【感想・ネタバレ】ニホンという病のレビュー

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Posted by ブクログ 2023年07月25日

本書が二冊目という養老先生と名越康文さんの共著、というか、対話本。養老先生の著書では語られることの本質がずばり突かれているためか、時間軸に囚われた議論というものを感じないけれど、ごく最近の話題をしばしば取り上げている本書では、二人の会話は時間軸上の特定の点に固定されようとする印象が強い。それは、どち...続きを読むらかといえば名越先生の語りに「今」に執着する心を感じることに起因することなのかも知れず、そして、本書の中で饒舌なのもまた名越先生の方だからなのかも知れない。養老先生の著書愛好家としては、そこが少しだけずらされたような印象に繋がる。

それでも、確かに自分もこんな風な時事ネタの話題に関して養老孟司という人が何を言うのか聞いてみたいといつも思っていた。だからそれを議論に載せてくれる人が居て、それに対して養老先生が思考を巡らすのを聞いているのは面白いことは面白い。大体、先生の著書で展開されている話は、先生の頭の中でずっと考え続けられてきたことで、それが言語化される様式も概ね決まっており、聞いていて、はっ、とすることこそあれども、あれっ、と思うことはほとんどない。それが先生のあとがきにもあるように、人と議論をじっくりしている過程で見えてくるものを捕まえて形にしている、という雰囲気の言説が彼方此方に垣間見え、時々あれっとなる。それが本書の面白さの特徴と言っていいのかも知れない。

日本という国の思考様式、あるいは常識が、これまでもがらりと変わったことはある、と養老先生は本書の中でも指摘する。鎌倉時代の後は集団死というものが見られなくなる、とどこかの著書で養老先生が語っていたけれど、例えば、歴史上現在に近く、未だにその変化の余韻が残っているところで言えば、明治維新と終戦だとの指摘には唸らされる。正に一夜にして価値観が急に変わるという、信仰を集団統治の中心に据える西洋政治文化では考えられないことを、日本人は二度もさらりとやってのけたのだ、と。それはどうして可能であったか、そして、どうしてその余韻が未だに現在の日本社会を呪縛し続けるのか、という問い掛けは鋭い。

その問い掛けに少しだけ自分でも答えてみたくなる。すると思いつくのは、そもそもこれほど水資源に恵まれ、放置された場所が瞬く間に自然に帰っていく環境の中で長いこと生きてきた人間というものは、人間の作ったものに対する信頼を、端から持ち合わせていないのじゃなかろうか、という考え。それは、中国の茫々の砂漠や欧州の森のない人工的な環境の中で暮らすのとは大違い(中国人も西欧人も木を切り尽くして使ってしまったのだ)。あちらは都市化の大先輩だ。

そんなことを考えていると、例えば、争いごとが水に流されるというのも、要は人と人との取り決めに価値を見出したところでしょうがない、という考えの裏返しのようにも思えてくる。選挙の投票率の低さを交通違反を摘発するのと同じ調子でメディアは指摘するけれども、そもそもそんな仕組みに対する圧倒的な信頼の無さがことの本質であって、それは恐らく、平安の都で天皇を中心とした政治が行われていた時も、鎌倉幕府が力にものを言わせて政治を牛耳っていた時も、戦国時代も江戸時代もずっとずっと、上で国を動かしていると思い込んでいる人たちの間でだけで成立する約束事に過ぎなくて、田畑を耕したり、木を切り出したり、魚を釣ったりしていた人の生活の約束事とはあまり関係がなかったということであり、それは今日のいわゆる政治不信の状況と大差ないのじゃないのかな、とも思う。そもそも江戸にこれほど人が集中するまでは、本当の意味での都市化というのを日本は経験していなかったのだ。

ただし、終戦後、地に足を付けた生活をしている人の比率が極端に下がってしまった(昔の社会科では昭和の年号と会社員の人口比率は同じような数字と習ったものだ)中で迎える今後の大きな変化(それを養老先生は南海トラフ地震の前後における変化だろうと指摘する)をどう日本人が身体的に乗り越えるのか、不安なことは大きいというのは指摘の通りだと思う。何しろ、今やほとんどの国民が会社員で定住の地を持たず、かつネットやメディアによって意見を表明したり賛成したり反対するという(非生産的な行為)が生きて行くことの何割かの位置を占める状況なのだから。取り敢えず水と食べ物だろう、という知恵が回らない社会になっているのだから。都会と田舎の参勤交代、というアイデアはけだし名案なのかも知れない。

