あらすじ
青年たちの「義挙」に民衆は拍手したーー。
血盟団事件、五・一五事件、神兵隊事件、死なう団事件、そして二・二六事件……。
なぜ暴力は連鎖し、破局へと至ったのか?
昭和史研究の第一人者による「現代への警世」。
【本書の内容】
・「安倍晋三銃撃事件」と昭和テロの共通点
・「正義を守るための暴力」という矛盾
・現代の特徴は「テロの事務化」
・ピストルではなく短刀にこだわった将兵
・「三月事件」と橋本欣五郎
・「血盟団」井上日召の暗殺哲学
・五・一五事件の「涙の法廷」
・昭和テロリズムの「動機至純論」
・愛郷塾の存在と「西田税襲撃事件」
・言論人・桐生悠々の怒り
・大規模クーデター計画「神兵隊事件」
・罪の意識がまったくない相沢一郎
・血染めの軍服に誓った東條英機
・「死のう団」のあまりに異様な集団割腹
・二・二六事件が生んだ「遺族の怒り」
・一貫してクーデターに反対した昭和天皇 ……ほか
【本書の目次】
序章:昭和テロリズムから見た安倍元首相銃撃事件
第一章:残虐のプロローグ――三月事件から血盟団事件へ
第二章:昭和ファシズムの形成――五・一五事件が歴史を変えた
第三章:暴力の季節への抵抗者たち――ジャーナリスト・桐生悠々と政治家・斎藤隆夫
第四章:「血なまぐさい渇望」のクロニクル――神兵隊事件から永田鉄山刺殺事件まで
第五章:国家暴力というテロリズム――死のう団事件の異観
第六章:テロから戦争への転換――二・二六事件の残虐さが意味すること
不気味な時代の再来を拒むためにーーあとがきにかえて
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Posted by ブクログ
「昭和史」ということで、一部にそれ以前やそれ以降の時代も視野に入れながら、社会や人々の来し方を考えるという内容の一冊になるのだと思う。広く、深く様々な「昭和史」を綴っている著者の本は興味深かった。また長く「昭和史」をテーマに様々な人達の話しを聴くというような活動を続ける著者の「蓄積」が本書には大いに反映されているとも思う。
「テロル」とはドイツ語の「Terror」から来ている。直接の語義としては「恐怖」ということになるようだ。暴力や、その脅威というような恐怖を背景に、同調しない人々や敵対的な人々を威嚇しながら何事かを為すというような感じを示すのがこの「テロル」という表現になるであろう。少し踏み込んで「恐怖政治」というような様相というモノも想起出来るのかもしれない。
著者は2022年7月に発生してしまった元首相への銃撃、そして殺害という出来事を契機にこの「テロル」ということに関して考える文章を綴った。雑誌で発表したそれらを基礎に加筆する等して纏めたのが本書であるという。
2022年7月の元首相の事件に関しては、事件現場の辺りの様子を偶々知っていたので酷く驚いた記憶も在る。実行犯の非常に個人的な、傍で聞く分には「逆恨み?」か何かのような想いに衝き動かされての行動であるように伝えられた。が、「政治家に凶弾」というのは社会に「恐怖」を撒き散らすという意味で、所謂「テロル」という側面が在ることを排する訳にも行かないというのが著者の問題意識の入口に在ったのだと思う。
そしてその問題意識が向いた先が「昭和史」で、濱口雄幸首相襲撃から<2.26事件>に至る時期(昭和5年頃から昭和11年頃)、続発した事件、未遂となった事件で「恐怖」が撒き散らされ、社会が歪んでしまっていたと言わざるを得ない時期が在ったということが本書では語られている。幾つもの事件の事情等が、本書では詳しく紹介されている。昭和史に「テロルの時代」とでも呼ぶべきモノが在ったということになる。相次いだ国内の事件と、他方で戦争へと突き進んで行くという、少し意味合いの異なる、他方で底流に在る何かに共通する要素も多く在ると考えられる「テロルの時代」が更に拡大される。
<2.26事件>は、「テロルの時代」の“段落”のような感ではある。事件そのものは、何人かの重臣が無残に殺害されたと知った昭和天皇が「自ら兵を率い、事件を起こした者達を討ちに出る」とまで口にしたと伝わるようだが、事件を起こした者達の考えが容れられないということで収束はした。それでも陸軍部内の所謂「皇道派」と「統制派」という主流を争う動きは、「統制派」の流れを汲む「新統制派」という人達が制し、やがて「軍事で掻き回される国政」という様相になって行く。
様々な事件が続発していた中、それに警鐘を鳴らす発言をしていた人達が在ることも伝えられ、本書でも紹介されている。ジャーナリストの桐生悠々や衆議院議員の齋藤
Posted by ブクログ
法廷においてもテロリストを賛美するようなやりとりがなされ、どんな残虐な行為も動機により正当化されてしまう社会。新聞ですら彼らの行動を義挙扱いした。そんな世間の風潮が国家改造を企図する青年将校や右翼活動家達のためらいを振り切らせることとなり、次なるテロへとつながっていった。
テロを肯定すること、賛美する風潮はテロそのものよりも恐ろしいこと。現代を生きる私達はこれを肝に銘じなければいけない。
Posted by ブクログ
日本が軍国主義化して、戦争の時代に流れ込んでいくプロセスについては、過去にも何冊が読んで、大きな流れは理解しているつもりであったが、これはテロルという切り口でまとめた本。
テロル=恐怖がだんだんと社会全体に染み込んでいく感覚というのは、客観的な記述の歴史書では今ひとつピンとこないところであったが、この本は、著者の長年のインタビューなどの積み重ねもあり、リアリティを感じた。
昭和前半の歴史において、「なぜ、日本はアメリカとの勝つはずのない戦争を始めたのか?」「なぜ日本は軍事独裁的な政治体制になったのか」という問いは、日本だけをみてもダメでドイツやイタリア、ソ連などを踏まえた上で考える必要があると思っている。
今回、改めて、大衆動員のプロパガンダや警察の活用などなど、ナチスなどとの類似性を感じた。日本は全体主義国家とはちょっと違うと思うが、独特のファシズムであったのだと改めて思う。
日本に特有の感性に基づく独自性と世界で同時期に出現した暴力国家との共通性が見えてくる感じがした。