【感想・ネタバレ】石垣りん詩集のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

今日は2020年8月15日、75回目の終戦の日です。
終戦といって真っ先に浮かぶ詩です。

「崖」
戦争の終わり、
サイパン島の崖の上から
次々に身を投げた女たち。

美徳やら義理やら体裁やら
何やら。
火だの男だのに追いつめられて。

とばなければならないからとびこんだ。
ゆき場のないゆき場所。
(崖はいつも女をまっさかさまにする)

それがねえ
まだ一人も海にとどかないのだ。
十五年たつというのに
どうしたんだろう。
あの、
女。


そしてもう一篇。
1951年に書かれた詩だそうです。

「雪崩のとき」
人は
その時が来たのだ、という

雪崩のおこるのは
雪崩の季節がきたため と。

武装を捨てた頃の
あの永世の誓いや心の平静

世界の国々の権力や争いをそとにした
つつましい民族の冬ごもりは
色々な不自由があっても
また良いものであった

平和
永遠の平和の銀世界
そうだ、平和という言葉が
この狭くなった日本の国土に
粉雪のように舞い
どっさり降り積もっていた。

私は破れた靴下を繕い
編物などしながら時々手を休め
外を眺めたものだ

そして ほっ、 とする
ここはもう爆弾の炸裂も火の色もない
世界に覇を競う国に住むより
このほうが私の生きかたに合っている
と考えたりした。

それも過ぎてみれば束の間で
まだととのえた焚木もきれぬまに
人はざわめき出し
その時が来た、という
季節にはさからえないのだ、と。

雪はとうに降りやんでしまった。

降り積もった雪の下には
もうちいさく 野心や、 いつわりや
欲望の芽がかくされていて
”すべてがそうなってきたのだから
仕方がない”というひとつの言葉が
遠い嶺のあたりでころげ出すと
もう他の雪をさそって
しかたがない、しかたがない
しかたがない
と、落ちてくる。

ああ あの雪崩
あの言葉の
だんだん勢いづき
次第に拡がってくるのが
それが近づいてくるのが

私にはきこえる
私にはきこえる


「今からほんの半世紀前には、現代詩にがこんなに率直に平和や社会についてことばを発することができた時代だったということに私は詩人として驚いている」と解説の伊藤比呂美さんがおっしゃっています。
非常に何か恐ろしいことが起こる前触れのような怖い詩のような気がしました。
伊藤さんは「今、それができないのが情けないとも言いたいが、実はそんな表現をしないで済んでいるこの時代に詩を書くことができてほんとうによかったと思っている」ともおっしゃっています。


「私の前にあるお鍋とお釜と燃える火と」「不出来な絵」「表札」「くらし」「兵士の世代」「すべては欲しいものばかり」「犬」も心に残りました。

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2020年08月15日

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