あらすじ
インカ帝国がスペインにあっけなく征服されてしまったのは、彼らが鉄、銃、馬、そして病原菌に対する免疫をもっていなかったから……と言われている。しかし、もしも、インカの人々がそれらをもっていたとしたら? そしてスペインがインカ帝国を、ではなく、インカ帝国がスペインを征服したのだとしたら、世界はどう変わっていただろうか? 『HHhH──プラハ、1942年』と『言語の七番目の機能』で世界の読書人を驚倒させた著者が挑んだ、大胆かつ魅力溢れる歴史改変小説。常に事実とフィクションについて考え続けるローラン・ビネならではの傑作。アカデミー・フランセーズ小説大賞受賞。/【目次】第一部 エイリークの娘フレイディースのサガ/第二部 コロンブスの日誌(断片)/第三部 アタワルパ年代記/第四部 セルバンテスの冒険/訳者あとがき
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Posted by ブクログ
『歴史が判断を下してから時が経った出来事を、こうしてあとから振り返ってみると、当時のことにはすべて意味があり、鳥の飛翔さえ確かな予言になっていたと思えてくる。しかしながら、刻々と過ぎゆく現在の真実〟というのは、もちろんあとから想像するよりずっと熱く、騒々しく、生々しいものではあるけれど、多くの場合"過去の真実"よりも、時には"未来の真実"よりも不確かな様相を呈するものだ』―『第三部 アタワルパ年代記/1 コンドルの落下』
ローラン・ビネの小説を読むのは、これで三冊目。訳者あとがきにも紹介のある通り、この作家の最大の特徴は歴史的事実と虚構の巧みな綯い交ぜにある。一作目の「HHhH―プラハ、1942年」ではナチスによるユダヤ人大量虐殺の首謀者とされるラインハルト・ハイドリヒ暗殺事件を取り上げ、続く「言語の七番目の機能」ではロラン・バルトの事故死を題材に、各々史実を織り交ぜた物語を巧みに描いていた。
一作目は、歴史的事実に完全に則した、いわば歴史小説であって、実在の人物たちの視点に立った話が暗殺事件に至るまでの時間の流れに沿って記される。暗殺の瞬間までの攻防によって緊張感が徐々に高まる展開の小説だった。二作目は、実際には事故死であったロラン・バルトの死に秘せられた理由があると想像を膨らませた空想小説で、実在の哲学者たちを数々登場させながら、ひょっとしたら高名な学者たちの間にそういう会話があったのかも知れないと思わせるような逸話を(実際の出来事の裏側で)描きつつ、その死の謎に迫る推理小説のような展開の緊張感を強いる小説だった。
面白いと思うのは、一作目よりも二作目の方が歴史的事実とは異なる空想が拡がり、三作目となる本書ではその空想の部分が更に膨らみ、スペイン人によるインカ帝国征服を逆転させ、新大陸の民族によるヨーロッパ支配という大胆な歴史反転小説へと、変化の度合が進んでいること。尚且つ、そこに実際の歴史的な事実や登場人物たちを散りばめ、歴史上の出来事というコインの裏表の偶然を逆転させた逸話でもう一つの在り得た正史を語るという構成は、中々に興奮を強いる構図だ。
但し、本の構成そのものが年表にある記載あるいは年代記風の文章と残された手紙あるいは手記の抜粋の混合で、かつ比較的短い章の連なりという形式故に、これまでの作品ほどの緊張感は読んでいても生まれない。読み始めて直ぐに、これは本当にあのローラン・ビネの小説なのかと思ってしまう程の緩さがあるのだが、前作同様に丹念な下調べによる歴史的事実の取り込み(とは言え、それを言わば裏返して提示するのだが)はやはりこの作家ならではの特徴だろうと思う。世界史に疎い自分は、各章末にある訳者による註を随時読みながら本文を読み進めて、なるほどと何度も思わされた。
読みようによっては、この本は反語的西欧文明批判と解釈できないこともないけれど、恐らくそれが本書の主題ではないような気がする。むしろ、歴史の偶然性あるいは可能性に対する思考実験に娯楽性を足し合わせた作品として読んだ方が面白いと思う。そんなローラン・ビネの思考実験の結果は、残念ながら現代にまで続くサーガとしては描かれないのではあるけれど、祖国を追われたインカの皇帝の年代記である第三部の展開、そして後日談的な第四部へと続く展開は、読むものを先へ先へと誘うことは間違いと思う。そして最後に、セルバンテスが新大陸でどんな物語を描き、エル・グレコがどんな絵画を残したのだろうかという余韻を残して本は閉じられる。
Posted by ブクログ
HHhH、言語の7番目の機能の著者ローラン・ビネによる歴史改編小説。インカ帝国がヨーロッパを逆に征服していたらという歴史ifもの。章ごとに記述方法がことなる年代記風の作品で、第1章をアイスランド人によるアメリカ大陸進出を読んだときは不慣れな歴史をベースにしていることもあり、つらいかと思ったけれど、コロンブスが登場する第2勝ぐらいから興に乗り始め、インカ帝国がヨーロッパに進出する第3章はめっぽう面白い。歴史的な知識がある方が楽しめるのは間違いなく、自分も完全に楽しめた自信はない。第4章はオマケみたいなものだけれど、セルバンテスとグレコ、モンテスキューの対話はモンテスキューの思想家としての面目躍如という感じ。セルバンテスがモンテスキュー夫人に恋するくだりはドン・キホーテそのもの。
