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Posted by ブクログ
溶接工の技術や知識は皆無でしかも終始職人技の話と主人公のプライドと慢心などの心の葛藤で進んでいくがどうして今まで出来ていた事がある日突然に出来なくなったのか、しかも溶接工から外されてからの他人を見下すような態度を取るようになったのか先に先にと読まずにはいられなくなってしまい中断せず、中断できずに読み終わる。
読書熱が無くなったと嘆いていたのがウソのような食いつきにびっくり。
Posted by ブクログ
⚫︎感想(※ネタバレ)
何度か出てくるこの表現に注目した。
「自分が仕事で相手にするものは、そのまま自分のことだ。それは自分の力量で、自分の職能で、自分の価値のことだ。」
ベテラン溶接工、伊東。40歳。仕事に対するプライド、スランプ。その原因は何なのか。年齢か、職業病か、奢りか、見て見ぬふりをしている不安か。「検査員」がやってきて、伊東の不手際を忠告しにくる。「検査員」は無意識の自分自身であり、また同時に自分であるということは、上記の記述から、自分が仕事で相手にするものである鉄鋼をも意味しているのではないか。
師匠である牧野の手は「思いのほか冷たく、ショックを受けた」のは、牧野が太陽を手放したのだと感じたからではないか。
「検査員」の手は熱く、硬かった。
最後に冷たく柔らかい自分の手が残った。「検査員」であり、自分の仕事相手である鋼鉄が持っていってしまったものは、かつては熱さを扱えた、我が手の太陽だったのか。しかも硬くなく、柔らかいのだ。弱いのだ。
誰しも第一線での活躍が死ぬまで続くわけはない。いつかはそれぞれが、誇りを持つ何かを手放していかなくてはならない。現実を受け入れるとは、そういうことなのだ。
石田夏穂さんの作品、3冊目となった。共通して最後まで読ませる推進力につきる。こちらはユーモアはなく、「我が友、スミス」「黄金比に縁」にくらべて純文学色が濃く感じた。
⚫︎あらすじ(本概要より転載)第169回芥川賞候補作。
鉄鋼を溶かす高温の火を扱う溶接作業はどの工事現場でも花形的存在。その中でも腕利きの伊東は自他ともに認める熟達した溶接工だ。そんな伊東が突然、スランプに陥った。日に日に失われる職能と自負。野球などプロスポーツ選手が陥るのと同じ、失った自信は訓練や練習では取り戻すことはできない。現場仕事をこなしたい、そんな思いに駆られ、伊東は……。
“「人の上に立つ」ことにまるで関心がなかった。
自分の手を実際に動かさないのなら、それは仕事ではなかった。”
”お前が一番、火を舐めてるんだよ”
”お前は自分の仕事を馬鹿にされるのを嫌う。
お前自身が、誰より馬鹿にしているというのに”
腕利きの溶接工が陥った突然のスランプ。
いま文学界が最も注目する才能が放つ異色の職人小説。
Posted by ブクログ
芥川賞候補作。
溶接工の詳しい作業内容は難しすぎたのでさらっと読んだけれど、最後の方は、怪我をしながらミスせず、また怪我をしないでちゃんとできるのかハラハラした。
「あの検査員」というのは、主人公にしか見えていない幻覚なのだとしたら、最後の終わり方はどういうこと?なんかゾッとした。
「こんなの俺の仕事じゃない。」
「自分が仕事で相手にするものは、そのまま自分のことだ」
「お前は傲慢なんだよ。自分をすごいと思うのは人の自由だが、どんな仕事も馬鹿にしてはならない。そうだろ。お前は自分の仕事を馬鹿にされるのを嫌う。お前自身が、誰よりもさ馬鹿にしているというのに。」
という箇所で、そうだよな、仕事の難易度で仕事を舐めたり馬鹿にしたりしちゃいけないよなと思って読んでいたけど、
「傲慢で何が悪い。そうでなければ、こんな危ないこと毎日毎日できないだろ。」
という箇所で、またハッとされされる。こんな危ない仕事は傲慢にならないとやっていけないのか…って。
プライドを持って仕事をしていた人が、歳をとるにつれてだんだんと体が衰えていき、ミスが増えたり、それでも自分はできると思ったりするところが痛々しかった。
他の石田夏穂さんの作品は笑っちゃう文章が多いけど、この作品は真面目(?)な雰囲気だった。
Posted by ブクログ
「我が友、スミス」の人とかだったのかと後から知った。「我が〜」シリーズになったら面白いな。
これは溶接工のお話だった。
冒頭の簡易ラジオ基盤作業のところで3人のレンガ職人の話を思い出した。あの話が導こうとする「作業の全体像を掴んで目的意識を持って働いている人は、ただ作業をしている人よりも素晴らしい」的な主張に、うまく言語化できない違和感があったんだけど、読んでいてそれがちょっとだけクリアになった。
作業だけに集中することができる爽快感や、余計な意識を捨て去って自分の手の感覚やガスの色、鉄の変化に向き合うことでのみ到達できる研ぎ澄まされた瞬間の虜となれる幸せは大きいだろうなあ。
「3人のレンガ職人」に納得しきれなかったのは、そういう職人としての美しさを否定されているように感じてしまっていたから。
わたしはその美しさを知らないから、それが絶たれようとしている最中の主人公の焦燥感にそこまで共感できなかったけれど、こうなっちゃったら誰も説得はできないんだろうな、というのはちょっと感じた。