【感想・ネタバレ】スターリン 「非道の独裁者」の実像のレビュー

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ロシアの源流?

2023年11月04日

悪の権化といえば思考停止。そんな自分が本人に迫った。実は多くの知識や思想が彼を作り上げていた。必読すべし

#タメになる

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Posted by ブクログ 2022年01月10日

あらゆる世界史に出てくる登場人物の中で最もヤバイ人「スターリン(鋼鉄の人)」の出生から没後まで。

私達非ロシア人のぼんやりとした「独裁・粛清・虐殺の歴史的極悪人」と現代のロシア人一般市民との間でどうしてこれ程スターリンの評価に乖離があるのか(未だに人気は高いとか、賛否両論分かれるとか、少なくともシ...続きを読むンプルに完全無欠の最大悪呼ばわりされることはない未解決の歴史評価といえる)に一つの納得を与えてくれる実に良いバランスの本。

敬虔な母に良かれと思って神学校へ進められた美しい詩を紡ぎ比較的優等生といえるグルジア人少年「ヨシフ・ジュガシヴィリ」から体制(少年の彼にはとってそれは例えば神学校だ)への不審とそれでも母との親密さ故にそう簡単に爆発には至らぬ葛藤を持つ「ソソ(冒険小説から)」へ、反骨の問題児となり退学後は猛烈なロマン・理想・美意識・思想そして不屈の実行力をもとに革命やひたすら邁進する「コーバ(冒険小説から)」そしてついに至る「スターリン(鋼鉄の人:の意、ジュガシヴィリよりはよりロシア人らしい響きではあるものの普通人名に使う言葉ではないという)」への道、そして第二次世界大戦・冷戦・没後の歴史的評価の混乱へと進む。

特にやや「ロマンに過ぎる」ところすら感じる使命感に燃えた革命思想の「コーバ」時代の、常人なら絶対に折れている度重なる流刑とシベリア送り、その度の脱走と、内部からの密告で破られる何度でも破られる変装(本当に何なんだこの不屈の精神力は)、死を覚悟して金を無心する程の(しかもその手紙を送った相手は実はスパイだった)状況に追い詰められ、当然の如く陥る人間不信故のロマンからリアリズムの人「スターリン」へと至る道は凄まじい。

スターリンに至る頃にはロマンや理想といった遥か彼方の「目的」の為にはもはや一切の「手段」を選ばぬ歩くリアリズム、文字通り鋼鉄の人に至っており、その際の高速で180°転換も厭わない実行手腕の貫徹したリアリズムからはもはやロマンの欠片も感じられない。「ソヴィエト」絶対死守の目的とした工業化の為に、これ程大量の人命を失う事への躊躇の無さ、権力闘争を勝ち抜く為のあらゆる手段のこれまた躊躇の無さ、ロマンなき故に誰にも信頼も寄せずよくもまぁこれ程までと驚く程の徹底的な粛清、晩年のヒトラーの姿もやや感じさせる噴出する猜疑心と狼狽の姿に、やはり私の少ない世界史知識の中ではあらゆる意味で最も「ヤバイ」人であることが再確認出来たと思う。

ではスターリンがいなかったらロシア・ソヴィエトはどうなっていたのか?「歴史にifはない」というこの「歴史のif」と現実に向き合い続けなければいけなかったのがスターリン亡き後のソヴィエト連邦であり現在のロシアである。これに比べれば「ヒトラーがかの交通事故で死亡していたら」のifや、「神国日本ではない大日本帝国」のifの方がまだ簡単に見える程の大難題に感じる。前者は少なくともホロコーストは起きなかったであろうし、なんといっても前者も後者あそこまでヤラかしてドイツも日本も「敗けて」いるのである。しかしスターリンはありとあらゆるものを犠牲にしながら工業化を押し進め、歴史に残る甚大なる犠牲の上で戦争に「勝った」のだ。ではロシア・ソヴィエトはあの状況であの工業化なくして勝利はあったのか(ここにはヒトラーが存在するという前提があり、ifは二重になり更にややこしい)?では戦争に勝利できたならこれ程の犠牲は「致し方なかった」で済む話なのか?ではゴルバチョフが声明を出したように「良いところも悪いところもあった」で済むような次元の話なのか?現在も続くスターリンに対する正当な歴史的評価は最後まで読んでも私には判断出来なかった。

