【感想・ネタバレ】ニホンという病のレビュー

あらすじ

解剖学者の養老孟司と精神科医の名越康文という心配性のドクター二人が異次元の角度から日本社会が患う「ニホンという病」を診察、好き勝手にアドバイスを処方する。
2022年冬、春、夏、秋、2023冬と5回に渡って行われた対談をまとめ、新型コロナやウクライナ侵攻といった時事的なテーマから、南海トラフ地震、脳科学、宗教観、自然回帰、多様性、死と再生など、実に30に及ぶ対談テーマをもとに繰り広げられた賢者二人の思考の世界が楽しめる。
一部を紹介すると
・日本社会に内包する問題、本質については
(養老)日本人は楽天的に考えて、本質に関わるところは変えなくていいことにしようとしてきたわけです。表層的なところだけを変えてきた。和魂洋才が典型だと思うね。明治維新は政治で動いたからまだいいですよ。戦後(太平洋戦争終結後)は何をしたかっていうと、日常生活を変えちゃったわけですよね。
人間の社会ってそんなややこしいものを理屈で簡単に割り切れるもんじゃない。終戦後、それを割り切れると思ったのがアメリカであり、日本だったわけです。

・さらに専門家によれば2038年までに来ると言われている南海トラフ地震で、明治維新、太平洋戦争敗戦以来の大転換を迎えるが、
(養老)この国で初めて、政治とか経済じゃなくて、それぞれの人の生き方が問題になってきますね。どういうふうに生きたらいいかって。何といっても、第一に子どものことを考えなきゃいけない。今の時代、子どもがハッピーでないのはハッキリしていますからね。それでなければ、自殺が若い人たちの死因のトップになるなんてあり得ないですよ。80代が元気な世の中っていうんじゃ話にならない。
(名越)これからは生き方自体をなだらかにでも急いで変えていくべきだということです。南海トラフをどうとらえるかは、メディアを通じてもっと多角的に、バラエティ番組なんかで伝えて議論すべきだと思います。
死というものを深刻に考えたくなければ、ライフスタイルを変えていくことが大事だと思います。数年、5年ぐらいの単位で、自分がどこに住むのかとか、どういうことに生きられる時間を溶かしていくか。価値観が変われば日本人のライフスタイルが5年ぐらいで結構変わっている可能性があると思います。

どのテーマでも二人の独自視点で語られて、生き方のヒントがつまった一冊だ。

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Posted by ブクログ

本書が二冊目という養老先生と名越康文さんの共著、というか、対話本。養老先生の著書では語られることの本質がずばり突かれているためか、時間軸に囚われた議論というものを感じないけれど、ごく最近の話題をしばしば取り上げている本書では、二人の会話は時間軸上の特定の点に固定されようとする印象が強い。それは、どちらかといえば名越先生の語りに「今」に執着する心を感じることに起因することなのかも知れず、そして、本書の中で饒舌なのもまた名越先生の方だからなのかも知れない。養老先生の著書愛好家としては、そこが少しだけずらされたような印象に繋がる。

それでも、確かに自分もこんな風な時事ネタの話題に関して養老孟司という人が何を言うのか聞いてみたいといつも思っていた。だからそれを議論に載せてくれる人が居て、それに対して養老先生が思考を巡らすのを聞いているのは面白いことは面白い。大体、先生の著書で展開されている話は、先生の頭の中でずっと考え続けられてきたことで、それが言語化される様式も概ね決まっており、聞いていて、はっ、とすることこそあれども、あれっ、と思うことはほとんどない。それが先生のあとがきにもあるように、人と議論をじっくりしている過程で見えてくるものを捕まえて形にしている、という雰囲気の言説が彼方此方に垣間見え、時々あれっとなる。それが本書の面白さの特徴と言っていいのかも知れない。

日本という国の思考様式、あるいは常識が、これまでもがらりと変わったことはある、と養老先生は本書の中でも指摘する。鎌倉時代の後は集団死というものが見られなくなる、とどこかの著書で養老先生が語っていたけれど、例えば、歴史上現在に近く、未だにその変化の余韻が残っているところで言えば、明治維新と終戦だとの指摘には唸らされる。正に一夜にして価値観が急に変わるという、信仰を集団統治の中心に据える西洋政治文化では考えられないことを、日本人は二度もさらりとやってのけたのだ、と。それはどうして可能であったか、そして、どうしてその余韻が未だに現在の日本社会を呪縛し続けるのか、という問い掛けは鋭い。