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Posted by ブクログ 2023年06月22日

お二人とも好き、かもしれない。
なんか肩の力が抜けました。
でも身が引き締まりました。
読めて良かったです。
国内外問わず、自然の近くに行くと声が大きくなるのですが、それは自分に力がみなぎっているからなのかもな、と思いました。

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Posted by ブクログ 2024年03月10日

南海トラフ地震が起きることを前提にどう生きたいか考えておくと良いよ、って、言われたら普通なんかオカルトっぽかったり防災っぽく聞こえるけど、
そういうことじゃなくて、単に「起きることに対して捉われることなく生きれるように、何があってもある意味すがらず焦らず動じずで自分の大切だと思うことをやり続けたら良...続きを読むいよ」って言われた気がした。

夏目漱石が、内発的と外発的の話を書いている。内発的ならどうなっても応用が効くし発展するが、外発的だと外から入ってきたものにいつも惑わされるということだから、なかなか前に進まない。by養老孟司

何に自分を溶かしていくかを考えてみる=生きることを考えてみること。溶かすってネガティブな言い回しではなく、文字通り、周囲に対して自身を出して交わらせていくことだとしたときに、生きるってそういうことだから。その手法のひとつが、SNS的なものだとしても、それ自体は良いことだと思うby名越康文

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Posted by ブクログ 2023年12月03日

解剖学の養老孟司さんと精神科医の名越康文さんの独特な対談。
74歳の自然流な生き方をしている私には納得する事ばかりでした。
明治維新以後、内発的な気概で行動を起こさない日本人・日本人社会、南海トラフ大地震で、ガラガラポンになったとき、しっかり対処できるための準備をしておけとのお言葉、しっかり心に据え...続きを読むておかなければなりません。
馬鹿なテレビ、新聞から離れ、たまにはこんな会話に親しむというのもいいものです。

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Posted by ブクログ 2023年08月21日

未来の日本(著者の目)よりこちら(現在の日本)を解剖して見ればヤマイにかかっている。
これから来るかも知れない困難に、今のままの都会人の日本人では生き抜けない。

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Posted by ブクログ 2024年03月21日

お二人の対話から、日本社会が見失いつつある人間の本来の姿、自然とは何かが伝わってきた。

話題は分散していたが印象に残ったのは、日本人は原因を求めすぎている、健康至上主義に陥っている、居心地の良い状態がどいういう状態かを考えていない、といった内容でした。

まずは定期的に自然に触れて、呼吸を整えるこ...続きを読むとから始めます。

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Posted by ブクログ 2023年12月06日

再読した。
風変わりなおじいちゃんと毛色の違うおじいちゃんの対談。

日本語についてだったり、田舎をもつことについては面白く読んだ。
けれど、すごい先生たちなのはわかるが、「とにもかくにも現代と東京はダメ」に繋がって常に否定されている気分になる。
こんなことを言っても、本人達にそのつもりがなかったり...続きを読む、「ほら、こう言いだしちゃうから」って言われるんだろうなとも思う。

帯にある「読んでも治りませんが、大量のヒントはあります」という文は上手くいったものだなぁと感心した。
ただ、次の南海トラフ地震については今のうちから対処したほうがいいと素直に思えたので、そこには感謝だ。
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2023/10/20の感想
おじいちゃんとおじいちゃんの対談。
タイトルの印象が強すぎた気がする。

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Posted by ブクログ 2023年10月22日

ままならない社会や組織などの大きな力に、個人としてどう対峙すればいいのかという問いに、道筋を提示している。個の内発的な力で行動する必要性。組織はひとりでに変わるとも。
ただ、私は選挙にも行きます。おっしゃる通り何も変わりませんし、制度に絶対の信頼を寄せているわけでもありません。それでも、今あるもので...続きを読むできることをしておきたい派なので。
とはいえ、お二人ともスタンスの違いはあれど、次元が違うんですよね。大局的というか。本書の内容を理解するには、もう少し思索を深める必要がありそう。

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