とはいえ、今でもロシア国内でスターリンの評価がこうして国内外とで大きく分かれる理由の一旦は確実に一つ掴むことが出来た実感がある。

本書は資料の少ない少年・青年時代の動向をよくぞここまで詳細に、という点もありつつも、むしろ資料が揃っているはずの「スターリン」時代の動向・思考への記述の少なさがやや気になるものの、著者としては「それは既にありとあらゆる世界で論じられきっているので」という前提なのだろうと納得し、己の基礎知識の無さを恥じ入るのみである。

個人的に、これで大日本帝国・ナチス ヒトラー・ソヴィエト スターリンについての書籍をざっと読み終えたことになるけれど、こうなるとその前提としての世界大恐慌が社会に与えたインパクトと、スターリンに続く毛沢東の知識がなければ理解できないことが多すぎることに気付き(そしてもちろんチャーチルにルーズベルトにも理解が足りない)、読めば読むほど分からない部分が増えていく混乱にのまれている正月だった。

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Posted by ブクログ 2019年09月13日

【スターリンは今もなおロシアと外部世界の間にあって、両者の関係を示す重要な指標なのである】(文中より引用)

「非道な独裁者」として語られる一方、少なくない数のロシア国民から今なお高く評価されているスターリン。ロシアという窓を通し、スターリンについて、そしてスターリンという窓を通してロシアについて思...続きを読む考を巡らせた作品です。著者は、『東アジアのロシア』等を世に送り出している横手慎二。

これまで数多くの評伝が数多くの評価と共に著されてきたスターリンですが、近年までに公開された資料に基づき、その評価の幅までをも射程に収めて概観した有意義な作品。スターリンという人物がどのようにロシアにおいて語られているかを考える上でとても参考になりました。

コンパクトにまとまっていて☆5つ

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Posted by ブクログ 2015年02月21日

終章に書かれてあるロシア人のスターリンに対する評価が興味深いです。
これほど手軽にまとまった形でスターリンについて読めることに感謝。
追記)最近某政党の最高幹部がスターリンについてインタビューに答えたものを目にする機会があったけど、この本を読んでから見たせいか、「お気楽だな、おい」という感想しか出て...続きを読むこなかったです。

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Posted by ブクログ 2015年01月03日

有名すぎるソ連の独裁者、その生涯と、その行動に対する分析、国内と諸外国の評価など、多岐にわたる視点から書かれています。スターリンとはどういう人だったのか、なぜあのような判断・行動をしたのか。当時の帝政ロシアからソビエト連邦への変遷の中での人々の思い、希望なども交えつつ書かれていますので、非常に分かり...続きを読むやすかったです。

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Posted by ブクログ 2014年09月18日

“スターリン”の少年期から晩年に至るまで、様々な研究や論考や史料に依拠しながら、行動と性格、或いは行動の理由と性格形成のようなことも交えて語っているものである。また全般に、「スターリン視点で語るロシア革命と大戦間期と第2次大戦や戦後の通史」という体裁でもあり、非常に興味深い。

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Posted by ブクログ 2014年08月25日

青年期から殺伐とした革命運動に身を投じた結果、政治における組織論の重要さに早くから気づき、また組織内の敵・味方を峻別する鋭敏な感覚を身に付けていったスターリン。その結果、彼は革命成就後も「社会主義-資本主義」という国家外部におけるイデオロギーの対立を国家組織内部の「体制-反体制」という構図に投影して...続きを読むしまう。これが第一次世界大戦におけるそれよりも多くのロシア国民犠牲者を出し、後世まで彼の評価が定まらない最大の原因である「大粛清」に繋がったと著者はみる。

本書の出色はレーニン没後の共産党内部における権力闘争の記述。第一次世界大戦により荒廃した産業の再建策についての深刻な対立の結果、スターリンが政敵として後に追い落とすトロツキー等の主張に結局は沿った形で(しかし方法としては比較にならないほど苛烈なやり方で)農業を犠牲にし工業の発展を優先するに至るまでの経緯が、当時のロシアを取り巻く国際情勢やスターリン自身の性向と絡めながら理路整然と描写されており、非常に判り易い。

