【感想・ネタバレ】世界史のなかの近代日本のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年05月28日

歴史書ではありますが、一般的な歴史の本とは違います。
大学の講義をその目的と主要ポイントを踏まえた上で教わっている気分になります。

世界史の中の歴史で日本を見る方法ではなく、鎖国から開国し世界各国が日本をどう見てどう関わりたかったか、欲望や腹黒さも垣間見れるものです。
時系列の歴史書では取り上げも...続きを読むしないちょっとしたこともあり、それがまたとても勉強になります。そして今までの時系列とも繋がり、なるほどなぁとなっていきます。
沖縄が清国と日本との間でどのような経過のもと日本になったか、いつから洋装に変化して行ったか、その辺りがとても身近で面白いものでした。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年03月24日

幕末のイギリスやフランスなどのヨーロッパ諸国と、日本との関係について、今までの歴史書では、「進んだ西欧」と「遅れた日本」と描写しているものがほとんどだと思います。
しかし、本書は違います。
この時代の中国と日本は、ヨーロッパを必要としない自給自足ができていたというのです。
そして「日本の石見銀山は1...続きを読む6世紀から17世紀にかけて、世界の産銀量の三分の一を占めた・・・この時期、日本で産出された銀の四分の三、金の四分の一が海外に流出した」と書かれているのです。
そうなると、ヨーロッパと東アジアの関係は、「進んだヨーロッパ」と「遅れた東アジア」というよりも、「豊かな東アジア」と「富を求めるヨーロッパ」という方が適切だというのです。
その具体的例として。本書は「アヘン戦争」を取り上げます。
イギリスでは、18世紀になって、紅茶の習慣が国民に広がり、中国から紅茶を輸入していましたが、貿易収支は、イギリスの大幅な輸入超過でした。
その赤字を埋めるために、インドで栽培したアヘンを中国に密輸入したのです。
アヘンの代金は銀で決済されたことから、アヘンの輸入増により、銀が国外に流出します。1830年代には清の国家歳入の8割に当たる銀が流出されたと書いています。
本書は「アヘン戦争」の背後に三つの国際的要素があったとしています。
①豊かなアジアの物産
②物産を求めるヨーロッパ
③ヨーロッパの東洋文化への憧れ
このように、本書では、歴史経過に経済の要素をしっかり見据えているのです。
次は「黒船」と「マシュー・ペリー」の話しです。
鎖国を国是としていた江戸幕府の日本を、黒船で威嚇し、強引に開国の扉をこじ開けた軍人として有名ですが、そのペリーの目的について、本書は通説とは少し違う見解を明らかにしています。
通説では、ペリーの目的を「捕鯨業の保護」「燃料食料の補給」「通商の開始」とされていますが、本書では「太平洋航路の開設」「石炭の確保」を取り上げています。
とりわけ、「太平洋航路」のもつ、経済性とイギリスとの国家的競争について、強調しています。
当時、世界を回るルートは、中東からインドをめぐる東回りルートしかなく、そこはイギリスが独占していたのです。
後発国のアメリカは、なんとしても手付かずの太平洋を横断する西ルートを開設したかったというのです。
この見方は、初めて知りました。
政治的事件を経済的観点から読み解くことは、現在では常識ですが、このペリーの日本訪問を、このような視点から見るとは、実に興味深いです。
そして「不平等条約」の持つ意味です。
幕末に徳川幕府が、西欧諸国と「不平等条約」を結び、明治日本がその改正に苦労した歴史はよく知られています。
この「不平等条約」については、世界の情報に無知な幕府役人が騙されて結ばされたようなイメージがありますが、本書の見解は違います。
当時の国際法では、当時の世界の諸地域は三つの地域にわけられます。
「文明国」イギリス、フランス、アメリカなどのキリスト教諸国
「半文明国」中国、日本、トルコなど(不平等条約などの制約を受ける)
「未開の地」アフリカなど(植民地支配を受ける)
文明国同士では、対等の条約を結びます。
文明国ではない「半文明国」とは、不平等条約を結びますが、国家としては「対等」なのだというのです。
