【感想・ネタバレ】ウクライナ動乱 ――ソ連解体から露ウ戦争までのレビュー

あらすじ

冷戦終了後、ユーラシア世界はいったん安定したというイメージは誤りだ。ソ連末期以来の社会変動が続いてきた結果としていまのウクライナ情勢がある。世界的に有名なウクライナ研究者が、命がけの現地調査と100人を超える政治家・活動家へのインタビューに基づき、ウクライナ、クリミア、ドンバスの現代史を深層分析。ユーロマイダン革命、ロシアのクリミア併合、ドンバスの分離政権と戦争、ロシアの対ウクライナ開戦準備など、その知られざる実態を内側から徹底解明する。

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Posted by ブクログ

ネタバレ

トータルでいうと、全く好きにはなれない一冊なのだけど、

正直西側からすると「ほぼ狂気」にしか見えない露宇戦争だけど、あれはあれで支離滅裂にならないのは、あちらなり(特にあちらの「理詰めなインテリ」に共有できる)理屈がある。それを知るには非常にいい本だし、西側が軽視しがちなウクライナやその周辺が持っていた問題点を指摘している一冊でもある。

まず指摘されているのは、ソ連崩壊後旧ソ連地域の経済は一律に凹み、ロシアの復興とともになんとか回復していた、ということ。
数字的にはそういう風に受け止められる感じだし、それはウクライナに住んでいる人の多くにとっても体感的には正しかったと思う。

そりゃ西からの投資もあったにはあったようなのだけど、西欧から見れば「東の労働力の安い場所」という扱いでしかなく。ソ連時代には重要な工業地域とされ、実際に技術力もあったウクライナの工業人の自尊心を満たすものではなかったらしい。

ソ連時代からの賄賂体制の払拭が全然できていなかったのも確かで。
それを「プーチンや習近平のような専制的支配者がいないから汚職払拭できなかった」的な解釈は…西側的には理解しがたいのだけど、そういう話が出かねないくらいの賄賂体制であったのも確からしい。

ただ…この本の中で何度も出てくる「基幹民族」という言葉はかなり衝撃的だった。
ソ連時代のウクライナには、ウクライナ人が多数派であるにせよ、ロシア人含め他にも多くの民族がいて。その中で多数派のウクライナ人が「基幹民族」として他のマイノリティ民族を兄貴分として面倒みる、という考え方。

で、今のウクライナはその「基幹民族」として任されていた部分を引き継いでいるのであって、「ウクライナ民族」として民族国家として独立したいのであれば、今のウクライナを引き継ぐ正当性はない、というのがこの本の中で著者が一貫して主張するところなのです。

この考え方が西の人間からあまりに難解なのは…事実上「民族の優劣」をつけてしまっている、ということ。

ロシア民族>ウクライナ民族>ウクライナ地域の少数民族

という序列を実質的には認めてこそ成立する話で…。
そりゃ西側にも似たような考え方を持っている人は居るのでしょうが、それを政治に携わるような人が公にして論理化するか、というと今はあり得ない。
(それに近いことを植民地支配に使っていた大英帝国は、その後始末を仕切れず、それが世界中の紛争の種になってる、と言っちゃってもいいんだから…)

これを堂々と言っちゃえるのがロシアなのか、と思うと…確かにロシアの政治家はなかなか西側の知識人には理解しにくいだろうなあ、と。

あと、「地域の雇用を作って住民の面倒をみている経営者」がそのまま政治家になる傾向が、特に工業城下町では強い、という話も興味深く。
もともと地域ことの独立志向が強いウクライナで、この「地域の利権と雇用を守る政治家」が強くても、なかなか国全体のことを考えにくくなる。

マイダン革命の暴力性が強かったこともあって、ウクライナ東部の民間の被害が仮にロシア寄りの勢力の仕業であったとしても、「あれはウクライナ側の攻撃によるもの」と言われると、「まぁ…そうなのかもな?」と思わせるくらいに混乱した状態だったのも確からしい。

繰り返すのですが…内容的に好きな本ではないのです。
が…部分的には「日本にも似たとこあるなぁ」と思える部分もあるし、少なくとも東側の世界で系統的な学習を受けた人ほど、この本に書いてるような考え方を自然に受け入れている、と思われて。

いろんな意味で…あの戦争が「納得いく終わり方」をすることはないんだろうなあ、と感じさせられた一冊でした。

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2024年07月28日

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