本書で紹介されるスターリンの少年期の詩や、レーニンの著作を詳細に読み込んでいたというエピソードからは、自分が心酔する対象に無心に打ち込む「素朴な優等生」というイメージが浮かび上がる。この一途さが農民の虐待や大粛清等に寄与した一方で、(政治的要請によるものではあっても)少数民族の権利を尊重し、ロシアそのものの国内事情を重視する「一国社会主義」の提唱、さらには工業化の成功による第二次世界大戦の勝利など、ロシア国民によりアピールする結果に繋がったのは間違いないだろう。ある国における最大の成功と最大の失敗の原因が同時に一指導者に帰せられるとしたら、彼に一体どのような歴史的評価がなされるべきなのだろうか。

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Posted by ブクログ 2014年08月13日

スターリンの伝記。彼は決して生まれながらの「怪物」だったのではなく、家族を思いやる普通の人間であったことが分かる。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年01月24日

やはり人を中心としての歴史の方が分かりやすいので
大河ドラマは人気なのだろうか。

本作はスターリンの一生を当時の情勢を含めて(多分)さらりと紹介している。
(側近や条例など、掘り下げようとすればもっと分厚い本となるだろうが、初心者にも手に取りやすい一冊であった)

出生年代が不確かだったり、父親疑...続きを読む惑や貧しい家庭、地方出身というのは意外であった。
(また、家族が結構不幸というか、幸せな一家団欒ではないのだなぁ。。)

断言せず、可能性を示唆したり、違う方面の情報も紹介してくれたりと 
可能性の一部として提示してくれているので更にとっつきやすいかと思う。
ジョブズ氏も一緒に働く事で同僚に嫌われたりしたし
スターリンもどんどん周囲の人を逮捕しているし
当事者がどんな対応をされたかによって印象は変わるだろう。。

今コロナ禍で 確かにスパッと決めてくれた方が楽な方面もあるので 正しいかどうかはあるけれど
強烈な指導者というのを歓迎する風潮も分からなくはないかなぁ、とも思う。
後、交代すると前任者の方がよかった となるような。

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Posted by ブクログ 2021年12月21日

ソ連という国に興味を持って購入。スターリンを通してロシアを理解するという趣旨には叶っていると思う。個人的には独ソ戦の顛末なども学べて良い本だと感じた。

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Posted by ブクログ 2021年08月02日

基礎的な知識があることを前提とされているが、それでも読みやすい良書だと思う。
淡々といろんな側面からの考察がなされているが、それがゆえに「非道の独裁者」感がマイルドになっている感じもある。
それがあっても、勉強になった。

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Posted by ブクログ 2015年10月22日

スターリンという人物ほど評価の分かれる人はいない。しかも、ソビエト連邦を率いた独裁者だけあって経歴の謎の部分が多い。
本書はスターリン関係の研究や書物を幅広く取り上げ、スターリンの経歴や評価について紹介されている。

読んでて、スターリンの人生の中でのポイントと思われるのは、まずはグルジアに生まれた...続きを読む育ったこと。いわゆる「ソソ」の時代。そしてカフカース地域で生きたことで民族問題に取り分け関心があったこと(これが現在のロシア民族問題につながっていく)。幼少期の家庭環境や神学校時代に馴染めなかったことなど様々な事象がある。

次に神学校から退校処分後の「コーバ」の時代。社会革命に共鳴し、地下活動を開始。1903年にはロシア社会民主労働党ポリシェヴィキに属し、潜伏活動。捕まればシベリア流刑という死と隣り合わせの時期である。この時期にスターリンの疑り深い人格が形成されていく。
この時期に出会ったレーニンの影響も計り知れない。レーニンの「赤テロル」など強硬な手法は後のスターリンにも引き継がれていく。