他の作品も読みたい。
Posted by ブクログ
いわゆる歴史改変小説で、インカ帝国が滅びずにヨーロッパにやってきて、あれよあれよと、というていでお話は進行する。年代記風の文体で書かれていて、まさに見てきた風な内容で、華麗に逆転の歴史が展開するのは見事としか言いようがなく、まぁ荒唐無稽ではあるのだけど、あながちそうとも言い切れない感が醸し出されているので、歴史好きほどクスリとかニヤリとかしながら楽しめると思う。
Posted by ブクログ
インカ帝国は1533年にピサロ率いるスペイン軍によって滅ぼされた。が、もし、インカ帝国軍が海を渡り、逆にスペインを征服していたらどうなるか?が描かれた歴史改変小説。
僕は世界史が苦手で知識がほとんどない。歴史の知識があればあるほどこの小説を楽しむことができただろうと思うと、残念で仕方ない。
ジャレド・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」にヒントを得て描かれたそうなので、もしこれから読まれる方がいらっしゃいましたら、こちらも参照されるとより楽しめるかもしれません。
Posted by ブクログ
自分にとってはHHhH以来のローラン・ビネ作品。とても面白い。
ラテンアメリカに大型の家畜になる哺乳類や鉄を使う文明が伝わっていたらどうなれたか、という高度な知的遊戯のような歴史改変物語。気高いアタワルパの物語はなんとなしに痛快感がある。それは宗教が多くの人の命を奪った歴史を知っているからだと思うけど、ヨーロッパの行った暗い歴史に対するヨーロッパの人々の思いとはどういうものなのか。この小説がヨーロッパでも高く評価されるのをみると、ちょっとよくわからない。
Posted by ブクログ
「HHhH」の著者の新刊と言うことしか知らないまま読んでみた。大帝国インカが寡兵の探検隊に滅ぼされた理由とされる「銃・病原体・鉄」をヨーロッパによる征服以前からインカ帝国が手にしていたらどうなっていたか、ある種の架空戦記モノ。
インカから漂着してヨーロッパを制圧したアタワルパの物語が中心でおまけみたいにその前後談かあるんやけど、やはりカール5世やフランソワ1世、ヤコブ・フッガーやロレンツォ・メディチといったヨーロッパ史のオールスターみたいな中で異物たるアタワルパが大暴れするところがええよね、と思いつつも、おまけでええからその後の近世、近現代史も読みたいと思ったり。
Posted by ブクログ
200人のインカ軍が欧州を征服してゆく展開が面白いが、世界史の授業では触れられないルターの言動が優れた文明が勝ったとわからせる
『銃・病原菌・鉄』は読んどくべき
Posted by ブクログ
そもそもの世界史の素地が無いのに読み始めている。
かつて『銃・病原菌・鉄』を読んだときに、何故、インカ帝国がスペインに滅ぼされたのか、納得していたので、この本がフィクションとは分かっていたけれどうっかり集中してしまって、楽しい読書時間となった。
何しろ、整合不整合も分からないままの読書なので、本気で楽しいとは言い難い、恥ずかしいけれど。
こういった本が世間の方々にもっと認めて頂けたのなら紙の書物、こんなに危機感を感じることはないのかも~
老婆心ながら、余計なことまで考えてしまったを
Posted by ブクログ
インカ帝国がヨーロッパを征服する歴史改変小説
歴史の転換点の多くは偶然性に依るのだから、JDの名著「銃・病原菌・鉄」とは真逆の世界線が起こっていてもおかしくはない
史実とフィクションが入り混じり、妄想か拡がる
前作「HHhH」といい、文学界の新鋭だなー
Posted by ブクログ
ヨーロッパ(スペイン)人によるアメリカ大陸発見と侵略の歴史を逆転し、インカ人がヨーロッパを征服するという歴史改変小説で、逆転パロディみたいな話。第一部〜第二部は、前日譚でごく短く、本書のほとんどを第三部の「アタワルパ年代記」が占めている。
おそらく大半はカール五世の事績をアタワルパに置き換えて語っているのだと思うけれど、この時代のヨーロッパ史に通暁しておらず、なんとも言えない。詳しければもっと楽しめたのかも。「年代記」というように、記述もわりと淡々としていて、あまり心躍る感じでもなかった。強いて言えば、セルバンテスがメインで、エル・グレコやモンテーニュもでてくる第四部が一番面白かったかな。
この話のとおりに歴史が進んでいたら、今ごろルーヴルのピラミッドはメキシコ風の太陽神殿だったんですかね(パリはメキシコ人によって陥落)。宗教的・人種的寛容などについて、いろいろと考えさせられる本ではあった。知識を深めてから、再読してみたい(時間ないけど)。
※この版元は校正が甘いのか、誤植がちらほらと。註番号が抜けていたりするのは、さすがにいかがなものかと思いましたわ。
Posted by ブクログ
新大陸から旧大陸の征服は、疫病の力を使えないので、どうしても現実感に欠けてしまう(新大陸人が免疫を持っていたとしても、その点で対等になるだけで、史実のコンキスタドールのような少人数で多数を征服するのは不可能。)。