その問い掛けに少しだけ自分でも答えてみたくなる。すると思いつくのは、そもそもこれほど水資源に恵まれ、放置された場所が瞬く間に自然に帰っていく環境の中で長いこと生きてきた人間というものは、人間の作ったものに対する信頼を、端から持ち合わせていないのじゃなかろうか、という考え。それは、中国の茫々の砂漠や欧州の森のない人工的な環境の中で暮らすのとは大違い(中国人も西欧人も木を切り尽くして使ってしまったのだ)。あちらは都市化の大先輩だ。

そんなことを考えていると、例えば、争いごとが水に流されるというのも、要は人と人との取り決めに価値を見出したところでしょうがない、という考えの裏返しのようにも思えてくる。選挙の投票率の低さを交通違反を摘発するのと同じ調子でメディアは指摘するけれども、そもそもそんな仕組みに対する圧倒的な信頼の無さがことの本質であって、それは恐らく、平安の都で天皇を中心とした政治が行われていた時も、鎌倉幕府が力にものを言わせて政治を牛耳っていた時も、戦国時代も江戸時代もずっとずっと、上で国を動かしていると思い込んでいる人たちの間でだけで成立する約束事に過ぎなくて、田畑を耕したり、木を切り出したり、魚を釣ったりしていた人の生活の約束事とはあまり関係がなかったということであり、それは今日のいわゆる政治不信の状況と大差ないのじゃないのかな、とも思う。そもそも江戸にこれほど人が集中するまでは、本当の意味での都市化というのを日本は経験していなかったのだ。

ただし、終戦後、地に足を付けた生活をしている人の比率が極端に下がってしまった(昔の社会科では昭和の年号と会社員の人口比率は同じような数字と習ったものだ)中で迎える今後の大きな変化(それを養老先生は南海トラフ地震の前後における変化だろうと指摘する)をどう日本人が身体的に乗り越えるのか、不安なことは大きいというのは指摘の通りだと思う。何しろ、今やほとんどの国民が会社員で定住の地を持たず、かつネットやメディアによって意見を表明したり賛成したり反対するという(非生産的な行為)が生きて行くことの何割かの位置を占める状況なのだから。取り敢えず水と食べ物だろう、という知恵が回らない社会になっているのだから。都会と田舎の参勤交代、というアイデアはけだし名案なのかも知れない。

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2023年07月25日

Posted by ブクログ

お二人とも好き、かもしれない。
なんか肩の力が抜けました。
でも身が引き締まりました。
読めて良かったです。
国内外問わず、自然の近くに行くと声が大きくなるのですが、それは自分に力がみなぎっているからなのかもな、と思いました。

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2023年06月22日

Posted by ブクログ

開いてみたら拍子抜け。私の好きなおじいちゃんとおじさんが楽しそうに会話した記録。タイトルを見て身構える必要は無い。

養老さんの「生者必滅 会者定離」が沁みた。私の実家は多くの生き物を飼育している。そして生き物の「死」に無頓着だ。ネグレクトの意味ではない。死後は数日間お別れの時期を経て、土葬が基本だ。土の上に目印の石を置き、花を植える。これが常なのだ。そこに「死の壁」は無い。「生きとし生ける物は必ずいつか滅ぶ」のだ。この私の根底に流れる精神を言語化できずに批判されたこともある。「あまりにも無情すぎないか」と。昨今の人間は生き物を家族のように大切にする。まるで我が半身のように。それは好きにしてくれて構わない。だが価値観の押しつけはやめて欲しい。
名越さんは「snsでは、他者に正義を主張している者と、愉悦を求めて他者を批判する者がいる」という様な意見を述べている。後者にはなりたく無いものである。