ロシア革命後の政争、カーメネフ、ジノヴィエフとの争い。トロツキーとの争い。この時期になるとスターリンのしたたかさが滲み出てくる。

1928年より、スターリンの否定的評価の土台となる数度の「5ヵ年計画」が実行される。当時はイギリスとの関係も悪化しており(後に対ドイツで協調に転換)、目下の課題は工業力であり軍事力であった。
工業力を高めるためには資本を工業分野に投入する必要がある。そのためスターリンは農民の中でも富裕と見なした者から膨大な税を課し、その他農民からも搾取した。この施策により、死者数は数百万とも数千万人とも言われている膨大な人数であり定かではない。

さらに1930年代以降は粛清の嵐である。三人法廷(トロイカ)を設け、ジノヴィエフやカーメネフ、トゥハチェフスキーらが処刑されていく。さらにキーロフやトロツキーの暗殺などもある。

そして第二次世界大戦では例えば1939年フィンランド戦争、1941年から始まったドイツのソ連侵攻の際の攻防戦では、大人数の軍隊の突撃戦を繰り返して膨大な死者を出している。これは1939年ノモンハン事件の際にソ連軍死者数は日本軍死者数の約10倍という数からも無謀な作戦であるということが分かるだろう。
ただし、結果的にスターリンは第二次世界大戦の勝者となり、戦後すぐもアメリカとの協調関係は維持する必要性も理解していたらしい。この点は政治家スターリンの凄さと言えよう。

そういう意味では戦後の医師団事件やメグレル事件などのでっちあげ事件はスターリンの晩年ということもあり、耄碌した末に起こしたのかもしれない。

上記に書き連ねたようにスターリンの歴史を紐解くと人間スターリンが垣間見えると同時に、スターリンの功罪も少し見えてくる。この功罪を今後どう評価していくかが課題となるのだろう。

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Posted by ブクログ 2015年09月11日

スターリンという人物の概略を知りたかったので読んでみた本。著者のいうところでは,一般に持たれているような残虐非道の政治指導者ではなく,国内外での評価も相半ばしているそうだ。

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Posted by ブクログ 2015年08月17日

スターリンを再検証する一冊。特にソ連後のロシアでの評価が興味深い。国内と外国とでこれだけ評価が分かれる人物ってすごい。
歴史で語られる、つまり著者が言うところの一般のスターリンに対する評価以上のものは持っていなかった。
なぜスターリンが集団農場化を進めたのか、大虐殺はどんな文脈のうえにあったのかがよ...続きを読むく分かる。非道としか言いようがない。でもどんな革命もテロ無しには存在しない。フランス革命も相当なものだったわけだけど、歴史は敗者が語るものではないからね。
第二次世界大戦の最大の勝者はスターリンなんだと思う。人道的側面に目を瞑れば、やっぱり凄い人物だったとしか言いようがない。

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Posted by ブクログ 2015年02月14日

スターリンの生涯を概説しつつ、その評価を試みる一冊。
評伝としてもよくまとまっており、
分かりやすく彼の生涯を辿ることができる。
その一方、彼の評価がいかに難しいかを
多くのページを割いて記しており興味深い。
人が人の一生涯を裁くことの難しさを垣間見る。

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Posted by ブクログ 2015年02月11日

スターリンが「非道の独裁者」であったことは確かだが、むしろ彼はレーニンの赤色テロに学んでいる。1990年代以降の解禁文書で明らかになったレーニンによる戦慄すべき指示が、そのことを示している。

さらに言えば、当時のロシアの経済状態や、干渉戦争・侵略戦争にさらされるという強い留保が必要だとはいえ、国家...続きを読む権力を奪取して「プロレタリア独裁」を通じて社会主義革命をおこし、革命プロセスを遂行するということは、こうした暴力によらざるをえないのではないか、ということになってしまうのではないか。

とすると、国家権力の奪取によって社会主義革命を成し遂げるということそれ自体に、「スターリン」がすでに内在していたのではないか。逆に言えば、「スターリン」を出現させないような社会主義革命がもし可能だとすれば、それはどのような道によるのか。そうした問いが立てられるのではないか。

