまま、唖の男への慕情を募らせている。
そして彼らをじっと見つめる食堂の主人は、夜の深さと、そこでしか生きられない異形のものたちを、自らの隠された分身のように愛する男だ。
自らの内にある膨大なエネルギーを持て余し、ただひとり自分の魂を理解してくれそうな存在をもとめて、唖の男のもとを訪れる4人の人びと。彼がたたえる大きな沈黙と静かな微笑は、彼らがそれぞれ孤独に抱えこむ苦悩と希望とをすべて受けとめてくれるように見えた。しかし実は唖もまた、まったく受け取り手のいない巨大な愛を、その内に孤独に抱えこんでいたのだった…
理解し共感してくれる存在をそれぞれに渇望していながらも、決して互いに理解し共感しあうことのできない巨大な魂の孤独。その絶望とその希望を、これほどまでに繊細に描いた小説がほかにあるだろうか。おそらく少女ミックと食堂の主人ビフは最も作者自身に近い存在と思われるが、老黒人医師とアナーキストがついに正面から出会い、互いに共通する熱望を見出しながら罵り合い絶望して別れる場面の緊迫には読む側も息を詰まらせざるを得ない。一見、救いのない物語だが、戦争というより大きな暴力の予兆が満ちる中で、彼らは最後まで生き抜く希望を失ってはいない。
自分とまったく異なる人たちの心の深みに降りて行って、その最も柔らかい部分に触れるような小説を、裕福な家庭出身の若い白人女性であったマッカラーズはどのようにして書くことができたのだろう。愚かに傷つけあい共感を拒みながら共感を可能にする人間というものの可能性を指し示すこの小説、このような時代にあって、それはなんという希望だろう。

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2023年12月28日

Posted by ブクログ

孤独は前提であると言っていたのは糸井重里だった気がするけれど、人間が生きる上での前提である孤独を再認識するような小説だった。

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2024年04月30日

Posted by ブクログ

高校生以来、20年ぶりに読む!

言葉で伝えられることはとても少ないのかもしれない。
いや、そもそも伝えると言うこと自体、本当は無理があることなのかもしれない。

閉塞感に満ちていて、読んだあと数日心が沈む。
早く明るくなりたい。

だけど、わずかな、わずかな希望を見つけられる気もする。

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2024年01月16日

Posted by ブクログ

自分の話をじっくり聴いてくれる相手が居る。それがどれほど救いになるか。
それだけでも人の役に立てるのかもしれないと、優しい気持ちになった。

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2024年01月15日

Posted by ブクログ

人間の本質に関する部分を現実味を伴って文章で表現するのは決して容易ではない。それを可能とするためには作者自身が少なからず生きるうえでの酸いや甘いを経験する必要があるのではないかと思うのだが、ここで驚くべきはマッカラーズが23歳の若さで、しかも処女作にして、その点をほぼ完璧に近いかたちで小説に仕上げたことだ

欧州でファシスト政党が台頭し、今にも世の中が戦争の渦に吞まれようとしていた時代のアメリカ南部を舞台に、年齢や人種、思想が異なる男女の人生が交錯する物語は何となくフォークナーの作品と共通する雰囲気が窺える

巻末の解説で訳者・村上春樹は、マッカラーズの小説は個人的に閉じた世界と述べている。なるほど、登場人物たちの内面描写を中心とした話はたしかにクローズされてはいるが、逆にマッカラーズの視点自体はとても開かれているような気が私にはする。これを象徴するのがスピノザとマルクスの考え方に共鳴し、アフロ・アメリカンの地位向上を強い理念とする黒人医師コープランドである。本作の展開においてベースラインに近い役割を果たす彼のキャラクターはオープンマインドな見方なくしては創造出来ないのではなかろうか

人は自分の胸のうちを誰かに黙って聞いてもらいたいもの。神父への告解が然り、セラピーも然り、ブログなんてのもあるいはそうなのかも。「心は孤独な狩人」はそこら辺がよくわかるストーリーだ。面白いのは、街の人々が「私の唯一の理解者」として畏敬の念を抱く聾唖の男シンガーが実は彼らの話をたいして真剣には聞いていないこと(相手の口の動きで内容を把握するシンガーは彼らの話がいつも同じなのに半ばウンザリしている)。そしてシンガーもまた、時々会う聾唖の友人相手に時間が経つのも忘れて手話で語り掛け、積もりに積もった澱を吐き出す。結局のところはひとりぼっちか、そうでないかは関係なく、孤独や寂しさは皆の心の何処かに宿っている。この本を読むとそんな風に感じられる

村上春樹曰く「最後まで(翻訳をせずに)大事にしまっておいた」という一作。折に触れて目を通し、もっと理解を深めたい

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2023年10月22日

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