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2025年04月30日

Posted by ブクログ

5章からなる対談集なんだけど、全編面白いわけではないのだけれど、面白い章はとことん面白かった。
面白くないのは、お二人と司会役だけで話が完結してしまっているような感じがするところで、一言あるいは説明が一文あっても良いのになと思うところがついていけない感覚になる。
ところが、何故だろう、南海トラフ地震が起きれば、明治維新や戦後のように日本が大きく変わるというテーマのときはやたら面白く読めたな。
こういう人はこのお二人だけではなくもっと在野にも沢山いるのだろうから、もっともっと出てきて侃侃諤諤やれば良いのにとき思う。でもまあそれだけでは他力本願がすぎるので、自分でも何かできないかな、まずは田舎に移住だな。移住したとて何かがすぐに生み出せるわけではないのだろうけど、土の道を歩く日を増やせば、自分の何かを引き摺り出すようなことができるのではないだろうかと、この本を読んで強く思った。

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2024年05月17日

Posted by ブクログ

南海トラフ地震が起きることを前提にどう生きたいか考えておくと良いよ、って、言われたら普通なんかオカルトっぽかったり防災っぽく聞こえるけど、
そういうことじゃなくて、単に「起きることに対して捉われることなく生きれるように、何があってもある意味すがらず焦らず動じずで自分の大切だと思うことをやり続けたら良いよ」って言われた気がした。

夏目漱石が、内発的と外発的の話を書いている。内発的ならどうなっても応用が効くし発展するが、外発的だと外から入ってきたものにいつも惑わされるということだから、なかなか前に進まない。by養老孟司

何に自分を溶かしていくかを考えてみる=生きることを考えてみること。溶かすってネガティブな言い回しではなく、文字通り、周囲に対して自身を出して交わらせていくことだとしたときに、生きるってそういうことだから。その手法のひとつが、SNS的なものだとしても、それ自体は良いことだと思うby名越康文

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2024年03月10日

Posted by ブクログ

解剖学の養老孟司さんと精神科医の名越康文さんの独特な対談。
74歳の自然流な生き方をしている私には納得する事ばかりでした。
明治維新以後、内発的な気概で行動を起こさない日本人・日本人社会、南海トラフ大地震で、ガラガラポンになったとき、しっかり対処できるための準備をしておけとのお言葉、しっかり心に据えておかなければなりません。
馬鹿なテレビ、新聞から離れ、たまにはこんな会話に親しむというのもいいものです。

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2023年12月03日

Posted by ブクログ

未来の日本(著者の目)よりこちら(現在の日本)を解剖して見ればヤマイにかかっている。
これから来るかも知れない困難に、今のままの都会人の日本人では生き抜けない。

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2023年08月21日

Posted by ブクログ

お二人の対話から、日本社会が見失いつつある人間の本来の姿、自然とは何かが伝わってきた。

話題は分散していたが印象に残ったのは、日本人は原因を求めすぎている、健康至上主義に陥っている、居心地の良い状態がどいういう状態かを考えていない、といった内容でした。

まずは定期的に自然に触れて、呼吸を整えることから始めます。

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2024年03月21日

Posted by ブクログ

再読した。
風変わりなおじいちゃんと毛色の違うおじいちゃんの対談。

日本語についてだったり、田舎をもつことについては面白く読んだ。
けれど、すごい先生たちなのはわかるが、「とにもかくにも現代と東京はダメ」に繋がって常に否定されている気分になる。
こんなことを言っても、本人達にそのつもりがなかったり、「ほら、こう言いだしちゃうから」って言われるんだろうなとも思う。

帯にある「読んでも治りませんが、大量のヒントはあります」という文は上手くいったものだなぁと感心した。
ただ、次の南海トラフ地震については今のうちから対処したほうがいいと素直に思えたので、そこには感謝だ。
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2023/10/20の感想
おじいちゃんとおじいちゃんの対談。
タイトルの印象が強すぎた気がする。

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2023年12月06日

Posted by ブクログ

ままならない社会や組織などの大きな力に、個人としてどう対峙すればいいのかという問いに、道筋を提示している。個の内発的な力で行動する必要性。組織はひとりでに変わるとも。
ただ、私は選挙にも行きます。おっしゃる通り何も変わりませんし、制度に絶対の信頼を寄せているわけでもありません。それでも、今あるものでできることをしておきたい派なので。
とはいえ、お二人ともスタンスの違いはあれど、次元が違うんですよね。大局的というか。本書の内容を理解するには、もう少し思索を深める必要がありそう。

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2023年10月22日

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