旧左翼が言うように、「別の道」は本当にありえたのだろうか。

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Posted by ブクログ 2014年12月19日

極悪独裁者のイメージであるスタリーンの人生を振り返り、スターリンの功罪を客観的にみようとする著作。統治者として、現実的な見方をしていた点が意外だった。現在のロシアとの関わりがもっと記述さているとさらに良かった。

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Posted by ブクログ 2014年10月13日

非道の独裁者として、ヒトラーや毛沢東と並び称されるスターリン。
政敵への粛清、農村からの収奪・飢餓…
しかし一方で、五か年計画などによる重工業化の推進と軍備の整備は第二次大戦の戦勝国に結びつく。
ロシアでもその評価は大きく分かれると言ふ。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2014年09月07日

スターリンとか独裁者はイメージがつけやすいから、みんな知ったような気になっている。とりあえず悪党。でもロシアでは偉大な人でもある。こういう人物こそきちんと知っておかなければいけない。

大事なのは、なぜ悪いのか。なぜ悪いことをしなければならなかったのか。冷静に知識を得ること。

 この本は広く浅くス...続きを読むターリンを知る本である。そしてスターリン寄りのところもある。各歴史的事件についてウィキペディアを見ながら読むといい。

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p14  父の暴力、母の愛
 スターリン(ソソ)は幼少期に酒飲みの父に母子ともに暴力を振るわれたと言われる。それ故に優しくしてくれた母への愛と英雄思想が生まれたという研究もある。しかし、当時のロシアでそういう家庭は珍しいものではなかっただろうから、それが決定的とは言えないから注意されたい。


p27  スターリンの性格
 スターリンの性格を幼少期から検討しているものは、独裁者としての彼のイメージに合致する資料を用意してきているように思える。詩才などをみても、幼いころからそんなに暴力的だとは判断できないと思われ。
 むしろ、学業も優秀で、詩の才能もあり、家族を愛する手紙など、多彩な才能の持ち主であったことだけはわかる。

p33  クリミア戦争
 クリミア戦争で英仏に敗北したロシアはヨーロッパでの後進性が露呈した。アレクサンドル2世は近代化政策をとり、農奴解放などを実施した。当時の知的エリートはクリミア戦争での敗北をきっかけにヨーロッパの先進的思想に強い興味を抱き始めた。社会主義や無政府主義など新しい社会にあこがれ、それを獲得するには革命が必要であるという考えに至った。クリミア戦争が大事な契機である。


p56  スターリンの若かりし頃
 スターリンの若き日々は革命の実行部隊だった。社会主義の勉強は浅かったようで、漠然とした革命的ロマンティシズムに没頭する男だった。若いころから功名心や支配欲に囚われた腹黒い人間というよりは、もっと単純な人間だったようである。


p59  スターリンと十月革命
 ボリシェビキが権力を集めた1917年十月革命。この時スターリンはボリシェビキの古参の党員として頭角を現し始めた。それまでは理論よりも実行力を重視する革命家だったが、1903年シベリア流刑から徐々に経験に基づく革命思想を持ち始めたようである。


p90  スターリンの論文(民族自決について)
 スターリンは民族自決についての論文を書いており、ロシアに多数散在する少数民族の自決権を社会主義は擁護すると述べている。この主張がロシア共産党のその後の少数民族からの指示につながった。


p92  スターリンとレーニンの考えの違い
 レーニンはヨーロッパの先進的社会主義をロシアでも実現させることを考えていた。理論重視だった。
 スターリンは理論よりも現実の社会主義革命の達成を優先していた。革命が達成すればスムーズに社会主義への移行が始まると単純に考えていたようである。この点、小難しい理論派よりも活動的なスターリンの方が民衆にとって身近で理解しやすい存在であったようである。


p144  組織腐敗のしくみ
 ロシア共産党の人事制度に「ノーメンクラトゥーラ制」というものがあった。建前上階級の存在しないソ連では政治の要職に就くものを名簿(nomenclatura)に登録し、そこから順次割り当てるという制度にした。その結果、その名簿に載って要職に就くのは共産党に忠誠を尽くす者のみになり、共産党の一党独裁は完成した。これは1923年から始められ、早い時期から共産党の支配が可能な仕組みができていたのである。
 「スターリン詣で」という役職斡旋のご機嫌伺いもあった。