不平等条約として、最後まで問題となった「領事裁判権」(外国人が犯した犯罪を本国の領事が裁判を受ける制度)は、ヨーロッパが非キリスト教国の国家と共存するシステムだったというのです。
この見解も初めて聞きました。
不平等条約を国家の力関係に単純に落とし込むのではなく、当時の国家システムの違いを乗り越えるための、工夫された便宜的な手法として見ているのです。
次に、本書は1850年代から70年代にかけて、世界に「交通革命」が起きたと言っています。
汽船・鉄道・電信分野の急激な技術革新の進展によって、世界の交通・通信ネットワークが一変し、世界の一体化が進んだというのです。
1867年アメリカ太平洋横断定期の開設
1869年アメリカ横断鉄道の開通
1869年スエズ運河開通
この交通革命によって、世界を一周する「周回ルート」が誕生しました。
この「周回ルート」が誕生することによって、東アジアは、ヨーロッパを中心とする「世界交通網」に完全に組み込まれたというのです。
この内容に衝撃を受けたのは、日本がこの「世界交通網」の「周回ルート」のちょうど「中間点」に位置しているという指摘です。
本書は「東西二つのルートどちらの航路も利用できる地理的位置を利用して、両者を使い分ける特異な地政学的地位を獲得した」と書いています。
このような視点も、他の歴史書では見たことがありませんでした。
そして「明治憲法発布」です。
本書を読むと「不平等条約の改正」をすることが、明治日本にとって、いかに大きな問題であったのかを再確認できます。
そのためには、西欧的な立憲体制をつくらなければならないと、明治政府がはっきり認識して、憲法発布に突き進むのです。
本書によると、その憲法発布(1889年2月11日)のわずか6日前に、重要な内容が修正されたとあります。
これには、驚きました。国を挙げた行事の6日前ですよ。ビックリの直前変更ですよ。一体、その裏舞台ではだれが何を論争していたのでしょう。
変更点は、以下の通りです。とんでもなく重要な点です。
「1.皇位継承を「皇子孫」から「皇男子孫」としたこと(第2条)」
「2.議会は「天皇」を「翼賛する」から「協賛する」に変更したこと(第5条)
「翼賛」はアドバイス、「協賛」はコンセント(同意)と訳されます。
この変更により天皇の立法権は、議会の同意が必要となったのです。
議会の権限が強化されたのですね。本書は、その後の立憲制の発展の地歩が築かれる根拠となったと評価しています。
前項の『「皇子孫」から「皇男子孫」としたこと』の修正がもしなかったら、現在の天皇制でいずれ愛子天皇が生まれたかもしれないと、想像を膨らませてしまいました。
このような知見も初耳でした。
そして「国民統合」です。
憲法発布は直ちに日本の国際的地位の向上として現れたと書いています。
ヨーロッパの現状から見ても十分に立憲的な憲法が制定され、それに続く法典整備が約束された以上、原則論から条約改正に応じないという姿勢をとることは、許されなくなったというのです。
明治政府は、この憲法発布を機会に、積極的に国民統合に乗り出します。
「大赦令」民権派(政治犯)との和解
「西郷の復権」反乱士族との和解
「江戸との和解」戊辰戦争の幕朝和解
この講を読んで、それぞれの歴史の事実(ファクト)は読んで知っていましたが、その時の施政者の意図を深く探求して想像することができていなかったことがよくわかりました。
明治政府の指導者たちは、意見の違いの政争を繰り広げるだけではなく、政争のあとの、国民統合の重要性をきちんと認識して、実践していたのです。
この点は、現在の政治家よりもはるかに優秀だったと思いました。
本書は、「講義」という形で、第1講~第20講まであります。それぞれが、とても興味深い知見に満ちています。
本書は、大学のオンライン講義の配布資料を、再構成してまとめたものだそうです。素人の小生でも、十分に読める面白さに満ちていました。
また、著者は「日本を外からみることを意識するようになりました」とも語られています。
なるほど、幕末から明治の日本を「強大な西洋に圧迫される被害者日本」としてみるのではなく、当時の世界の状況の中で「世界から日本はどう見られていたのか」を意識すると、本書の視点になるのかと納得の思いを持ちました。
本書は、実に興味深い歴史書であると高く評価したいと思います。

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