p187 スターリンの権力欲
 1932年の段階で、第二次大戦を乗り切るにはロシアに急進的工業化が必要であるとスターリンは政策を強行した。都市化の進行と輸出のため厳しい穀物調達を実行し、ウクライナなどでは飢餓も発生した。この政策に対抗し、党を除名されたり逮捕された者が多数出た。
 この時のスターリンの権力欲は、彼自身が折れたら政策が水の泡になり結局ロシアの破滅しか待っていないという強い義務感にも支えられていたのだろう。それほど権力に縛られていたのである。


p203  粛清の責任
 1936~38年の間に政治犯として134万人がとらえられ、68万人もの人が処刑された。当時の政治犯は党への抵抗者だけでなく、政策事業の失敗者も破壊工作者として責任を負わされたり、スパイ嫌疑をかけられた当上層部の妻や愛人、聖職者など党の方針に従がえない者、スパイ嫌疑のあるドイツや日本に近い異民族の人々など幅広かった。これはスターリンによる手が下されただけでなく、地方官の責任転嫁の犠牲や政治闘争の謀略などもあり、厳しい規則の負の側面の暴走という側面もある。スターリンの持つ政治目標を達成するための強すぎる意思が、いつのまにか正義の感覚をマヒさせた。それ故に「大粛清」は起きてしまったといえる。粛清の原因はスターリンの人格だけで片づけられるものではない。


p226  スターリン背水の陣
 1942年のドイツ戦線で敗北を重ね、スターリングラードや南カフカスが危機的状況になったスターリンは、軍に厳しい指令を発した。戦時に戦地撤退など弱気を見せた士官を集めた部隊を被懲罰部隊として激戦地の前線に配置し、さらに士気の上がらない師団の背後に特別阻止部隊を置き、逃げ出すものは打ち殺すという恐怖指令を出した。大戦力をつぎ込んで戦果をあげられないソ連軍に背水の陣をしかせた。


p227  スターリンの厳格さ
 スターリンの最初の妻との息子が1941年にドイツ軍の捕虜になった。ドイツはそれを利用したがスターリンは息子を特別扱いすることなく、息子ヤコフは捕虜収容所で亡くなった。「ヤコフはどんな死でも母国の裏切りよりも望んでいる。」スターリンは母の死に目に会うことなく、自分の政務を優先している。それほど党首として厳格な意識で職務についていた。


p228  戦術と戦略の区別
 スターリンはあくまで実務的な人間で、戦地での戦術と戦略の区別を持っており、きちんと戦術は指揮官に任せ、自分は政治的戦略に注力した。士官への信賞必罰の態度をきちんと持っていて、実に冷静であった。


p239  ドイツ分割への懸念
 第二次大戦後のスターリンの懸念は米ソ対立になかった。そもそも資本主義の発展版が社会主義という理念だから、あんなに過激な冷戦になるとは予想しなかった。それよりも、ドイツや日本が復讐戦を始めることの方を危惧していた。ナポレオン戦争で分割されたドイツはその時から愛国主義者が力を持ち始めて、のちの普仏戦争での強さを見せた。その再現を防ぐため、ドイツの分割は繊細に扱うべきだと考え提案していた。冷静な指導者である。


p248  ギリシアへの内政干渉
 スターリンは戦後に米ソで対立する気はなかった。それほどの余力が残っていなかった。しかし1946年のギリシア内戦でソ連がギリシアの共産政府を支援すると米英はトルーマン・ドクトリンを発してそれに対抗してきた。ソ連はその支援がギリシアへの内政干渉にまでなるとは考えていなかった。米英とむきに争うほどギリシア情勢はソ連にとって重要ではなかった。ソ連はギリシアへの支援を中止し、ギリシアは民主主義国として独立したが、スターリンは米英のソ連への姿勢を疑うようになった。


p250  マーシャルプラン
 スターリンが米国と覇を争う意志を持ったのはこの政策が出されたから。マーシャルプランは、戦後のアメリカの経済調整策(モノ余りを輸出する)の側面と民主主義勢の拡張という対外政策の側面がある。
 ソ連も戦後の疲弊はひどく、マーシャルプランの援助は受けたかったが、対抗者の施しを受けるのは共産主義の指導的立場として憚られた。スターリンはこれをもってアメリカがソ連の弱体化を狙っていると確信した。これに対抗してコミンフォルムを作った。


p267  朝鮮戦争
 ソ連は朝鮮戦争に積極的に加担しなかった。米ソの軋轢を深めることをしたくなかった。支援部隊も中国軍に偽装し、表立たないようにした。


p277  スターリン欠乏症
 ソ連国民はスターリンの死に涙した。ソ連を偉大な力で牽引してきた指導者の死は、人々をある種の不安に陥れた。
 たしかに酷いこともあったが、スターリンがいなければソ連が自壊していたかもしれない。彼に頼っていたところも多分にあった。拠り所を失ったとき、人は自然と感情的になる。
 スターリンにより人生が狂ったものもいる。しかし、その者も彼の死に涙した。自分の人生を解雇して泣いたのか、将来への光が見えて泣いたのか、いずれにせよスターリンの存在の大きさを物語る。
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 スターリン寄りの本だった。しかし、それだけのものがあった。
 スターリンはイヴァン雷帝かピョートル大帝か。毛沢東かポルポトか、それともナポレオンなのだろうか。
 

 しかし、スターリンはやはり時代が生んだ巨大な指導者だったと思う。月並み。

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Posted by ブクログ 2014年08月19日

冷酷な独裁者としてのイメージが強いスターリンだが、ロシア国内では依然として支持する声が多い(ロシアで最も偉大な政治家は誰か、というアンケートで3位になるほど)。
スターリンは何をしたのか。何が国民を惹きつけるのな。ヒトラーとの違いは何なのか。湧き上がる疑問を、生い立ちから歴史を辿り答えてくれる。
...続きを読む史を評価する際に、政治と倫理という異なる尺度が混在すると問題が複雑になるのだと、考えさせられた。

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Posted by ブクログ 2014年08月07日

どんな難問でも自分こそが解決できるという自負心と、どんな失敗をしても絶対に自分の非を認めず全て他人に責任転嫁できるだけ厚顔さがないと、”独裁者”にはなれない。
何が詩を書く少年から独裁者へと変貌させたのか、興味はつきない。

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Posted by ブクログ 2020年03月03日

第二次世界大戦〜独ソ戦からの流れでスターリン。スターリンの本はあまり良いのが見つからない。何が決定版なんだろう。この本は新書だし、一通り流れが分かるので、そこは良い。ただどうも違う。スターリンはもっと残虐なはず。マオを読んだ時のあのもういいからと言う残虐さのリピートがない。すごくあっさりしている。新...続きを読む書だからかな。後は筆者が本当はそんなに悪い奴では無かったのではないか、と言う見方もロシア内にはあると言うスタンスで買いているからもうある。ただスターリンにしてもソ連崩壊後色々な資料が出てきたりしているし、終戦の近い所で書かれたものよりも新しい書を読むべきなのかもしれない。

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Posted by ブクログ 2016年06月06日

スターリン 鋼鉄の人

なんと、本名ではない。何となく知っていたスターリンのことがよくわかる。 辺境の少数民族に対する迫害、
テロルを行ったが、自分自身もグルジアの出身。 よくわからないメンタル。 大局を見据えての行動か、はたまた他人の痛みに鈍感な権力の亡者…。 人口が多いと扱いも雜。毛沢東然り。

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Posted by ブクログ 2015年02月20日

ソ連史について殆ど予備知識なく読んだが、このスターリンという男は、農民を餓死させ、妻を自殺に追い込み、側近を粛清しまくったという、ある意味イメージ通りの超絶非情な人物であった。唯一評価できるのは、ヒトラーを打ち負かしたという一点ではないだろうか。某元都知事や某新聞社オーナーがまるで少年のように思えて...続きを読むきた。

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Posted by ブクログ 2014年10月05日

スターリンについての本。スターリンについて知りたいって人についてはこの本で彼の実態に迫ることができる。だけど、分厚い本と比べてみると描写が簡素化されている部分があるので個人的には物足りなかった。

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